2009.07.02 Thu
このところ、大学が急速に女性にフレンドリーになろうとしている。各大学が競って、男女共同参画のための制度作りを進めている。 4年ほど前、文部科学省は、科学技術振興調整費による「女性研究者支援モデル育成」の助成を始めた。少子高齢社会に突入した日本の国際競争力をいかに維持していくか、それには科学技術力の強化、では科学技術の世界で活用できていないのは誰か、それは女性と外国人、ということで始まったのである。だから対象になるのは理系の女性研究者のみ、という、こちらからすればおおいに不満な点はあったが、何はともあれ久々の追い風。風に乗って疾走しない手はない。
全国のいくつかの大学と並んで初年度の助成をいただいた京都大学では、2006年度からの3年間で、女性研究者支援センターを設立し、京大病院内に病児保育室の開室、育児・介護中の女性研究者のための研究・実験補助者の雇用、女性専用の相談窓口の整備、メンター制度の導入、各種の研究会と調査研究の実施、学童保育の意味も持たせた夏休みキッズサイエンススクール、保育所入所待ちの待機乳児保育室の開設と、あっという間にさまざまなメニューを取り揃えた。
建築学の女性教員の指導のもと、古い官舎を改造した黄色い外壁の可愛らしい建物が完成し、1階の待機乳児保育室ですやすや眠る赤ちゃんたちや、ベビーベッド付きの和室で授乳している院生や学生を見ていると、自分が院生で出産した頃に比べて隔世の感がある。今までかかった、と思う反面、ここまできて本当によかったなあ、と思う。
ちょっとしたきっかけでこんなに急速に進んだのは、1960年代以来の保育所運動や、1980年代からの女性教官懇話会の活動など、大学に関係する女性たち(と一部の男性たち)が培ってきた経験とネットワークが、ここぞとばかりに動いたからだ。大学が音頭をとると言っても、実際に動くのは熱意のある女性たち。大学の男女共同参画は「手押し車」のような事業だと、つくづく思ったことがある。一歩一歩押さねば進まない。学内に逆風も消極派も多いから、押す手を弱めれば、押し返されてしまう。半世紀のさまざまな活動の中で育った豊富な人材とネットワーク、知恵の蓄積が、矢面に立つ現役を支えてくれた。WANもそうだけれど、シスターフッドはパワフル。逆風だろうと追い風だろうと続けていたら、一気に進むときもある。
科学技術振興調整費の支援はこの3月で終了し、京都大学は自前の資金で事業を続けることを決定した。しかも「女性研究者支援」から「男女共同参画」に間口を広げて。これまでも、病児保育室等は職員や学生の子供も対象にする、研究・実験補助者の雇用は育児や介護に携わる男性研究者にも門戸を広げる、理系のみ対象という縛りは無くすなど、ことあるごとに対象の拡大に努めてきたが、今後は名実ともに大学の全構成員、すなわち職員、教員、学生、しかも男女双方にとって、働きやすく学びやすい大学づくりをめざしていくことになる。現在の大学はまだまださまざまな問題を抱えているけれど、社会の知恵袋として、賢い解決法を提案し実現していくことも大学の役割だろうと考える。
なお、京都大学の女性たちの半世紀を超える活動と最近の事業展開、および各時代の調査記録などをまとめた本を作りましたので、よろしかったら見てみてください。ウェブサイトもあります。情報交換もよろしく!
『京都大学 男女共同参画への挑戦』明石書店
http://www.cwr.kyoto-u.ac.jp/index.php 女性研究者支援センター
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/profile/gender_equality 男女共同参画
カテゴリー:ちょっとしたニュース / 男女共同参画
タグ:落合恵美子
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