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旅先で本を読む 飯田祐子
2009.06.29 Mon
<p> 「本」と一口にいうけれどその内容も形もさまざまだ。内容が多様なのは言うまでもないが、形自体はとりあえず四角だとしても大きさはまちまち、装丁も本当にまちまち、厚さや重さや紙の匂いやさわり心地もまちまちである。選択の幅はたいへん広く、利用するのに特別な道具が必要なく、どこでもいつでも楽しめるので、退屈をしのぐのにたいへん便利である。ということで、旅に出るときには、必ず本を持参する。<br /> これまでいろんな本を読んできたけれど、旅先で読んだもののいくつかは、旅の思い出とともに鮮明に記憶に残っている。たとえば、バリへ行ったときに読んだエミリー・ブロンテの『嵐が丘』。<!–more–></p>
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<p>まぶしい太陽と、いくぶん湿った空気、ときおり水に入りながら芝生に横になって、どうしてここで私は『嵐が丘』を?と自分でもおかしな取り合わせだと思いつつ、それでも熱中して読んだ。あるいは、マウイへ行ったときに読んだ村上龍の『半島を出よ』。これまたなんでわざわざ弛緩しに行ったその場所でそれを?というようなものだけれども、遠くに海を見ながらコンドミニアムのひんやりしたソファに横になって、毒々しい蛙のはりついた表紙を開いて、興奮しながら頁をめくったのだった。強い日射しに焼かれながら、冷たく厳しい荒野の風景を覗きみた感覚も、爽やかな風が抜けてゆく部屋で、爆音すさまじい崩壊のシーンに汗ばんだのも、小説の中味だけではなくて読んでいる自分とセットではっきり記憶に残っている。</p>
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<p>旅行に行くとき、どの本を持って行くのか考えるのは、楽しい。道中や行った先でのその時々の気分を想像しながら、内容やら、厚さや重さや装丁やら、それぞれに異なるものをあれこれと選ぶ。なるべくばらばらになるように選ぶ。旅の気分は変わりやすいからだ。旅先であらためて自分が持ってきた本を眺めて、うまくいったと思うこともあるし、もちろんその逆もある。けれど、とりわけ記憶に残っている例を思い返してみると、読んでいる自分が置かれている状況と本の中の世界とのギャップが甚だしいもので、どういうわけかうまくバランスがとれて、そのずれが心地よく感じられたときということになるだろうか。</p>
<p>読む快楽というのは、何を読むかというだけでなく、どこでどのように読むかということと深く結びついているのだろうと、今更ながら思う。本を読むのは楽しいけれど、本を選ぶのもまた、楽しいものである。読みたい本を見つけたとき、読む時間と場所を勝手気ままに選べたら、もっと楽しいのかもしれないと思うけれど、なかなかそうはいきません。</p>
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