2009.05.20 Wed
少子化が話題になっている昨今、世界のさまざまな国で出生率向上に結びつけようとする家族政策が行われている。抜本的な対策をとろうとはせず、それでも数字をあげたい日本の自治体関係者の思いつくことは、「出会いの場」の設定など、相変わらず発想の貧困さを露呈するものだ。結婚こそ、出生率向上の前提条件ととらえる人たちのなかには、表だってこそ言わないものの、女性の就業率上昇が出生率に悪影響を及ぼしていると考えている人がいるかもしれない。 しかし、北欧諸国やフランスなど、先進国のなかで合計特殊出生率が回復傾向あるいは2.1に近い国は、女性就業率の高い国である。逆に専業主婦の多いドイツの出生率は、1.3台で、ヨーロッパのなかでもとりわけ低水準だ。専業主婦と働く女性に2分され、しかも保育所など、育児施設が貧困なドイツでは、女性の就業意欲の高まりとともに「産みにくい」状況に拍車がかかって、産めない、産まない女性が増加した。それに対して働く女性が多くて家庭との両立策が充実している国では、就業が出産にマイナスに作用することはなく、高い出生率を保っているのである。
ドイツでは、3年ほど前から、従来の「3歳までは家庭」でという指針を根本的に転換する家族政策を推進している。女性就業を前提として、産みやすく、育てやすく、しかも働きやすい社会作りを目指すようになったのだ。そのために、保育所などのインフラの充実、出産が家計にマイナスにならない財政支援、そして子どもと過ごす時間の確保、という3つの領域でお互いが相乗効果をもたらす総合的な施策が導入された。経済界も、従来の家庭と職業を対立的にとらえるという発想を捨てて、子どもが成長ファクターになるととらえ、子どもにやさしい企業への脱皮をはかるために、国や自治体と協力しつつ、さまざまな企業家族政策を実施している。企業も、女性は戦力、女性にしっかり働いてもらわないかぎり明日はない、と考えるようになっている。しっかりした教育を受けた女性労働力への期待は非常に大きい。
さて、収入面では何といっても2007年1月に導入された両親手当である。女性が比較的短期の育児休暇で職場に戻り、男性も育児休暇がとれるよう、片親が育児休暇を取得した場合12カ月、続いてもう片親が2カ月取れば、最大14カ月まで休暇前の手取り給与の67%がもらえるしくみが作られた。これにより、男性の休暇取得率は激増した。
もっと重要なのは、育児のための環境作り。核家族だけでは育児は担いきれない。まして仕事との両立となればもっと大変。ドイツでは、育児を各家庭のプライベートな営みととらえず、社会全体で子育てにとりくもうと、社会的ネットワークの整備が進んでいる。地域で企業、教会、各種団体、保育施設、ボランティアなどが協力しあって、育児による孤立化を防ぎ、育児や仕事のための時間を生みだすための「家族のための地域同盟」や「多世代ハウス」の設立があいつぎ、地域同盟の数は400を越えている。国や自治体は、同盟設立のお手伝いはするが、その内容を決めるのはあくまで利用者だ。家族を「プライベートな領域」に追いやるのではなく、家族を積極的に支援するが、介入はしない。それが基本姿勢である。
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