第3章 4年目 ~住み着いて4年が経とうというときに、引っ越しました~
えっ、その歳で、また引っ越し?と皆にあきれられたのですが、いろいろありまして・・・

*サービス料は、何に使われているの?
防災訓練の後の懇談会で「5万円のサービス料は何に使っているのか?毎日の安否確認だけでそんなにかかるのか?」と質問が出ることがときどきあった。
ここの住人は、家賃のほかにサービス料を毎月5万円ちょっと(税込)払っている。急に具合が悪くなった時に救急車を呼んでもらったり、ということはあるのだろうが、自立している住人にとってはほとんどお世話になることがない。フロントのアテンダーの人件費と、警備会社への委託料だろうと思うが、明確な答えは返ってこない。
いざというときお世話になるための保険料と思っていたが、地震や停電時の対応などを経験したら、それにしてはやはり高いと感じるようになった。介護保険報酬で、要介護度5の限度額の1割負担よりはるかに高い。
安否確認とか何かあった時に駆けつけてもらうのだったら、普通の住宅にいて、警備会社ともっと安く契約もできる。
せめてどんなサービスをしたか、個人情報はいらないが件数ぐらい報告したら? と提案したが、これも無視。
*ここでのお楽しみは…?
前にも書いたが、この間、コロナ禍ということで、大家さんが主催する毎週1回2時間ほどの体操教室以外は楽しめるイベントもなかった。私のお節介な「懐かしの洋画座」と名付けたDVDによる古い映画を観る会がほぼ毎月1回定例化し、ご常連もできた。ご常連間では親しくおしゃべりしたりする人間関係もできた。
そんな折、同じ大家さん会社の別のサ高住から移ってきた人が「今までのところは、毎週生花が飾られ、季節を感じることができたし、月に1回、アテンダーが個別面談をし、体調や生活上のことなど相談にのったりしていた」という情報をもたらした。サービス料はどこも同じだし、ここだってするべきだ、という。自治会でも作って申し入れする? 昔だったらそんな機運が生まれるところだが、この歳で、そんな運動もしたくないし、というのが本音。
そんな声が聞こえたのか、誕生月に誕生祝いとして、小ぶりの花束や、夕食1回の招待制度ができた。
*悪魔(⁉)の囁き、私も出ていく?
そんな中、コロナが下火になりだした頃、立て続けに退居する人たちが出てきた。体調を崩し入院したらしい、という噂話(大家さん側では「個人情報ですから」と言って理由は明らかにしないのが鉄則)や、近所にある団地に引っ越す人も。挨拶して出ていく人は稀で、そういう人は家賃が高い、とか、人間関係が嫌と、遠回しにいわれる。
近くのURの団地は、ほとんどがリニューアルされ、バリアフリーで、床暖まで備わっており高齢者仕様の住宅もあり、家賃もかつてのように高額ではない。中には「だから、引っ越した方が良いわよ」とわざわざ教えてくれる人もいる。
元の家の隣には30年近く前に建ったUR団地がある。建つ前は、我が家から新宿の高層ビル群まで見えていたのが見えなくなり、ちょっと公団を恨みがましく思っていたが、ふっとそれを忘れそうな情報だ。
登録しておくと、空き部屋が出たとき、すぐに知らせてくれることも聞いた。何事にも野次馬根性で興味を持ってしまう私。物は試しと、元の家の隣の団地を担当する案内センターに登録してしまった。去年の春先のことである。正直、どうしても、急いで出たいというわけでもなかったので、漠然と、それまでと同じ程度の広さと、見晴らしの良い部屋をと希望しておいた。
一方で、親しくなった住人とは「死ぬまでここにいるわけにはいかないけど、なるべく長く、ここにいられるようにしましょうね」の言葉に「そうね」と同調したりも。
そして去年の晩秋にかかってきた電話。
「ご登録のご希望に合ってるかと思う空き部屋が出ました。下見にいらっしゃいますか?」(これはまさに悪魔の囁きだった)
ま、一応見てみよう、気に入らなければ、断ればいいのだから、と出かけたのが運の尽き。

