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ネバーランドを飛び出したティンカーベル ―映画『ティンカーベルと月の石』評- Anna

2010.01.19 Tue

 ティンカーベルといえば、ディズニー映画『ピーターパン』でおなじみだろう。金髪に大きな瞳、背中には羽、金色の「妖精の粉」をまとい、軽やかに飛び回る。ピーターパンのことが大好きで、ウェンディにやきもちをやいては意地悪をし、思うようにいかないことがあると癇癪を起して真っ赤になる。ピーターパンの宿敵・フック船長にだまされてピーターパンの隠れ家を教えてしまう、そしてだまされたことに気づいて全力でピーターのもとに飛んで行き、体を張ってピーターを救う「健気な」一面もある妖精だ。

 『ティンカーベルと月の石』は、この「ティンカーベル」を主人公としたディズニー映画の第二弾である。予告編を見た私は、なぜかこの映画が妙に気になって、4歳の姪を連れて映画館に出かけた。「ピッピの妹たちへ―夢と冒険の本棚」(B-wanクリスマス企画のアドベントカレンダー)で、「女の子を主人公とした冒険ものは本当に少なかった」という文章を、読んでいたせいだと思う。予告編でティンカーベルは、ピーターパンさながらの緑色の衣装に緑の帽子までかぶって、たった一人で「フェアリーランド」(ネバーランドではない)を救う大冒険に出かける。彼女の「冒険」を、自分の目で確かめたくなったのだ。 そしてじっさい映画を見てみると、驚いたことにそこにはピーターパンのピの字も出てこない。ティンカーベルは妖精たちが住むフェアリーランドの妖精である。妖精たちは、四季を移り変わらせるために働いたり、渡り鳥の飛行訓練をしたり、妖精の粉の工場を運営したりと、日々忙しく働いている。そこではすべての妖精が「…の妖精」という、仕事を持って生きている。妖精の粉の番人、動物の妖精、水の妖精、光の妖精、植物の妖精。そしてティンカーベルは、発明の才を持つ、もの作りの妖精である。親友のテレンスの協力で、いつも皆のために様々なものを作っている。しかし癇癪持ちで気が短いのは相変わらずで、そのために大切な「月の石」が割れてしまうという、フェアリーランドの危機を招いてしまう。彼女はその危機を脱するため、「願いの鏡」を探す旅に出ることになる。

 ここには、フェアリーランドを危機に陥れるお決まりの「悪者」はまったく出てこない。ティンカーベルは自分の過ちを取り返すために、自分の力で旅に出る。そしてさらに、癇癪持ちな自分の気性を悔み、歯ぎしりしながら、次第に自分を変えていくのだ。彼女の先生であるフェアリーメアリーの「気持ちを落ち着けるために10数える」という方法を自ら真似して、事あるごとに10を数えて癇癪を抑えたりする。その姿は涙ぐましいほどだ。そして癇癪から親友を失った彼女は、冒険の中で新たな友達を得、「願いの鏡」に向かって進んでいく。

 冒険は計画通りにうまくいったわけではないけれど、それを救うお決まりの「奇跡」はこの映画には出てこない。それを乗り越えるのは、ティンカーベルのものづくりの力と、彼女が「ひとりでできると思ったのは間違いだった」と認めて助けを請うことになったかの親友の知識と手助けによってなのだ。ティンカーベルは、魔法や奇跡を使って冒険を成し遂げるのではない。彼女は時には地面をとぼとぼと歩きながら(飛ぶための粉が切れてしまったために、彼女はめったに歩くことのないかわいらしい靴で泥道を歩く)、自分の力で、自分と闘いながら進んでいく。ピーターパンの周りを飛び回る、わがままで可愛くてコケティッシュなティンカーベルというキャラクターは、ディズニーキャラクターの中でも高い人気を集めたし、女子高生のアイコンになっていた記憶がある。しかし、そんなティンカーベルイメージに出会う前に、こんなに素敵な冒険少女・ティンカーベルに最初に出会った私の姪は、ティンカーベルと、とても幸福な出会いをしたのではないかと私は思う。

編集局より:
 『ティンカーベルと月の石』の公式サイトはこちらからどうぞ。

タグ:映画