2009.08.19 Wed
政党アンケートで、わたしたちがなぜこれらの質問を選び、このような選択肢を並べたのか、その意図と社会的背景を解説します。政党の回答を読むときの参考になさってください。(1-1) 男女雇用機会均等法は性別による採用、昇進等における差別を禁止していますが、罰則規定が弱く、また違反摘発もほとんどされないため、遵守されていません。10年前にはほとんど見られなかった20代の非正規率の男女差の拡大(女性40%、男性20%)は、採用時における何らかの差別の存在を示唆していると思われます。これまでは「既婚女性は家計補助だから」「子どものいる女性は一人前に働けないから」などという理由で女性差別が説明されることがありましたが(この理由づけ自体が不当ですが)、今はそういう理由すらなく、女性であるというだけで差別される時代に逆戻りしているのではないかと危惧されます。
(1-2)「同一価値の労働に対する同一報酬の原則」(ILO100号条約:日本は1967年に批准)がありますが、まったく遵守されていない状況であるため、この原則の実効性を高める必要があります。例えば、2009年度男女共同参画白書(http://www.gender.go.jp/whitepaper/h21/zentai/html/zuhyo/zuhyo022.html) によると、労働者1時間あたりの平均所定内賃金格差が挙げられており、男性正規労働者を100とすると、女性正規労働者が69、男性短時間労働者が53.3、女性短時間労働者が48.5となっており、当該原則が遵守されていないことを示唆しています。この原則が徹底されれば、短時間や非正規の労働者であっても、時間あたりの報酬は正規労働者と差をつけられません。非正規労働者を増加させた社会では、せめてこの原則を徹底させることが、世界の常識となりつつあります。
(1-3) 日本では労働者派遣法が改正(2004年3月から施行)され、派遣期間の制限の見直し(●一定の要件を満たす場合は1年を超え3年以内のあらかじめ定めた期間まで、それ以外は1年まで、●26の専門的業務に係る3年の期間制限指導は廃止、●介護休業などの代替業務派遣は派遣期間制限の対象外、●就業日数が限られている業務は派遣期間の制限の対象外等)、派遣対象業務の拡大等が認められました。(http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kaisei/dl/haken.pdf) 。これを契機に、日本における、いわゆる派遣労働問題が表面化してきました。派遣労働者の多くは女性であるという、性差別の側面にも注意を向ける必要があります。
EUでは、全ての加盟国に対し有期雇用の濫用防止原則(「ETUC,UNICEおよびCEEPが締結した有期労働の枠組み協定に関する1999年6月28日の理事会指令 1997/70/EC」の付属文書である「ETUC,UNICEおよびCEEPが締結した有期労働に関する枠組み協定」の第5条)があります。特に、有期雇用を更新する場合は、それを正当化する客観的理由が必要となります。日本ではそのような原則は現在なく、そのため本来有期である必要のない仕事にも有期雇用が用いられ、有期雇用労働者に対して様々な差別が起こっていると考えられます。
(1-4) 産前産後休業及び育児休業の取得は法律で認められた権利です。その取得を理由に解雇や配置転換・昇進差別などの不利益な取り扱いをすることは、法的に禁じられています。しかし厚生労働省が2009年3月に公表した「現下の雇用労働情勢を踏まえた妊娠・出産、産前産後休業及び育児休業等の取得等を理由とする解雇その他不利益取扱い事案への厳正な対応等について」(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/dl/h0316-2a.pdf) によると、年々産前・産後休業及び育児休業等の所得等を理由とする不利益扱いは増加しています。いわゆる、「産休切り」、「育休切り」の実態です。日本のいわゆるM字型雇用(結婚・出産時に離職するケース)も続いています。参照:2009年度男女共同参画白書(http://www.gender.go.jp/whitepaper/h21/zentai/html/zuhyo/zuhyo020.html)
(1-5) 女性労働者の問題として、就職差別は根強くあります。女性は就職の入口にすら立てないことも多く、働く機会を奪われている例も多くあります。(1-1)について述べたように、その傾向は近年強まる方向すら見せています。この質問では、女性を含め、最初の職をみつけるために時間がかかる若者が増えていることへの対策について尋ねました。このようなケースでは、失業保険に加入することもできないため、求職活動中に何の手当ても受けられず、若者の貧困と彼ら彼女らを支える家族の困窮の大きな原因となっています。ヨーロッパなどでは、このような場合にも生活保障が受けられる制度を整えている国もすでにあります。
