2011.03.10 Thu
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岩波書店から旧版『日本のフェミニズム』全7冊+別冊1(1994-5)が出版されたが、15年後の2009年から『新編 日本のフェミニズム』全12巻が刊行され、このほど完結した。これを記念して、1月30日に、東京大学本郷キャンパスで、上記シンポジウムが開催された。4部構成からなる、4時間半に及ぶ長時間の企画だったが、約300名が参加し、熱気にあふれた報告と討論がなされた。
第1部「完結にあたって:「日本のフェミニズム」を手渡すために」では、井上が、1970年代以後40年間に、日本のフェミニズム・女性学が多くの実績を重ねてきたことを喜ぶとともに、このシリーズが、フェミニズムの運動と研究を一貫的に捉えたことなど、刊行の趣旨を述べ、1990年代後半以降の運動と研究の新たな展開を新編に収録したことを説明した。そして、山積する諸問題を解決し、「女性」のエンパワーメントを図るために、フェミニズムの運動と研究が、今後益々必要であり、若い世代に期待する旨を呼びかけた。
次に上野千鶴子さんが、「アンソロジーの政治」と題して、アンソロジーの編集は、既出文献の何を採用し何を採用しないのか、すなわち何を「フェミニズム」と認定するかという「定義の政治」であることを指摘した上で、フェミニズムにかかわる複数のアンソロジー、『フェミニズム・コレクション』『資料日本ウーマン・リブ史』『日本婦人問題資料集成』と『日本のフェミニズム』を比較し、それぞれの特徴を述べた。そして、これから15年後に改訂版をつくることが可能か、つくる場合の考慮要因についての問題提起があった。
第2部「「日本のフェミニズム」を若い世代が読む」では、40代の岡野八代さんが「フェミニズム理論とわたし―20年の自分史を振り返って」、30代の熱田敬子さんが「30代読者・個人史と重ねて」、20代の草野由貴さんが「20代が読む」と題して、それぞれ個人史と重ね合わせながら、自分とフェミニズムとの出会いを語った。
<15年後のアンソロジーの編集方針は?>
第3部「15年後にアンソロジー改訂版をつくるとしたら?3つの編集方針をめぐって」では、まず、北村文さんが「日本語圏を超えてー言語ナショナリズム批判」と題して、改訂版をつくるとしたら、英語圏の「日本の」ジェンダー研究、さらには英語圏を超えて多言語リソースをとりいれる必要を説いた。
次に斉藤圭介さんは、「当事者性と性別二元制(ヘテロセクシズム)」と題して、15年後に、男性学やセクシュアル・マイノリティは、各々のアンソロジーを作ることが望ましいのか、それともフェミニズムの外延を広げ、男性学やセクシュアル・マイノリティを含むアンソロジーを編むのかという問題提起をした。
続いて妙木忍さんは、「メディアの多様化(印刷メディア至上主義批判)」と題して、15年後にはテキストコーパス(text corpus言語資料の集成)を印刷メディアに限定することは不可能ではないかと述べ、電子メディアを含めるとしたら、どのような制約と困難が伴うのかという問題提起をした。
千田有紀さんの司会で開かれた第4部は、前半が、8人の編集委員(斉藤美奈子さんは、インフルエンザのため欠席)による、各巻の解説の趣旨と、コメントへのリプライで、後半は会場からの質問や意見を中心とした討論が行われた。会場からは、水田珠枝さんによる、明治期以来の日本のフェミニズム思想史を発掘する必要があるとの指摘や、田中美津さんの、いまフェミニズムは元気がないが、それはリブの持っていた獣性が失われたからではないかとの発言など、約20人もの発言があった。議論は多岐にわたり、また1人1分という制約のなかで、充分議論が尽くせなかった面はあるが、議論された論点をいくつか紹介する。
まず第3部で出された論点のうち、「日本の」と限定することの問題については、移住女性の日本語化されていない発言もある(伊藤るりさん)、旧植民地へも範囲を拡大する必要(加納実紀代さん)、労働に関する外国人の研究で重要なものがある(大沢真理さん)などの意見があった。
男性とフェミニズムの関係については、男性学はフェミニズムの内部でもあり、外部でもある(伊藤公雄さん)との発言や、男性にフェミニズムは担えるかという問い自体が無意味であり、担える場合もあり、担えない場合もある(会場発言)との発言など、単純な二分法では割り切れない側面が語られた。
15年後にアンソロジーを編むとしたら、電子メディアを含むべきか否かとの問いについては、著作権問題などをどうクリアするのか(上野千鶴子さん)、電子メディアといえども公共空間で共有された情報で、匿名でなく発言者が明確なものなどに限定すべきではないか(井上)などの意見が出されたが、同時に、「次はぜひアンソロジーを電子化してほしい」(江原由美子さん)、「より早くより便利になることのマイナス面もあるので、印刷メディアにこだわりたい(加納さん)、アンソロジーほど電子メディアと親和性のある事業はない(林香里さん)など、アンソロジーそのものの電子化に関心が多く寄せられた。
会場から出された論点として、スポーツをジェンダー視点で研究する必要性、フェミニズムとナショナリズムの関係、経済学や中国思想史など、いまだにフェミニズムが入らない学問分野があることなどが話題となった。
フェミニズムが、届くべき人に届いていないのではないかとの声に対して、会場から、NPOや女性センターを通じて、しっかり声は届いている(中村さん)、主催者の上野さんから、種をまかない限り何も生まれないので、私たちの仕事はまず種をまくことだ等の発言が取り交わされた。
司会の千田さんが、リブからフェミニズムへ、そしてさらに新しいフェミニズムへと変化はしてきているが、古いものを継承しつつ、新しいものをつくっていこうと締めくくり、最後に、江原さんが、この会は300人も集まったともいえるが、300人しか集まらなかったともいえる。フェミニズムはいつも少数派だったのだから、それを自覚しつつ前進をしようとアピールし、閉会した。
<世代を超えて語り合うも課題は山積>
上記のような顛末で、世代を超え性別を超えて多くの人が語り、多くの話題が飛び交った歴史的なイベントであったと思う。その反面、全体的に研究者寄りの集まりであり、この会を通じて、社会変革に向けてどれだけの力と元気が喚起されたのかというと少々心もとない気もする。初めのスピーチで私は、貧困の女性化、雇用の場における性差別、アンペイドワーク、女性に対する暴力等々、ジェンダーにかかわる未解決の問題が山積していることを指摘したが、こうした諸問題について、席上でほとんど議題化されなかった。もっとも、今回完結した「新編日本のフェミニズム」には、現実に起きている諸問題の具体的分析や、解決すべき方向、解決の糸口などに言及した論文も多いので、それらを読んでいただくことで、多少とも変革の力が生まれることを念じたい。今年1年かけて、全国各地で、全12巻のブックトークが予定されているので、期待してほしい。
若い世代の発言者から、女性の差別や生きがたさに怒りや落ち着かなさを感じつつも、上の世代の運動には加わることへのためらいや違和感を語る人が何人かいた。自分の言葉を探しつつ、自分たちの運動の仕方を模索している彼女たちに、私は親近感を持った。言うまでもなく、フェミニズムは一つではなく、それぞれが抱える問題と解決方法は、それぞれに異なるのは当然だ。若い世代には若い世代のフェミニズムがあるはずだ。彼女たちの今後に期待したい。
初出:北京JAC「マンスリー北京JAC」第154号
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