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赤ちゃんからみた世界ってどんなの? 内藤葉子
2012.12.14 Fri
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前回のエッセイにちかさんの妊娠体験記、多いに共感しながら読みました。でも思い出してみるに、わたしの場合、妊娠中に妊娠・出産に関する本ってあまり読んでおらず、むしろ赤ちゃん学的な本を読んでいました。母となる自分よりも、おなかのなかで育ち生まれてくる赤ちゃんの視点からみえる世界のほうに関心が向かったというか。
この「赤ちゃん学」なるもの、実験心理学とか人間発達学とか脳科学とかの分野になるのかと思うけれど、ここ30年ほどで研究が進んできた新しい分野のようです。なんとなく乳幼児というのは絶対的に無力な存在と思われがちだけれど、赤ちゃん学の世界では、赤ちゃんがもっている能力は意外と高い!らしいです。
山口真美『赤ちゃんは世界をどう見ているのか』(平凡社新書)では、「見ること」にしぼって実験の結果をいろんな角度から紹介してくれます。赤ちゃんの視力は生まれたては0.001程度だけれど見えていないわけではないし、視力が発達する時期には、コントラストがはっきりしていて、複雑な図形を好むのだとか。空間認識はどうなっているのか、形が分かるとはどういうことか、どんな色をみているのか等々、8か月ほどで劇的に発達する脳と、「見ること」の密接な関係が解き明かされていくのです。
実験!実験!脳科学!な話もおもしろいのだけれど、やっぱり社会科学にも関連してくるところのほうが、自分のなかでの食い付きが違ってたりしますね。赤ちゃんが成長する過程に関わる人間は圧倒的に女性が多いので(母親、保育士等々)、赤ちゃんは男女の顔の識別ができるようになるとき、女性の顔を基準に、それと差異化する形で男性の顔を認識するようになるらしいです。でもこれは文化的な要素もかかわっているので、父親がメインで子育てをする場合には、逆に男性の顔を基準にして、それと差異化する形で女性の顔を認識するようになるのだとか。
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生まれた直後の赤ちゃんから3歳ごろまでの幼児を扱った、野村庄吾『乳幼児の世界』(岩波新書)は、たまたま手に取った本だけれど、どの話もとてもおもしろかった。なにより、赤ちゃんはすでに社会的存在として生まれてきているというところに感銘をうけました。生まれてすぐの赤ちゃんが、大人が舌をだしたらそのマネをするという「共鳴動作」、母子の授乳が対面的であることなど、とにかく「関係性」に対してとても敏感な能力をもっていると主張されています。
現在うちの子どもは2歳で、言葉をつかった意思伝達や感情表現がなんとなーくできるようになってきています(といっても20%くらい?)。言葉のでる以前に、モノのあげもらいをする段階があるのだけれど、モノを媒介にしたやりとりは、言葉を使ったやりとり(コミュニケーション)と同じ構造をもつらしいです。いわれてみると思い当たる節があるけれど、モノのやりとりから言葉のやりとりまでのプロセスって、けっこう長いなあと実感してます(やっと言葉が通じてるかも!?というのは最近なので(^_^;))。ともあれ、生まれてすぐの赤ちゃんは、自他の区別のない世界にまどろんでいるだけれど(これも不思議!)、モノや言葉を媒介に自己が確立され、社会化へのプロセスを辿っていくことになるわけです。
社会科学などをかじっていると、「自己」とか「自我」とか、何かそうした完成したものがあると前提して議論をすすめてしまうことがよくあるけれど、本当は、そうしたものは長い時間をかけて、多くの周囲の人々との日常的な関わりがあって形成されていくものなのだなあと気付かされます。でも科学的な議論のなかではそうしたことを意識することはほとんどない。それってどうなの?という気持ちがありますね。
赤ちゃんや幼児を、無力であるけれども社会性への芽をもった別世界の住人として捉えて、この子たちとの日常的な関わりのなかで何が見えてくるのか、そのときどきの関係性のあり方を驚きをもって見つめなおすことができれば、もっと違った風に世界を見ることもできるんじゃないかなーと想像したりするのです。(内藤葉子)
次回「「別世界の住人」の目から世界をみる」へバトンタッチ・・・・つぎの記事はこちらから
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