(2-1) 高齢期女性の多くは自分自身の年金受給権のみでは生活に十分な額を受け取ることができません。特に夫の死後また未婚の単身高齢女性の貧困率は、5割を超えます。これは、十分な雇用機会や賃金に恵まれない女性が多いこと、育児や介護などの負担のために中途離職せねばならない女性も少なくないこと、家事・育児・介護などは社会の存続のために重要な仕事であるにもかかわらず対価の支払われない「不払い労働」となっていることなど、女性に不利な社会の仕組みの総合的な結果であり、女性を夫の付属物のように位置づけてきた社会保障制度の歪みのあらわれでもあります。労働市場における女性の状況が改善されない現状を踏まえると、憲法が保障する最低限満たされるべき生活保障は社会保障制度によって補わなければなりません。例えば、公的年金制度の改革、医療制度(後期高齢者医療制度/長寿医療制度)や国民健康保険制度の改革、介護保険制度の改革など、高齢期の女性の生活保障に関わる政策について、総合的に見直す必要があるでしょう。
(2-2) 母子家庭世帯は増加傾向にありますが、母子家庭世帯への支援は打ち切られる一方です。2006年の政府による「国民生活基礎調査」によると、母子世帯の1世帯当たり平均所得金額は、211万9千円であり、世帯人員1人当たり平均所得金額は、81万3千円でした。これは、全世帯の1世帯当たり平均所得金額563万8千円、世帯人員1人当たり平均所得金額205万9千円に比べてはもちろんのこと、高齢者世帯の1世帯当たり平均所得金額301万9千円、世帯人員1人当たり平均所得金額189万円に比べても、はるかに低い水準となっています。しかし日本の母子家庭の母親は、国際的に比較すると、就業している割合が非常に高いことで知られています。2006年厚生労働省「全国母子世帯等調査」によると、2006年時点で、母子世帯の母の84.5%が就業しており、就業している者のうち、常用雇用者は42.5%、臨時・パートは43.6%です。また、母子世帯の母親で不就業の者のうち、「就職したい」とする者は78.7%にのぼります。(参照:厚生労働省「母子家庭の母の就業の支援に関する年次報告」http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/boshi/08/dl/11.pdf)。母子家庭の自立を促す政策も続ける必要はありますが、自立への努力がすでに限界に達していることを踏まえた支援策が必要でしょう。
(3-1)
「 日本国憲法24条
1 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」
自民党憲法調査会プロジェクトチームは2006年春、家庭における両性平等を定めた憲法24条について「家族と共同体を重視する観点から見直すべきだ」との論点を打ち出しました。同チームは、現行の条項の前に、「家族は社会の基礎として保護されなくてはならない」という条項を挿入することを提案しています。戦前の大日本帝国憲法は「家族保護主義」でしたが、日本国憲法24条は「個人の尊厳と両性の本質的な平等」を、より優先して保護するべきものだ、と規定しています。戦前の家父長制復古のようにも思えるこの議論への賛否について尋ねました。
(3-2)「ジェンダー」とは「社会的・文化的性(性別・性差)」を意味する学術用語です。生物学的カテゴリーとしての「セックス」と区別するために、1970年代から世界の学界で広く採用され定着してきました。歴史学における「男性は仕事、女性は家庭」という役割分担の歴史的形成過程の解明、経済学における労働市場での男女格差の分析、医学における性差医療の提唱など、ほんの一部を挙げても「ジェンダーに敏感な視点(ジェンダー視点)」をもつことがさまざまな学問分野においてもつ有効性は明らかです。(日本学術会議学術とジェンダー委員会対外報告「提言:ジェンダー視点が拓く学術と社会の未来」http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t29.pdf)
しかしこの「ジェンダー」という概念を曲解し、学校での男女同室着替え(実は更衣室の不備などによるもので「ジェンダー」という言葉が登場する以前の1960年代にも行われていた)は「ジェンダーフリー」教育の悪しき影響などとする誤解と矮小化に基づく批判が起こり、公共図書館等からのジェンダー関連図書の排除(福井県生活学習館焚書坑儒事件)や、行政文書や教科書から「ジェンダー」という用語を抹消しようという動きがありました。