新居外観
*天国への近道?
12階建ての12階、端から2軒目、南向き、東はスカイツリー、西から南にかけてなだらかな丹沢山系まで見える景色。真下は2車線道路が2本、川を挟んで走っており、私の生きているうちに視界を遮る建物は立ちそうもない。
「ここだ!」
若いころはどちらかというと慎重派でなかなか決断ができない性格だったのだが、歳とともに、いつ死ぬかわからない、今決めなければ、となってきた。サ高住に入るときもそうだったが、重大な決断を衝動的にするようになってしまい、今回は息子たちに相談もせず、借りる決断をし、手続きを始めてしまった。
できるだけ長く一緒に、と約束した相手には「約束違えてごめんなさい」と謝り、現場に案内、景色を見て納得してもらった。
引っ越しの準備も、心の準備も、入居の時しようと思っていた断捨離もしてなかったので、引っ越しをするまでに3か月以上かかりダブルで家賃を払うことになったが、惜しい気はしなかった。
「私の人生、天国に行けるかどうかわからないので、できるだけ天国に近いところにスタンバって、天国行の選に洩れないようアピールするため」などと訳の分からない、テレ隠しの理由付けをして、知人たちに転居を知らせ、「その歳で?」などとびっくりさせているのである。
*もし私が、“大家さん”だったら
ここまで4年近く住んだサ高住は、はじめに期待したどおりにはいかなかったが、じゃあサ高住なんてなくなればいいかというとそう簡単に結論付けはできない。
で、あり得ないことだが、自分があそこの大家にだったらどうする?と考えてみた。
まず、ハード面でしたいことは、各階の共用ベランダに置かれている共用部分のエアコンの室外機を屋上に設置したい。ここにあると24時間運転で熱い空気・冷たい空気が排出されており、しかも音も大きいので、近くの住戸は窓を開けておけないのだ。屋上に上って、空を見たいと思っても上れないようになっており、貴重な空間を有効利用したいものだ。ゆとりがあれば、太陽光パネルを設置するなども考えたい。
次に、内線電話の設置と、外出ボタンはセンサーを付けて自動化したい。
フロントや食堂との連絡は内線電話にすべきでしょう?なぜ毎日の安否確認を外線でするのか、意味が分からない。外出ボタンの自動化は住人のボタン押し忘れのストレスから解放するため。欲を言えば、建物内一斉放送設備も欲しいかな。災害時などは、たかが三十数戸の建物だが1戸1戸知らせに行くのは・・・?
そして建物内コミュニティを作ってみたい。
近隣とのお付き合いが煩わしく、一人静かに暮らしたいという住人も少なくないだろう。が、社会と断絶したら、認知症になりますよ。介護保険で、デイサービスなどに出かけてもいいけど、この中で、クラブ活動があってもいいんじゃ?
私が置き土産にした古い洋画のDVDの鑑賞会は、アテンダーが引き受けてくれて、月1で定例化したそうだ、何しろ1階から2階の食堂に行って、開始と終了だけすればいいのだから、仕事量が増えた、ということもなさそう。簡単なポスター作りも引き継いでくれたし、私が個人的にしているより、大家さん側で主催となれば、参加者も増えることだろう。
同じように、麻雀とかトランプとか、囲碁・将棋などが趣味の人もいるのではないか、外に出かける方がいい場合もあるが、でかけられない人などが同好の士と楽しめるように、道具を備えて、きっかけづくりをすれば、自分たちで、支度・片付けもして、認知症予防にもなるし、また違う趣味が共通だった、なんてわかって新しいクラブもできるとか・・・学生時代のノリで、できそう。
無理やりコミニュティに参加させる必要はないが、私がいる間におしゃべりした限りでは、食堂を使わないと話すきっかけもないので、結構淋しいと思っている人もおり、きっかけづくりとなりそうなことはしてみたい。そんなに長い付き合いにはならないだろうが・・・
“大家さん”は無理だが、”差配(管理人)“にでもなったら・・・とか夢想しながら、最近、サ高住が儲け主義の悪徳住宅のように言われ始めているので、多様な高齢者の住環境の選択肢が狭まることのないよう、増え続けるサ高住の大家さんに、高齢者についてもう少し勉強してほしいと思いまとめた次第。

(左)ベランダから見下ろす (中)リビング (右)夕空の満月を眺めて
エピローグ
バタバタと引っ越しをして、朝晩外を眺めているうちに5か月近く経ってしまった。
折しも、ここ数年、介護保険の改悪が、大きな問題となってきているが、今回は、ことに、訪問介護事業の報酬が引き下げられたこと。その理由に、サ高住の中にある事業所が黒字になっていることがあると聞いた。書いたように私が住んだところには併設されていなかったが、地域の単独で運営している訪問サービス事業所のヘルパーとサ高住併設の事業所のヘルパーとでは、労働環境が全く違う。同じ建物内か近接されている事業所から利用者を訪問するのと、単独の事業所から自転車などで時間をかけて訪問してサービスに当たるのと、ヘルパーにとって、どちらがいいか、人材不足の業界で、何を標準に考えるのか?介護保険制度を運営する国や一部の事業所にとって都合のいいところを標準にされることのないように、と考えながら、書いてみた。どれだけ参考になるかわからないきわめて個人的なレポートに、最後までお付き合いいただき感謝します。
まとめるにあたっては、WANの星野監査にご助言いただくなど多大なお世話をいただきました。お礼申し上げます。
この先私も、介護保険のお世話になる日が来るだろう。12階まで来てくれるヘルパーさん大変だな、来てくれるかな?災害時だけの問題ではない、とわかっているけど、高さ故に見られるこの景色、いつまで見られるかなと思いながら、閉じさせていただきます。

夕焼けに浮かぶ富士山。ベランダから。
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