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上野千鶴子さんインタビュー@韓国・IF
2010.11.06 Sat
【韓国のフェミニスト・ウェブジン(ウェブマガジン)IFに掲載された、キム・シン・ミョンスクさんによる上野千鶴子さんのインタビューです。】
<ひと/社会> インタビュー
フェミニスト ウェブジン IF: キム・シン・ミョンスク
記事入力 2010年9月27日
(韓国語原文:http://onlineif.com/main/bbs/view.php?wuser_id=new_femlet_people&no=17777&u_no=148)
「どうしてカッコいいオトコにこだわるの?」
‐日本の代表的フェミニスト 上野千鶴子教授‐
予想を上回る人たちがいる。私たちは誰かに会う前に、職業、年齢、性、国籍などいろいろな事前情報を通して、まもなく会う人がだいたいどういう人か見当をつける。時代が多様性を尊重する方向へと変化し、予想を上回る人に出会うことが以前より多くなっては来ているが、それでもそのような人との出会いは、よくあるわけではない。
「典型的な教授の雰囲気では決してない」ことは、すでに事前情報に含まれていた。それにもかかわらず直接、目の前にあらわれた彼女は、本当に予想とは異なる姿だった。62歳。東京大学社会学教授として、日本では社会学と女性学分野で説明する必要がないほど有名な学者。学術的な論文だけでなく、大衆的な文章にも秀でており、今まで数十冊の著書を出したベストセラー作家。(韓国では『華麗なシングル、帰ってきたシングル、いつかはシングル』〔日本語『おひとりさまの老後』:訳注〕というタイトルで翻訳された彼女の本は、日本で2008年出版以来、今まで75万部が売れた。韓国で翻訳された彼女の本は10冊ほどになる)
赤い口紅に丸いサングラス、ふちの広い帽子をかぶった彼女が私に近づいてきたとき、私は一瞬、戸惑ってしまったようだ。細い体にウサギのようにテキパキとした身動き、晴れやかな笑顔がとうてい60代には見えなかったからだ。『女遊び』というタイトルで翻訳された彼女の本には、「ちづこのワンダーランドに遊んで」というタイトルの著者あとがきが記されているが、やはり自分だけのワンダーランドを作っている人の雰囲気が確かに感じられた。
70年代末から挑発的で、売られたケンカを厭わず、乗りかかった舟からは降りないという態度と、常識を覆す新しい視点で、日本社会のフェミニズム理論と論争の中心に立ち続けてきた彼女とインタビューを通して会ってみた。
マルキシズムのドグマに挑戦するマルクス主義フェミニスト
‐このように直接お目にかかれて光栄です。やっと教授にお目にかかれたということは、これまで日韓フェミニストたちの交流がそんなに活発ではなかったという証拠でもあると思うのですが。なぜそうだったと思われますか?
「まず1965年に両国間の協定が締結されるまで、両国間には交流がありませんでした。また植民地時代についての記憶が両国の交流を遮っていましたね。フェミニズムに関して言うならば、最近まで日本のフェミニズムは欧米のフェミニズムに傾倒していました。私たちが韓国を含めたアジアに関心を持ち始めたのは比較的最近のことですね。」
‐それは韓国の場合も同じだと思います。最近は、それでもかなりよくなってきましたね?
「もちろんです。現在は日韓フェミニストたちの間で疎通も増えているし、会議も増えているし、関係がとてもよくなっています。」
‐日本のフェミニズムと韓国のフェミニズムに違いがあるとすれば、何だと思われますか?
「実は、韓国のフェミニズムをよく知りませんので、難しい質問ですね。ただ私が受けた印象でお話してもよければ、韓国のフェミニズムは政治と非常に近い関係を持っているように思います。女性部もすぐに作り、家庭暴力を禁止する法、性売買を禁止する法も早く作り上げて、本当に変化が早いようです。韓国の女性団体は政府とかなり密接な関係を持っているんだなぁと思っています。」
▲インタビューが行われた京都の由緒あるカフェの庭で。
‐自らをマルクス主義フェミニストと名乗ってこられましたね。社会主義圏が没落し、メタ・ナラティヴが不信がられる近頃のようなポストモダンの時代には、少し時代遅れという感じを与えるかもしれませんが、21世紀にもマルクス主義フェミニズムが今なお有効だと思っておられますか?
