
第2章 2~3年目 ~暮らしてみたらこんなことが~
住み始めて期間が経つと、いろいろな気になることも出てきた。そんな事例をいくつか。
*認知症を発症したら・・・
Aさんは90歳、とても上品で、かわいらしい人だ。同じ階に入居されたので、食堂に行くときEVで一緒になると、「私、何階かしら?」、「お姉さんたちも長期滞在?」など問いかけてきたり、「部屋の鍵が見つからないから今日は食堂にはいかない」などと、迎えに来た食堂の職員や周りの人を困らせたりすることもある。ここを紹介したという友人夫妻が、朝夕の食堂に付き添って往復していたが、一人になるとどうも混乱しているようだ。高齢になって環境が変わると認知症になったり進行したりすることが少なくないと聞いているが、ここは初めから認知症の人は入居できないので、ここにきて一時的な混乱かなと思いながら、できるサポートをしていた。
しばらくして、デイサービスに通うようになったが、だんだん食堂にも来なくなりデイの送迎の際に会うとかなり痩せて、調子がよくなさそう。更に朝晩、異なるホームヘルパーが来るようになった。とても大きな声で話す元気なヘルパーさん。決まった時間内にご飯を終わらせないといけないのだろうが、急かされている感じがする。おっとりしたAさんとの相性は?と、気になっていたが日ならず退居されてしまった。隣県の施設に入ったらしい。結局、外からのサービスを使いながらも自立して暮らせる、という入居条件に当てはまらなくなったということだろう。この間半年もなかった。
私は、サ高住に介護サービス事業所がついていると、「囲い込みにつながるので、ない方がいい」と、ここを選んだ理由の一つに挙げた。しかし、Aさんのケースでは、ここに事業所があれば、デイに通うのに便利だし、ヘルパー事業所があれば、彼女の性格や様子を間近に見て、相性の良いヘルパーを、日替わりで変わることもなく派遣してもらえたのではないか、そうすれば折角入ったところから短期間でまた動くこともなかったのではないか、と思うようにもなった。
Aさん以外にもお巡りさんに送り届けられたりして帰ってくる人もいて、何回かそんなことがあって、いつの間にか退去された人も・・・
社会的サービスを受けながらも自立して暮らし続けるにはどこが・・・と考える例。
*食堂は、「自由席です」で・・・
入居して、初めて食堂にきたBさん。おどおどした感じで空いてる席に座り食事をしている。普段そこはご夫婦の入居者が使っている席だが、たまたまその日は来られてなかった。
席は一人ずつ向かいあって腰掛ける二人掛けのテーブルで、「自由席」ということになっているが、自然に組み合わせメンバーが決まってきている。町中のレストランのように知らない人同士が相席で、というのとは違う。
古株のCさんがBさんに、親切に「そこはいつも〇〇さんが座るので、次からこの辺にした方がいいわよ」と、自分の向かいの席や普段使われていない席を教えてあげていた。他の人も向かいの席が空いているとか、相棒さんがお休みの日はここに、などと声をかけていた。しかし、Bさんは、数日居心地悪そうに食事をした後、現れなくなってしまった。
何でも「誰かに席を注意されて傷ついてしまった」らしい。心配して声をかけにいった人が、Bさんからそう聞いたとか、そしてBさんは2か月ほどで、退去してしまった。
私が現役で勤めていた頃も、公共施設を利用する市民間で、席は結構トラブルのもとだった。老人会館でのフリースペースでも座る位置は自然に決まり、知らない人がうっかり座って怒られたとか、自分の好きな席を確保するため、早くに出かけるとか・・・現在携わっている東京都福祉サービス第三者評価の仕事でも、事業所、特に特別養護老人ホームやグループホームなど入所系のところでは、食事や活動の時に、利用者の性格や利用者同士の相性で、席の配置には腐心していると、少なからず聞く。私自身も気が付くと、席にはかなりこだわりを持ち、連続の研修や講座などは同じ席に着かないと落ち着かない。他の人に取られないよう早めに行って着席したりしてしまう。
考えてみると、家庭の食卓でもそれぞれ席が決まっており、小学校からずっと決まった席で学び、就職してからも自分のデスクが与えられ仕事をしてきた(近年、大分変ってきて、固定の席がない会社なども増えてきたと聞くが)私は、指定席は日本の文化ではないかとさえ、思ってしまうのだが・・・
そこで、委託会社の担当者が来た時にBさんの例を挙げて「新しい入居者には、最初に食堂を利用するとき、皆にちょっと紹介をしてあげて、使われてない席を教えて選んでもらうようにしたら?」と提案をしたことがあった。いくつもの食堂を受託している会社の、その担当者は「どこでも、そうなんです、席のことは・・・」と言っていたが、次の日、入口に「この食堂は、自由席です。ご理解くださるようお願いします」と貼り紙がされた。わかっちゃいるけど・・・それで「ご理解」できれば苦労はない。「たかが席」「されど席」なのである。
*避難時に、非常階段は使わないで・・・
大手ハウスメーカーが建設したマンションなので、滅多なことで崩れたりすることはないと思うが、火災は絶対起きないとは言いきれないだろう。年に1回ぐらい「避難訓練をします」と言って食堂に集められ、担当者の説明を聞くのがここの避難訓練だ。廊下の両端には普段施錠されている非常口があり、その先に非常階段がついている。私の住戸のベランダには避難ハッチもついている。敷地内にはかなりの容量の防火用水タンクが設置されている。
「万一火災が起きたときは皆さんベランダに避難して、消防が救助にくるのを待ってください。非常階段は使わないでください」説明会の時に、会社から来た技術屋さんがこう説明した。慌てた年寄りが非常階段から転げ落ちでもしたら二次災害になるからだろうと、発言の意図は容易に想像できるが、それにしても間口2間あるかないかで隣接している隣から「煙だの炎だのが出てきたら、消防が来るまで、何分かかるかしれないけど、待っていられるかしら?」と質問。「大丈夫、煙も炎も出ません。うちはスプリンクラーが火元になりそうなところにつけてあり、火が出たら、ピンポイントで噴射して消しちゃうんですよ」との回答。知らなかった―、すごい装備だ、道理で、消防設備点検の時、煙感知器が押し入れだの小さな戸棚などの天井についていて、乱雑にしている私は恥ずかしい思いをしながら、開けて見せてたけど・・・だから館内放送設備もなければ、避難訓練もこんな程度なのか、と半信半疑の納得。

(左)裏庭には桜の巨木も (中)居室からバス停を見下ろす (右)周辺の景色・雪の日に
*緊急通報ボタンは停電するとつながらない!えっ?
