
<てるてる Reading Circle とは?>
2012 年に⼥性学(「⼥性の⼥性のための⼥性による学問」)の第⼀⼈者である故井上輝⼦先⽣が和光⼤学を定年退職後「⽊曜研究会 」をスタート。2014 年度に「GF 読書会」と名称変更し、WAN サイトの⼥性学講座コーナーに半期ごとの活動報告を掲載。2021 年に井上先⽣が逝去された後は「てるてる Reading Circle」として、オンラインで活動中。メンバーはさまざまなバックグラウンドの 20 ~ 70 代の⼥性たち。現在新メンバーを募集中。ご連絡はこちらまで:teruterurc@gmail.com
*現在文庫の入手が難しくなっています。
電子書籍(Kindle版)については、すぐに購入が可能です。
<書籍紹介>
社会主義婦人論の論客で戦後は初代労働省婦人少年局長として活躍した山川菊栄とその母親2代の明治~大正~昭和にわたる自叙伝である。
大きく4つの章からなっており、最初は「ははのころ(明治前半)」から始まる。水戸藩士の家に生まれた母親・千世が、封建的な家制度の中で教育を受け、15歳で東京へ出て新しい時代の女性として自立を模索する。文明開化の中で女性の葛藤と希望が描かれる。
次の「少女のころ(明治後半)」は、菊栄の幼少期から学生時代。母の影響を受けながら、女性の学びや社会的制約に疑問を抱き、知識と自我を育てていく過程が綴られる。
「大正に入ってから」では、山川均との結婚後、婦人運動や労働運動に参加。伊藤野枝や与謝野晶子との論争、公娼制度や母性保護論争など、当時のフェミニズム的課題に社会主義の視点から取り組む。
最後の「昭和に入ってから」は、戦時下の弾圧の中で婦人参政権への思いや生活の困難、夫の投獄を経て、戦後の再出発へとつながる。物語は昭和22年(1947年)の母の辞世の句で幕を閉じる。個人的には少しでも収入を得るため、慣れない商売を研究(?)しながら次々と試みるが、中でも当時銀座三越の定食にも卸していたうずらの話は面白く印象に残っている。
著者は人名ややり取りを詳細に記憶しており、当時の社会の状況と合わせて、女性の生き方に焦点を当てた、とても興味深く読みごたえのある内容となっている。
<読書会を終えて>
今回、この読書会の前身である故井上輝子先生の和光大学で行っていたGF読書会(https://wan.or.jp/general/category/wakou)で取り上げた本を紹介させていただきました。GF読書会では、主に近現代女性に焦点を当てた本を中心に取り上げていました。日本を代表するフェミニストの市川房枝、平塚らいてう、与謝野晶子、伊藤野枝、高群逸枝。戦後の女性運動をリードしてきた田中寿美子、赤松良子、樋口恵子(https://wan.or.jp/article/show/11737)やNHKの朝ドラから村岡花子、広岡浅子、大橋鎮子といった女性についての作品など。
広い意味での日本のフェミニストたちの自伝や伝記を読むことにこだわった理由を井上先生は『女性の生きた軌跡にはそれぞれの女性たちが生きた時代や階層や地域を含むジェンダーの構造が反映されている。と同時に、自分たちを取り巻くジェンダー秩序に何らかの形で抗った女性たちの意思や作戦や振舞いの痕跡を見ることができる。(中略)自分の人生途上で選択を迫られる無数の機会に、判断材料として大いに参考になると思われる』と述べています。
この本でも山川菊栄の社会主義の思想家としての側面だけでなく、読書会で取り上げてきた平塚らいてうや伊藤野枝、与謝野晶子など同時代人とのやり取りや人物評、情景やその時の心情から、こまやかな観察眼と冷静な分析力といった人柄をうかがい知れます。変動する時代の社会の中にあって、常に前を見据えながらしなやかに歩む姿勢には、今を生きる私たちにも深い示唆を与えてくれます。
また、読書会では、性別、年齢、経歴や経験が異なるメンバーが語り合うことで、一人で読んでいては気づかなかった視点や考え、知識を得ることができ、より深く本から学ぶ機会となります。と同時に、メンバーから刺激をもらい、自由に感想を述べあうことができる雰囲気の中で、自分というものを見つめ再確認することができる場でもあります。
◆書誌データ
書名 :おんな二代の記
著者 :山川菊栄
頁数:462ページ
刊行日:2014/7/16
出版社:岩波書店
または
出版社 : 平凡社
刊行日 : 1972/2/1
◆関連書籍
書名:『未来からきたフェミニスト 北村兼子と山川菊栄』
頁数:336頁
刊行日:2023/5/31/
出版社:花束書房
定価:2,300円(税別)