「まずマルクス主義フェミニストという言葉に注意する必要があります。マルクス主義フェミニストに重要なことは、まず自分がフェミニストだということです。マルキストが先ではありません。私はマルクス主義フェミニストを「マルキシズムのドグマに挑戦するフェミニスト」と定義しています。マルクス主義フェミニズムが叶えたもっとも大きな成果は、女性たちの不払い労働(unpaid work)に対する理論を提供したということです。そして政治的闘争のためのイデオロギーではないマルクキシズムは、私たちが生きているこの社会を解釈し理解するために、現在でもなお効果的な理論です。不払い労働の発見は、労働に対する私たちの視点に大きな変化をもたらし、いまや日本政府も労働時間の統計をつくる際、支払い労働と不払い労働をともに考慮しています。これはひとえにマルクス主義フェミニズムの成果ですが、多くの人はその起源を忘れているのでしょう。しかも今、グローバリゼーションの波の中で、階級の問題が新しく台頭しており、マルキシズムがふたたび必要な状況です。イマニュエル・ウォーラスティンの世界システムのような概念が再び重要になってきていると思います。」
‐フェミニズムと資本主義の関係においては、どのようにお考えですか?フェミニズムはやはり反資本主義的になるしかないのでしょうか?
「あなたが社会主義国家に住んでいると、一度想像してみてください。社会主義は女性に解放的でもあり、同時に抑圧的でもあるのですが、それは資本主義も同じだと思います。そしてフェミニズムは一つではなく、さまざまです。資本主義的フェミニズムもありえるでしょう。どんな社会や体制、イデオロギーであっても、解放と抑圧の両方の側面を持ち合わせています。コンテクストにしたがってそれが異なってあらわれるわけです。コンテクストが重要であるため、簡単に答えるのは難しいです。マルクス主義フェミニストとして私は反資本主義者だと考えていますが、親資本主義フェミニストもありうるということを認めなければならないでしょう。」
日本のフェミニズム、過去10年間の激しいバックラッシュを経て
‐教授は趙(チョウ)韓(ハン)恵(へ)浄(ジョン)教授と交わした書簡集『境界で語る』〔日本語タイトル『ことばは届くか』:訳注〕で「選択せず生まれた祖国をふたたび選択できるか」という興味深い質問しておられます。選択権があるとしたら、それでも日本を祖国としてお選びになりますか?
「もし私がふたたび生まれて祖国を選択できるなら……あ、ところで実は私はふたたび生まれたくはありません。一度で充分だと思っていますから(笑)。とにかくふたたび生まれるとしたら、移民国家がいいでしょう。カナダやオーストラリア、ニュージーランドのようなところ・・・・・・絶対アメリカではなくて(笑)。長い間、私は亡命者になりたいという夢を育ててきました。どこへ亡命しようか・・・・・・今ならカナダが一番気に入っています。特に西海岸はアジア人が多く、その土地で生まれたネイティブがあまりおらず、大部分が移民してきた人びとなので、亡命者が住みやすいようです・・・・・・だけど年を取って、私の身体が日本食、日本の家、文化にどんどん馴染んできたので、本当にそこで住めるかどうかはよくわかりません(笑)」
‐フェミニズムあるいはフェミニストに対して、たいてい日本の男性たちはどのように対応していますか?
「男性たちも学校にいる間は非常に平等な意識を持っていますが、いったん社会に出て男性中心的組織文化になじんでしまうと、変わるようです。過去10年あまりの間、日本のフェミニズムは激しいバックラッシュの風を受けなければなりませんでした。バックラッシュの勢力は3つの男性グループに分けることができますが、年寄りの保守主義者たち、中年のエリート男性たち、ヘヴィ・ネット・ユーザーの若者たちです。グローバル化と新自由主義的改革の結果、負け組として転落した男性たちが、その中で成功をつかんだ一部の女性たちに敵対心を抱くようになり、フェミニズムを攻撃するようになったのです。とくにインターネット上でフェミニズムを家族解体などあらゆる家族問題を引き起こす主犯とみなし、攻撃することが増えました。」
‐日本の女性たちの経済活動の参加はどのような状況ですか?