去年の夏のある夜中、雷雨で落雷があり、建物の居室部分だけ停電したことがあった。突然落雷の音とともに部屋が真暗になったので、一帯が停電したのかと思い、周りを見たら近所のマンションは皆電気がつている。ここだけかと思って廊下に出たら、なんと廊下はいつもと同じ煌々と・・・
確かめたくてもフロントはいないし、仕方ないので、対応を警備会社に訊いてみようと緊急ボタンを押してみた。応答なし、故障かもしれないので、次々とついてるボタンを押してみたがいずれも応答なし。
そのうち、廊下に皆が出てきて、結局ブレイカーが落ちたのだとわかりそれぞれ入れ直し、30分もしてほっとしたころ、バタバタと警備会社の職員が駆けつけてきた。私の携帯には会社からかかってきた。どういうこと?
訊いたところ、普段フロントと警備会社はパソコンでつながっており、緊急ボタンは停電すると作動しないのだそうだ。その晩も住人の携帯で電話がかかってきたりしたので、パソコン見て停電がわかり駆けつけてきたのだという。
えーっ、停電で作動しない緊急ボタンなんてありー?
そういえば、夜中にかなり大きい地震があっても、それこそ安否確認は翌朝アテンダーが出勤してから。
「建物はつぶれないってわかっているけど、慌てて転んだり家具が倒れたりしないとも限らないんじゃない?」これも昔、施設管理の責任者だった時の仕事柄で、一応廊下に出てEVを確認したり、そっと各住戸の動静を伺ってしまう私の問いに、「深夜ですから、おやすみになってる方を起こしてもいけないので・・・」とのお返事。
あの揺れでおやすみになったままの人なんているのだろうか?
*省エネに協力しませんか?
共用部分の内廊下と階段の電灯と空調は毎日24時間稼働している。昼も夜中も煌々と灯りがともり、夏は涼しく冬暖かく誠に快適、と入居したころに書いた。訪ねてきた友人などは「すごいわね、今時ホテルだってこんなにはしてないわよ。さすがお金持ちは違う、贅沢ね」という。
この頃こう言われると、私は身のすくむ思いをする。月2万の管理費が高いか安いかはよくわからない。が、日本、いや世界中で、全体的に省エネ、省資源が叫ばれているのに、お金があっても、それらの無駄遣いはしてはならないのではないか、お金さえ払えばいいという問題ではないと思い、友人の言葉が嫌味にさえ聞こえてしまう。せめて夜間ぐらい照度を落としたり、空調の温度調節をした方がいいのではないか、これは大家さん会社の担当職員に話す。
彼曰く「視力が落ちてる入居者さんが、薄暗くなって、良く見えないところで、何かあっても困るので・・・」。夜暗くなって廊下に出てる人なんて滅多にいないよ。夜遊びして夜中に帰ってくるのは私ぐらいなものだから・・・でも、私一人の意見で決めろと言ってるんじゃない、他に私と同意見の人もいるけど、いわれるような心配があるなら、一度アンケートをとるなり懇談会を開いて意見交換するなりしたら・・・面倒なのか本社が認めないのか、一向に検討している気配はない。
*(女)学校の寮ですか?
私はまだ少し仕事をしたりしており、アテンダーの勤務時間外に出かけたり帰宅することが少なくない。門限はないが、毎日の安否確認のため外出先まで電話がかかってくることがある、ということは先に書いたが、それが困ることもあり、長時間出かけるとき、アテンダーのいないときには「出かけます。〇〇時に帰宅予定です」とメモを置いて出ることにした。しばらく続けたらアテンダーの中でも気を遣ってくれる人が、氏名と出入りの時間を記入すればいいように簡単な連絡票を作ってくれた。書く時間が短縮でき、ありがたく活用させてもらっていた。
それがある日突然、A4判のカラーの厚紙の「外出届」が作られ、今後これで提出するようにと求めてきた。えっ、外出は自由で出入りの時間も自由なんじゃなかった?いちいち、お届けしなきゃならないなんて、管理されてる感じがする。まるで女学校の寮みたいじゃない。
私が異を唱えると、他の住人もそうだ、そんなの出したくない、となった。先の連絡票は、強制されたものではなく、アテンダーの心配や余計な手間をかけないよう、むしろこちらからサービスのつもりでメモしていたものを、簡単に記入できるよう連絡票として作ってくれたので、活用させてもらっていたが、お届けしますなどと書いて出すのは、自由を束縛されるような気がする、というと、連絡票を作ったアテンダーも「その通り」という。元に戻してほしいと本社の担当者に申し入れ、しばらくしたらもとに戻った。
単に言葉の問題と思うのかもしれないが、本人に向かって平気で「安否確認です」と言ったり(私は「はい、生きてます」と答えることにしていたが)、言葉遣いが相手に与える感じについて配慮すべきだと思うのは私のわがままなのだろうか。 (つづく)
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