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映画評:『BOY A』 上野千鶴子
2009.08.10 Mon
少年Aがこの世に戻る。あなたは、それを受け入れられるだろうか。
「少年 A」と言えば、だれでもあの事件を思い浮かべる。この映画は、日本人の観客にとってはとくべつな映画だ。実際、日本の事件報道に影響を受けたイギリスの20代の若い作家によって書かれた原作をもとに、この映画はつくられた。 あの少年Aが刑期を終えてこの世に帰ってくる……名前を変え、過去を変えて。保護観察官のテリーが、薄氷を踏むような社会復帰の過程をサポートする。娑婆の空気を10歳の時から14年間吸っていない少年は、24歳という年齢に似合つかわしくない世慣れぬ青年に成長した。無垢と孤独、絶望と恐怖を寡黙な表情で演じるアンドリュー・ガーフィールドは、これ以上ないはまり役。実年齢と同じ設定の役まわりを演じる新星は、「21世紀のジェームズ・ディーン」となった。だが少年Aと比べると、20世紀の非行少年たちの方がよほど牧歌的に思えるくらいだ。
マスメディアは、「あの悪魔が帰ってくる」と書き立てる。世間は少年Aの罪を許していない。素性がばれたらリンチにあって殺されかねない。「絶対に、絶対に誰にも言っちゃいけない」とテリーは何度も念をおす。
もしあなたが最近知り合ったナイスでシャイな青年が、そうだとしたら?もしあなたがその青年に惹かれ、ベッドを共にしたあとに、そして青年があなたを本気で愛したことを知ったあとに、彼の過去を知ったとしたら?
「ボクはもう、昔のボクじゃない」と彼は言い、テリーもそれを肯う。だが「昔のボクじゃない」と言いながらも、過去を含めてまるごとの自分を受けいれてほしいと、青年は苦悶する。
だが、物語は悲劇で終わる。映画評のマナーに反するから、結末は明かさない。本人ではない、世間が許さないのだ。世間とは、わたしやあなたのこと。あなたなら、受けいれられるか、と映画は重く問いかける。
テリーが青年に父性を示す一方で、再会した実の息子とはうまくいかない。息子との確執からとりかえしのつかない過ちが起きる。家庭に失敗した男の皮肉を、ピーター・ミュランは苦しみとともに演じる。少年にも、彼と凶行を共にする友人の背後にも、性的虐待やアルコール依存症など、家庭崩壊の現実がある。ふたりの少年時代を演じる子役が、キレる少年の暴力性をうまく出している。
この映画を、本物の「少年A」が見たら?と思うと、寒気がする。
監督:ジョン・クローリー、
制作年:2007年 イギリス
出演:アンドリュー・ガーフィールド、ピーター・ミュラン、ケイティ・リオンズ、ショーン・エヴァンス
配給:シネカノン
(初出クロワッサンPremium 2008年12月号)
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