「バブル経済の崩壊以降、だんだん悪化しています。とくに既婚女性たちの経済活動の参加が減っています。また全体の女性労働者の3分の2が非正規職です。出産した女性労働者の70%が職場を辞めているありさまです。女性たちの経済活動の参加が増えるためには、まず経済がよくならなければならず、保育施設が増えなければなりません。夫たちの育児参加も増えなければなりません。しかし問題はむしろ私たちの世代には育児に同等に参加しようという男性たちの運動があったのに、今はあまりそれができていないということです。それが、父と子どもの関係だとか、夫婦関係に大きな問題となるにも関わらずです。正規職と非正規職の間の大きな格差を減らせば、男性の状況も女性の状況も、どちらもかなりよくなるはずですが、企業は男性中心的で、排他的な文化を変えられずにいます。そのような保守的な態度はグローバル経済でも弱点になるというのに。」
「軍加算点制の復活?信じられない・・・・・・」
‐日本社会の晩婚化、少子化問題に対しても原稿を書いておられますね。韓国もやはり同じような状況です。家族の未来についてはどのようにお考えでしょうか?
「シングル女性たちが増えていることは、女性の自由という側面でいい兆候だと思います。しかし他方でそのような現状の裏には、女性も男性もどんな形態であれ家族を作り、子供を持とうという欲望が強く根付いています。結婚について最近のある調査によれば、結婚観を変えるなら、つまり男性は生計扶養者で、女性は主婦という考えを変えるなら、結婚する可能性がもっと高くなるといいます。夫婦をお互い協力する関係としてみるなら、結婚がもっとしやすくなるというわけです。」
‐最近、韓国でもそうですが、他の国でも「フェミニズムはもう死んだ」という言葉が出てきています。日本でもそうですか?
「あ、そうですか? 誰がそのようなことを言っているのですか?(笑)・・・・・・それはたぶんフェミニズムがもはや目立つニュースではなくなったからだと思いますけど・・・・・・。つまりフェミニズムがそれだけ広く広がり、日常生活にしみこんでいるということでしょう。むしろいいサインだと思います。フェミニズムの正常化とでも呼びましょうか?フェミニズムは決して死んではいません。また私たちはフェミニズムを主張しない多くの市民運動で積極的な参加者が主に女性だということを見過ごしてはなりません。」
‐最近、韓国では軍隊の問題が大きなイシューになっています。一部の男性は「女性も軍隊に行け」と主張しており、政府は軍加算点制をふたたび復活させようという動きを見せています。〔上野〕教授なら、どのように対応されるのか、気になります。
「現在、韓国フェミニストたちがそれにどのように対応しているのかはわかりませんが、アメリカの場合は1960年代に主流の女性運動組織であったNOWが徴兵の男女平等を主張しました。アメリカも1972年までは徴兵制を維持していましたからね。NOWはこの問題を法廷に持ち込んだりもしましたが、結論が出る前にベトナム戦争が終わって、徴兵制度が廃止となったのでした。それで当時アメリカでは、フェミニストたちがERA(同等権修正法案)運動を起こしているときだったので、男性たちが主にNOWのようなフェミニストの女性たちの兵役の男女平等を求める主張を攻撃しました。また歴史学者であるリンダ・カーバー(Linda Kerber)のようなフェミニスト女性たちと、兵役の男女平等に反対する保守的な女性たちの間に、大きな論争もありましたね。また保守的な女性たちは、アメリカの軍国主義を支持する立場でした。
日本の女性たちの場合は、アメリカとかなり違って、私たちははじめから徴兵制や戦争に反対してきました。平和主義者の立場でした。韓国のフェミニストたちの立場は非常に難しいだろうと察します。分断状態で戦争の恐れを感じる状況ですからね・・・・・・私は金(キム)大(デ)中(ジュン)元大統領の太陽政策に非常に共感していた一人です・・・・・・もし私が韓国フェミニストだったら、平和運動をしながら、男性たちの参加を誘導する選択をすると思います。
軍加算点廃止に対しては、私も知っていますが、それをふたたび復活させようとしているですって?保守主義者たちの反撃なのかしら?信じられないですね。女性だけでなく障害者男性たちも訴訟に参加していたと理解していますが・・・・・・」
オトコたちはオンナたちに消費されることに慣れなくちゃ
‐男性たちを生産財としての男性(生活保障になって頼れる男性)と、消費財としての男性(経済的に力は弱いけれど女性たちを楽しませてくれる男性)に区分しておられますね。男性の未来をどのように考えておられますか?
