2024年3月に開館25周年を迎えた福岡アジア美術館が、約5000点の所蔵作品の中から厳選した「ベストコレクション」展の第2弾。急に福岡に行くことになり、開幕まもない9月16日に観覧の機会を得た。
「しなやかな抵抗」というタイトルのもとに展示されているのは、中国、カンボジア、パキスタン、インド、シンガポールに出自をもつ8名のアーティストの作品である。
厳選されているだけあって、どれも力強くメッセージ性の強い作品だったが、直接的な意味でもっともインパクトを感じたのは、今回この美術館に新収蔵されたホアン・ヨンピンの「駱駝」(2012年)という作品。ムスリムの人びとが1日5回の礼拝のときにひざまずく絨毯がメッカの方角に向けて床に置かれ、その上に等身大と思われるラクダの剥製がしゃがんだ姿勢をとっている。鼻には太く長い針が刺し通され、横腹の毛が一部刈り取られて、そこに「金持ちが神の国に入るよりも、駱駝が針の穴を通る方がまだたやすい」という新約聖書の中の1節がフランス語で刻まれている。

展示場のパネル解説に加え、配布されている解説ガイドを読むと、アラブ世界ではラクダの所有が富の象徴となり、キリスト教では人類の罪を背負ったイエス・キリストになぞらえられることがあり、イスラームでは預言者ムハンマドの乗り物とされ、儀式などで生け贄として捧げられることもある、ということがわかる。一頭のラクダに対して異なる文化や宗教が異なる意味を見いだしうることを象徴的に示したこの作品は、ヨーロッパに流入したムスリム移民への偏見や差別をめぐる状況を背景に制作されたという。なるほど、と感心しつつ、物言わぬラクダと向き合っていると、心がざわつく。
「卵 #3」というタイトルの作品は、出産後の作家自身の身体から女性的な特徴をそぎ落とした加工画像に大小無数の糸玉がつながっているインスタレーション。糸玉は女性が一生のうちに排出する卵子であると同時に、女性性と結びつけられがちな糸巻きや裁縫といった手仕事を象徴する。その糸玉たちと女性の身体を結びつけるこれまた無数の細い糸は、女性が固定的な役割や規範に縛り付けられていることを意味する。優しさ、繊細さとグロテスクさが同居している情景に、やはり心がざわつく。

他の作品も、批判や抵抗の対象が明確でありつつ、だが単純明快な主張には回収されない多義性を備えている。しなやかに揺さぶりをかけられる感じ。
偶然だと思うが、同じ福岡市内の福岡市美術館でも「あらがう」というテーマの企画展が開かれている(「奮起する現代作家たち あらがう」2024年9月14日〜12月15日)。こちらは日本の1990年代生まれの作家3人による12作品の展示で、原爆の図丸木美術館で展示されたシリーズの一部や、北九州のキリスト教会に集う人びとが演じるイエス・キリストの受難劇と、演じ手が経験してきた人生の困難とが交錯する映像作品など。
どちらも会期が長いので、福岡にお出かけの節は是非お立ち寄りください。