2014.12.02 Tue
今こそ考えたい「女性のからだと仕事」の「歴史編」に続く「現在編」です。「経済効率、強者優先の時代に~女性のこころとからだ」と題して、講師に北田衣代さん(産婦人科医・きただ女性クリニック)をお迎えし、学習会をもちました。
冒頭、若い世代の母性に関する意識について、2名の方から問題提起がありました。ひとりは「非常勤で働いているが、契約更新の事を考えると体調不調でも仕事を休めない、働くことと自分をケアすることが結びつかない。」また、もうひとりは「生理休暇をはじめ、母性の権利が獲得されてきたが、産まない人産みたくない人にとっても、その機能は保護される必要があるのか、母性という言葉に違和感がある。」というおもいでした。
北田さんのお話は、まず、「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」から始まりました。リプロダクティブ・ヘルス・ライツとは、「女性の性と生殖機能、健康に関する権利」であり、北田さんは、ほぼすべての女性が子宮や卵巣やそこからくるホルモンの影響や、そういうからだの特徴を持ちながら生き、そのからだをもつ女性の健康を維持する権利であるということ。それは、職場であっても学校であっても家庭生活であっても、どの場においても保障されなければいけないこと。不当な事にはNOの声をあげなければならない、それは産む産まないには規定されないと話されました。また、働くことと女性のからだというのは、長い間続くテーマですが、労働は、基本的人権であり、健康を求める権利と共存しなければいけない。からだのために仕事をあきらめざるを得ないということがないように、それが基本的人権である。しかし今の社会状況をみると、むずかしいことであり、そのことを考えていくのがこの場ではないかと話されました。
資料を使っての、女性と男性の骨盤の違いや、月経周期のメカニズムなどの説明の後、労働から女性のからだへどんな影響があるかを「月経に関するもの」「妊娠・避妊・不妊」「精神的症状・ストレス」「更年期」の4つのテーマについてお話されました。
「月経に関するもの」についてですが、生理中は作業能率が落ちるというデーターがあり、また、「生理休暇の取得と出産異常」のデーターでは、生理休暇を取らなかった人は取っていた人に比べ、出産異常の割合が高くなっています。それは、生理休暇を取れる職場の条件があるということは、妊娠・出産に配慮される職場であるという考察ができます。ただ最近ではこのような調査もむずかしく、生理休暇については、労働組合の問題もあるだろうし、労基法改悪(1985年の男女雇用機会均等法制定に伴っての、労働基準法での女子保護の規制緩和)後では、研究者やみんなの意識にものぼりにくいということです。
「妊娠・避妊・不妊」についてですが、「就労の有無と流産」のデーターでは、仕事を続けている人の流産率は非就労の人に比べ高くなるが、仕事をしていても業務軽減があれば違うということです。しかし近年、常勤で働く人の数が少なくなってきています。出産したら退職してしまう人も常勤の方が少ないです。パートの人は妊娠安定期に入る前に退職する人が多いです。出産により退職した人は、子どもを預けて働く条件が整っていないなど、しかたなく辞めた人が圧倒的に多いです。 出産に影響する不利益な環境では、経済的な理由がいちばん多いです。 また、子どもを産まないという選択も社会的な条件があり、経済的な理由が多いです。リプロダクティブ・ヘルス・ライツでは、産まない選択をした女性の労働を守ることも大事です。子どもを欲する「不妊」の女性にも労働というのは関係してきます。通院の問題であり、仕事をしていると、この日のこの時間に卵胞を見るのでという事で病院へ行ける人はあまりいません。様々なプレッシャーで仕事をあきらめることもあります。
「精神症状・ストレス」についてですが、精神症状・ストレスと女性の労働環境はとても関係があるということです。特にパワハラです。女性へのパワハラはセクハラの要素を含んでいることが多いです。女性が昇進していくためには、様々なハラスメントをはねのけていかなければなりません。ストレス、ハラスメントにより、こころが病んで身体症状があらわれてきます。また、男性も同じですが、仕事の評価が能率化に追われ、精神的負担が増しているということです。
「更年期」についてですが、からだのホルモンのバランスが変わりますが、職場の状況によって、更年期症状を強くしているものもあるとのことです。
女性の健康支援をどうするかについて、WHOは経済、社会政策、労働、教育など社会的基盤から考えないと女性の健康問題にはせまれないととらえていますが、日本の場合は個人の努力でがんばりなさいというしくみになっています。
最後に北田さんは、「貧困と暴力は、今や女性の健康の問題に直結しています。女性が安心して生活していくには、子どもを産み育てるにしても、自分で決めることができる、自分で決めたことができるというには、生活にゆとりがないとむずかしい。女性は自分の人生を切り拓き、自分の性を自分のおもいでいかしていきたいと思っても、ひれふさなければいけないことが今はいっぱいある。様々なことが重なり、自分のからだのことも考えられなくなったりするということがしばしばあるが、そこに踏み込まなければいけない。」と結ばれました。
司会者も、「はじめて知ることが多く、今まで語る機会がなかった、今日知ったことを運動にいかしていくことが、本当の意味でからだを大事にすることではないか」と感想を述べられました。
竹中恵美子先生からもコメントがありました。「なぜ日本で生理休暇が必要かについては、今日の題である経済効率、強者優先という日本の働かされ方が大きい。労働時間ひとつとっても、日本は週50時間以上働かせられている労働者が30%位いる。OECDのデーターでもダントツだ。日本の場合、女性のからだを守るため生理休暇という一定の「規制」はものすごく重要だ。単に労働だけでなく家庭のあり方など総合的にいろいろ問題はあるが、働かされ方、経済状況、労働条件を見据えて考えないと、女性のからだはぼろぼろになっていく。今日のテーマでもある生理休暇については、今の日本の働かせ方、労働実態をつきつけていく必要があると強く思いました。」
アンケートでは、「自分の体のことを、あまりわかってないなと感じました。」「自分のからだにちゃんと向き合えてなかった。」という意見が寄せられました。 北田さんのお話は、女性の健康の問題について、DVや子どもの貧困などいろんな面から語られましたが、今回は労働の問題についてまとめさせていただきました。
私は、北田さんが質疑応答の最後で話された子どもの貧困と性の問題、子どもたちは体の関係をもつことに対して敷居が低いが、言葉で自分のおもいを伝えることができず、会話が成り立たない。それは教育や家庭の問題もあるが、そこに貧困が加わると何が起こっているかわからなくなるということが、とても印象に残っています。
多くの女性が、不調であっても我慢して働き、低賃金、長時間労働やパワーハラスメント、セクシャルハラスメントに心身が疲弊しています。女性が健康で仕事を続けたいと望んでも、今の時代においても、「経済効率、強者優先の時代」だからなお一層、困難が付きまといます。しかし女性たちは、生理休暇をはじめ女性の健康と権利を獲得するため、組合を結成し団結し闘ってきました。私たちも健康で働き生きていける社会をつくっていく努力を続けたいです。(M・E)
カテゴリー:フォーラム労働・社会政策・ジェンダー
タグ:労働 / リプロダクティヴ・ヘルス・ライツ
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