葉書と同じくらいのサイズのこんな紙が、お宅のポストに入っていませんでしたか。

 わたしは見るなり、ナニコレ?と思いました。そして無性に腹が立ちました。怪しからんと思いました。「郵便料金が変わります」って変じゃないですか。「お天気が変わる」「紅葉の色が変わる」ならわかります。「変わる」のは自然にそうなることで、お天気や紅葉の色は私たちには「変える」ことはできません。でも郵便料金は誰かが「変える」のでしょう?

 ここで、簡単な文法のおさらいをしておきます。動詞には自動詞と他動詞があります。「色が変わる/色を変える」、「戸が閉まる/戸を閉める」の「変わる」「閉まる」が自動詞で、自然にそうなることを表します。「いる・ある・降る」なども同じです。これに対して「変える」「閉める」は他動詞で、だれかが意識して「変え」たり「閉め」たりします。「読む・食べる・見る」なども同じです。

 郵便料金は自然に「変わる」ものですか? お天気のように人の手の届かないところで、いつの間にか「変わる」ものですか? いままで63円だった葉書の料金が自然に85円になってしまうのですか?

 そんなはずはありません。料金が自然に変わるはずはありません。誰も決めないのに自然に変わるとしたら大変です。お化けの世界です。

 左上に小さく書いてある郵便局さん、あなたが変えるのでしょう? いままで63円だったけど、これではやっていけないからとか、他に比べて安いからとか、なんかの理由であなたた方が変えることを決めたのでしょう? そしてそれを知ってもらうために各家庭のポストにこの紙を入れたのでしょう?

 「郵便料金が変わります」は、自分たちが料金を「変える」と決めたのに、その主体を隠す自動詞の「変わる」を使っています。嘘をついています。「変わる」は自然に変化するのですから、「郵便料金が変わります」と言えば、責任を取る必要はありません。「変える」になると、だれかが意識して変化させるのですから、そのだれかさんには責任があります。

 つまり、郵便局は料金を高くした責任を逃れるために、この言い方を選んだとしか考えられません。「いろいろ考えた末に、どうしても今のままでは赤字になってしまうから、郵便料金を変えます。ご理解ください」と、決めた責任のありかをはっきりさせる他動詞にすべきです。

 「郵便料金が変わります」と書かれたのを見て、まず、自動詞の「変わる」は無責任だから他動詞の「変える」に変えるべきと思ったのですが、書いているうちに、「郵便料金が変わる」も「郵便料金を変える」もまやかしだと気がつきました。

 郵便局は料金が変わると言っています。「変わる」のだそうです。料金が「変わる」ということは、料金が今までよりも高くなることです。料金が安くなることも「変わる」ことですが、残念ながら安くなることはほぼなくて、たいていは高くなります。

 現に、25gまでの定形郵便物は84円から110円に、通常葉書は63円から85円にと、それぞれ26円と22円高くなるのです。こうした料金などが高くなることは、普通値上げすると言います。電気料金が変わるとは言わないで、電気料金の値上げ、タクシー運賃が変わるとは言わず、タクシー代の値上げ、と言うでしょう。

 郵便料金も、定形郵便物は26円も、通常はがきは22円も値段を上げるのですから、立派な値上げです。「郵便料金が変わります」なんて、無責任な他人ごとのような言い方をやめて、「郵便料金を値上げします」と言うべきなのです。

 値上げすると言うと反発されるから、とりあえず「料金を変える」ことにしよう。「変える」と言うと主体がハッキリしてまずいから、「変わる」にしておこう。郵便局の利用者だましが見え見えです。利用者を2重にも3重にも馬鹿にした言い方です。 もう一つ怪しからんのは、値上げ幅の大きさです。定形郵便物で26円、通常はがきで22円の値上がりは、前者で31%、後者で35%にもなります。一気に3割以上も値上げするのはひどすぎます。

 e-mailなど、インターネットを利用したいろいろな通信手段があるから郵便なんか使わない、という人もいるかもしれません。いえ、それよりもe-mailは使えない人、使いたくない人がたくさんいます。どうしても紙の郵便で連絡したい、紙で連絡しなければならない場合もあります。紙の郵便物が必要な場面はまだまだあります。この大幅な値上げは、郵便利用者にとって大きな打撃です。

 無責任なお知らせの文章と共に、郵便料金の値上げの撤回を求めます。