「二つとも必要でしょう(笑)。オトコは両方備えていなければなりません。オトコはオンナによって消費されることに慣れなければなりません。今まではオトコが生産者としてオンナを消費してきたけれど、もう変わったわけですよ。オンナが今までどうやってオトコによく見られるかを学んできたように、いまやオトコがそのようなことを学ばなければなりません。そうすればジェンダー関係にバランスも生まれるじゃない?」
‐実は教授の本を読んで、その遠慮ない主張に何度も驚きました。「援助交際をする女のコたちは家父長制のウラをかいている」とか、「愛のないセックスは可能だ。同時に二人を愛することも出来る」とか、また「結婚はいつでもやめられる」などなど・・・・・・。もし韓国で有名なフェミニスト教授がそんな発言をしたら、どんな反応があるだろうかと考えると、ゾッとします。日本社会はそのような面でかなり寛容なんでしょうか?
「それは私が意図的にとった立場です。もちろん過去20年あまりの間、日本社会の性的雰囲気は大きく変わりました。しかし私がセクシュアリティ問題について率直に話し始めたのは、だいたい30年前からで、当時は私の発言がスキャンダルでした。私が出した最初の本が『セクシィ・ギャルの大研究』だったのですが、当時、私のメンター〔後援者や助言者:訳注〕の役割をした方は筆名で出すことを勧めたりもしました。しかし私は危険を顧みませんでした。私が結婚しないシングルという点がそのような発言をする際、有利に働いたりもしましたね。学者としてもアカデミックな姿とスキャンダルを起こすフェミニストとしての姿を同時に見せる「ダブルフェイス戦略」を駆使したのもよかったです。また私一人だったのではなく、スキャンダルを恐れない勇敢な他の女性たちがいたので、私はそのような私たちが作り出した変化を誇らしく思います。」
‐『結婚帝国』という本で既婚女性が不倫市場に入ってきているとおっしゃいました。韓国も例外ではないようです・・・・・・。このような現象をどのように分析しておられますか?
「自然な現象でしょう。なぜなら一夫一婦制が不自然なのですから(笑)。男性は実は昔からその事実を知っていたのです。女性だからといって何か違いがあるかしら?」
‐韓国では最近、ウェル・エイジング(well-aging)が話題になっています。「上手に老いる」とはどういう意味でしょうか?
「実は私はウェル・エイジングという言葉は好きではありません。エイジングはあくまでエイジングであって、そこにいい悪いがあるかしら?すべての人のエイジングはそれぞれ生きてきた人生によってすべてそれなりにユニークなものです・・・・・・。もちろん老いるということはラクなことではありません。しかし若いからといってラクでしたか?すべての年齢にはすべて新しい経験があり、それなりの難しさがあります。年を取っていい点は、過去に成し遂げたこと、古い友だち、支持者、自信、想い出など、若い人たちが持てないものを楽しめるということでしょうね。」
「ポルノがレイプを煽ってはいません」
‐年を取った女性たちのセクシュアリティについても関心を持っておられると聞いています。50歳を過ぎると、特にシングル女性たちの場合、性的パートナーに会うのが難しくありませんか?社会で関心をもってくれるわけでもなく・・・・・・
「まず女性たち自身が本当に性的接触を望んでいるなら、果敢に乗り出す必要があります。迷っていないでね。そこで一つ、コツがあるんですけど(笑)。私が思うに、オンナたちはだいたいカッコいいオトコを探す傾向があります。でも一度、そのような期待を捨てれば、周りにたくさんのオトコたちがいることがわかるでしょう。結局、オトコってオトコであるだけでしょ。私は実はオトコたちに対する期待値が非常に低いんですよ。オトコたちに対する期待が大きくなければ、大部分のオトコたちがその期待水準よりよく見えるというメリットもあるんですよ(笑)。」
‐最後にポルノについてお尋ねします。日本のポルノが韓国でも人気があるのですが、ポルノについてどのような立場でいらっしゃいますか?
「まずポルノはそれを不法化しても抑えることができません。そして私は『ポルノは理論であり、レイプは実践』だというマッキノンの主張に同意しません。インターネットであれ、DVDであれ、バーチャルな性的表現物をたくさん消費する男性が、実際の性生活で必ずしも積極的ではないという調査結果があります。」
‐私が読んだところでは、ポルノの商業化されたイメージに頻繁にハマると、実際の女性たちには性的興味を感じられなくなる状況も発生するといいますが、それも問題ではありませんか?
「それのどこが問題なんでしょう?彼らは平和なオトコたちでしょう。レイプ犯になるはずのない・・・・・・」
‐わかりました(笑)。長い時間、インタビューにお答えくださいまして、お疲れ様でした。