
ワンオペ女性へのエール
2年ほど前のこと、ミニコミ誌のとある記事に目が留まった。記事の筆者は74歳の友人だった。その夏いろいろな悩みを抱える親とその子、家族、支援者などで合宿でのこと。最後の夜、皆が寝静まった食堂に30代から~40代の女性数人が集まり、話し込んでいた。彼女はその話に引き込まれていった。「毎日の生活が一杯一杯、賃金労働と家事と子育てに手が抜けない」「毎日心身ともに疲れ果て、倒れるように寝てしまう」「夫は頼りにならない、頼れるのは保育士さんくらい」等々。愚痴のこぼしあい、慰めあいだ。
「ワンオペレーション(女性が仕事と家事、育児、介護を一人でしていくこと)に押しつぶされそうになっていることが、いやというほど伝わってきた」と友人は言う。「これって私たちがワンオペをしてきた40年前と少しも変わらないね」とも。
時代は変わった。家族やカップルの在り方も変わりずいぶん民主的になったと言われる。女性の学歴は高くなり、健康度も増し、仕事を生きがいにする女性も珍しくない。だが、友人の話を聞くにつれ、根底のところはなにも変わっていないと感じた。根底にあるものとは家父長制と良妻賢母思想とが合体した社会通念だ。
子育ては女性の仕事。子どもが生まれたら専業主婦になり、子育てに専念する。妻が夫を「主人」と呼んで憚らない。それが女の生きがいであり役目であり、母親失格は人間失格である。仕事か家庭か。それとも両立するか(つまりワンオペ)という選択がいまだに女性だけにある。
私は高校教師であった40年前、育児休業を取り、家事、育児に専念した。専業主婦の毎日は想像以上に退屈で閉塞感に満ちていた。だから1年の育休を2カ月前倒しして職場復帰した。その時からワンオペ生活がはじまった。正直、毎日きつくてつらかった。だがワンオペには、専業主婦という退屈と閉塞感からの解放と、そのつらさを上回って余りある充足感があった。つらさがなければ幸せもないのだと私に教えてくれたのが、ワンオペというあり方だった。
本書はワンオペ実践中の女性に聞き取りをし、彼女らの生活実態と心の本音に迫ろうとした試みである。ワンオペを通して見えてくる女性の生き方を深く鋭く掘り下げていくとともに、仕事か家庭か、それともワンオペかという選択を目前にしている女性へのエールでもある。男女ともに生きやすい世の中の一助になれば幸いである。
書名 :自立と犠牲 ワンオペ女性のライフストーリー
著者 :梶原公子
頁数 :192頁
刊行日:2025年1月20日
出版社:あっぷる出版社
定価 :1980円(税込)