これは、男女平等という価値への挑戦であるばかりでなく、憲法に保障された「表現の自由」「言論の自由」の抑圧という重大な問題です。たとえば「社会主義」「民族差別」といった用語に対して同じ動きが起きたら、と想像してみましょう。思想統制と言論弾圧のまかりとおった戦争中のような社会にしないために、断固とした態度が必要です。
(3-3) 2007年、アメリカ合衆国の下院議会は、戦時下の日本軍の「慰安婦」について、「20世紀最悪の人身取引」として位置づけ、日本政府に公式の謝罪を要請する決議をあげました。続いて、カナダ、オランダ、さらにEU議会においても、同様の決議があげられています。2008年には、韓国および台湾の議会も、2度目の決議をあげています。
「村山談話」(http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/press/danwa/07/dmu_0815.html )とは、当時の村山富市首相が、1995年8月15日の敗戦後50年の日に、日本が戦中・戦前に「侵略」や「植民地支配」を行ったとし、公式に謝罪したものです。
(3-4) 人身取引(特に女性と子ども)に関する国連の特別報告者である、ジョイ・ヌゴジ・エゼイロ氏が、2009年7月12日から17日にかけての訪日調査に来られました(http://unic.or.jp/unic/press_release/1211/ )。これは、国連からも、日本が人身取引犠牲者の目的地国と位置付けられているからです。また、アメリカ合衆国が発表している人身取引についての年次レポートにおいて、日本は2004年以後現在まで、主に性的搾取を目的とした人身取引において要監視対象国として位置づけられています。
(3-5) 2001年10月から「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(通称:DV防止法、配偶者暴力防止法)」施行されました。他には、「ストーカー行為等の規制等に関する法律(通称:ストーカー規制法)」(2000年11月施行)などにより、元夫婦などの行動の規制等が行われています。この法律でカバーされる範囲は、同居関係にある配偶者や内縁関係・両親・子・兄弟・親戚などの家族で、結婚していない恋人間や同居していない両親・子・兄弟・親戚などを対象としておらず、不備を指摘する声も多くあります。また、被害者が逃げる場所(シェルター等)が不足していることや、加害者から被害者が身を守る為に、接近禁止等の命令を出す保護命令に時間がかかり過ぎることも問題となっています。
(3-6) 「セクシュアル・マイノリティ」の国際団体であるILGA(International Lesbian, Gay, Bisexual, Trans and Intersex Association)によると、未だに同性愛行為について5カ国が「死刑」、72カ国と3地域が「投獄」(imprisonment)となる一方、欧米を中心に、52カ国と38の地域が反差別法を持ち、23カ国と26の地域が同性婚を含むパートナーシップ法を持っています(2009年5月現在)。
しかし日本では、東京都が施設利用に際し同性愛者の利用を拒否して訴えられ敗訴し(「府中青年の家事件」。97年、控訴審判決確定)、また、「セクシュアル・マイノリティ」の人権への配慮をうたう条文を持つ男女共同参画条例から当該の文言が削除される事態も起こっているにもかかわらず(2006年、宮崎県都城市)、2006年に成立した「性同一性障害者特例法」(2008年一部改正)を除き、「セクシュアル・マイノリティ」のための立法は行われていません。
また、日本政府は、「人権教育・啓発に関する基本計画」を策定しており(法務省)、その中の「課題」として、「(12) その他;「以上の類型に該当しない人権問題,例えば,同性愛者への差別といった性的指向に係る問題や新たに生起する人権問題など,その他の課題についても,それぞれの問題状況に応じて,その解決に資する施策の検討を行う」とし、昨年12月の「第60回人権週間」では、「強調事項」として「性的指向を理由とする差別をなくそう」、「性同一性障害を理由とする差別をなくそう」と掲げていますが、啓発パンフレットへの掲載、人権相談での受付は行われているものの、法務省人権擁護局として、「セクシュアル・マイノリティ」に特化した形での啓発活動は行っていません。
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