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映画評:『ジュリー・アンド・ジュリア』   土井ゆみ

2009.10.17 Sat

 シンデレラ・ライターと伝説的料理人
 この夏、またしてもメリル・ストリープ主演の映画『ジュリー・アンド・ジュリア』がヒットしている。去年のミュージカル『マンマ・ミーア!』、06年の『プラダを着た悪魔』に続いて3度目の大ヒット。ハリポタやアクション大作がひしめく激戦期の夏にヒット作を連発する人気と実力は、若い人気女優らの追随をまったく許さない。今年60才という年齢を考えると、女優としては大のつく怪物だと思う。

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 怪物と言えば、本作でストリープが演じた伝説的料理人ジュリア・チャイルドという人も傑物だ。1960年代に、米国初のフランス料理本『Mastering the Art of French Cooking』を出してベストセラーにし、その後TVの料理番組で独特な声と絶妙なユーモアで人気を博したTV料理人の草分け的存在だ。私も彼女の番組の大ファンだった。

 ある時、鹿の半身を調理台の上に乗せて、巨大なもも肉をバシバシ叩きながら、ナイフでサッサとさばくのを見た時は「狩猟民族の末裔」と感嘆した。彼女の料理はバターをたくさん使うのでも有名。高脂肪高タンパク質料理を食べ続けたはずなのに、グルメの夫と共に長命で、04年に92才で亡くなる数年前までテレビに出ていた。どうしてあんなに長生きできたのだろう。

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この映画は、ジュリアが50年代のパリでフランス料理をマスターする様子を愉快に見せながら、もう一人の現代の主人公ジュリー・パウエル(エイミー・アダムス)が、ジュリアの本格フレンチ・レシピに挑戦する姿を描いている。というか、パウエルの書いた本『Julie and Julia: 365 Days, 524 Recipes, 1 Tiny Apartment Kitchen』が原作なのだ。

 ジュリーは、一年かけてジュリアの524の(バターたっぷりの)料理を小さなアパートの台所で作り続け、その苦心談を毎日ブログにアップして注目を浴びた人。ブログ人気が出版社の目にとまり、ブロガーからライターへと転身したネット時代のシンデレラ・ライターだ。

 料理を愛した二人の女性を描いた映画、という訳で、美味しそうな料理は出てくるわ、ストリープが演じるジュリアがそっくりで笑わせてくれるわで楽しい娯楽作だった。脚本/監督は『めぐり逢えたら』などを作ったハリウッドのベテラン、ノーラ・エフロン。軽いコメディ仕立てなので見終わっても何も残らないが、ジュリーとジュリアの料理を始めたきっかけの違いが面白かった。

 20代後半のジュリーは役所で派遣仕事をする身。企業の重役だったり、有名雑誌の編集者だったりする女友だちの間では肩身が狭い。立派なキャリアを持たない自分は半人前という意識があるのだ。そこで一計を案じてジュリアの料理本に挑戦というのがきっかけ。その感じが一昔前の、結婚してるのに子供のいない女の半人前感にそっくりでおかしい。

 一方、ジュリアの方は裕福な育ちで、パリでは役人の妻として優雅に暮らしているのだが、子供がいないのだけが寂しい、という設定。食べることが大好きで始めた料理で、欲も野心もないまま料理本の翻訳を手伝っているうちに出版に熱が入ってという展開だ。実際のジュリアは、第二次大戦中、CIAの前身である情報局のスパイ機密を扱う部署にいた、という経歴が最近になって公表された。アメリカ的な善意の愛国者、負けん気の強い努力家だったのではないだろうか。

 ジュリーとジュリアには年齢に70才以上の違いがあって、それがそのままアメリカ女性の意識の変遷を反映しているのも、面白い。最後は、それぞれに本の出版が決まってメデタシメデタシ。現代のシンデレラは王子様の差し出すガラスの靴ではなく、出版社の差し出す本で幸せを掴むのでアル。 本作の日本公開は12月12日から。
(『女性情報』9月号、「WORLD REPORT」より)

どいゆみ(米・サンフランシスコ在住)

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*写真<映画のポスター>
(C) Columbia TriStar Motion Picture Group, Sony Pictures Releasing

*写真<メリル・ストリープと実物が写っている写真>
ジュリアを演じるメリル・ストリープ(左)、本物のジュリア・チャイルド(右)
(C) Columbia TriStar Motion Picture Group, Sony Pictures Releasing

*映画のプロモート映像はこちらからどうぞ。(よみもの編集局)
http://www.sonypictures.net/movies/julieandjulia/








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