
あまりの自民党の裏金操作のひどさに、腹を立てないようにと心を静めながら新聞やテレビのニュースを見ることが多い年末でした。安倍1強のツケがまわってきたのだ、自民党のおごりだ、力のあるものは何をやっても許される—ーこうした政治の在り方にはどうしても心穏やかではいられません。新聞の政治面でさんざん憤慨した後に読んだ社会面の「県人寮女子もようこそ」(朝日新聞12月27日)の見出しにまた、目が留まりました。あまり怒るのは健康によくないと昔から言われていますが、この一見問題もなさそうな記事を読んでまた、怒り爆発です。
「女子もようこそ」ということは、県人寮に、今までは「女子は」ようこそと迎え入れてもらえなかったが、今は「女子も」ようこそと歓迎されるようになったということです。この「も」が曲者です。つまり、地方から首都圏などに進学する大学生のために割安で住まいを提供する県人寮に、今まで男子しか入れなかったのが、女子にも門戸を開くようになったことを伝える記事でした。その「変化の背景には女子の大学進学率の上昇や、少子化による先細りへの危機感がある」と言います。
「少子化の先細りへの危機感」ともっともらしいことを言っていますが、はっきり言えば、「男子だけではいっぱいにならなくなったから、女子も入れてあげるね、それで定員を満たして体裁を保ちましょ」ということです。
さらに読んでいくと、ますます腹が立ってきました。「41の県人寮が加盟する全国学生寮協議会によると、山形県の県人寮が1963年から女子寮を1設けた例などがあるが、大学進学者の多くが男性だったことを背景に県人寮は数十年前まで男子専用がほとんどだった」と書かれています。県人寮が男子専用だったことの理由は、女子の大学進学者が少なかったことだと言うのです。
そうではないでしょう。とんでもない言いがかりです。
地方に住む高校生が大学を選ぶとき、女子生徒は男子に比べて近隣の大学を選ぶ傾向が強いです。いや、強かったと言った方が正しいかもしれません。しかも「選ぶ」のではなく、女の子は遠くへ出したくないという家族や周囲の圧力に屈して、近くの大学を「選ばせられてしまう」ことが多かったのです。残念なことに地方の女子高校生にとっては、大学進学そのものも、男子に比べてハードルが高かったのも事実です。まして、首都圏でもどこでも自分の勉強したい大学を選べるという状況ではありませんでした。そうした周囲や環境の有言無言の制約だけでなく、そういう中で女子生徒自身に身に着いてしまった思い込み—ーアンコンシャス・バイアスー—によって、地方出身の女子は大学進学率も低く、さらに、家郷から遠く離れた首都圏で学ぶ学生も少なかったのです。だからといって、県人寮は男子専用が当然と言うのは短絡すぎます。
同じことを裏側から見てみましょう。女子学生のために、県人寮のような安くて管理がきちんとしている住まいが十分に準備されていれば、娘の希望する大学に送る親も多くなったはずです。遠くの大学に行かせるのを渋る親は、住むところがいちばんの心配でした。
女子学生が来ないから県人寮は男子だけというのは、とんだ言いがかりです。男子専用の寮しかなかったから、女子学生は首都圏に進学できなかったのですと、言い返しましょう。
もうひとつ、この記事を読んで腹立たしいのは、県人寮には県が補助金を出しているところもあるらしいことです。そうなると、県民の税金で男子専用の寮を補助していることになります。入試に女子枠を考えましょう、理系の女子を増やして教育のジェンダーギャップをなくしましょう、女性の教授を増やしましょう、と言っているときに、県人寮は男子だけとはひどすぎませんか。
まず、県人寮は女子学生と男子学生とを同じ比率で入居させるべきです。今になって、男子が減ってきたから女性も入れてあげるという、女子の入居を定員の調整弁にするのはもってのほかです。
これは、日本の労働力が減ってきたから、外国人労働者を入れるというのと全く同じ発想です。大学が、日本人学生だけで定員を割ってしまうから留学生を増やすというのも同じです。足りなくなって困った時だけ外国人労働者や留学生を入れて、その場を繕う姑息なやり方です。だから、労働力が足りなくなり、大急ぎで法律を改正して呼んできた日系の労働者を、リーマンショックの時には追い返すようなひどい仕打ちもしたのです。
「女子もようこそ」などと、ことばでは優しく歓迎しているようですが、ことばだけの歓迎の裏の本心が透けて見えます。男子が増えてきたら、また女子には門戸を閉ざす、そんな魂胆が見え見えです。あえて言います。県人寮の必要性がより高い女子学生の入居を優先すべきです。そのあとで、「男子もようこそ」と言ってください。
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