2010.03.06 Sat
「中絶を厳格化するのと引き替えにピルの自由化をしたら、適正に子どもが産まれてくるでしょう」
「女性の権利は避妊できることで、中絶できることではない」
自民党の野田聖子衆院議員が、インタビューに答えてこう語っています。掲載したのは「日経ビジネス オンライン」。記者のインタビューによる「子ども倍増計画」という連載で、2010年2月15日の掲載。ニュースの読者から聞いて、見てみました。 自民党政権時代、長い間少子化が進み続けたのはなぜか?という質問に、野田議員の答えは自民党に批判的です。要約して箇条書きにします。
・少子化でもしばらく経済成長率が右肩上がりだったため、自民党は少子化が経済を傷めるという認識を持たなかった。そして、少子化は女のわがままだと考えた。
・だから自民党は、少子化対策などしていないに等しい。
また、子ども手当は子どもの数を増やさないと、民主党政権も批判します。
・高学歴・高所得の女性から生まれにくいのが日本の特徴。子ども手当で子どもは増えない。
・フランスは子ども手当の前に結婚制度を変えた。子どもを作るのに結婚が前提でなく、恋人でも同棲でも嫡出子としての権利を与えるので子どもが増えた。フランスで生まれる子の4割は、母親がシングルマザー。日本では1~2%。
・日本でも結婚の多様化と、それを進める要素として夫婦別姓も必要。
ここまでは私もかなりうなずきますが、続いて現在すべきことを語るところで、野田議員は中絶の禁止に言及。そこを引用します。
「今は理屈じゃなく、ありとあらゆる手立てを使って、去年より1人でも子どもを増やす努力をしなければいけない。私は、思い切って母体保護法に手をつける、つまり中絶禁止までコミットしてもいいぐらいの気持ちです。 例えば私もかかっていた不妊治療は、助成金が出ます。でも体外受精児は新生児約100万人のうち年間に2万人弱です。一方、1年間の中絶件数は公称で20数万人と言われています。保険適用外なので実際には2~3倍近い堕胎があるのではないかと、NPO(非営利団体)法人などが言っています。変な話、これを禁止したら、産まざるを得ない人が出てくる。」
「もちろんこれは相当極端な話で、現実には難しいです。私が言いたいのは、それぐらい『えぐい』テーマにしないとだめだと言う事です。今は、まだ議論がきれいごとで終わっています。でも即効性を求めるなら、20万人のうちもし半分が中絶できなければ、10万人が生まれてきますよね? そういう極端な議論もひっくるめた、本気の、包括的な議論が必要だと言いたいのです。でもそういう真正面の議論は出来ない。自民党はずるくて、『中絶は女性の権利だ』と言って逃げていた。でも本来、女性の権利はちゃんと避妊できることで、中絶できることではない。問題をすり替えている。
中絶を厳格化するのと引き換えにピルの自由化をしたら、適正に子どもが生まれてくるでしょう。でもなぜかしていない。ピルが認可されるまでに数十年かかりました。」
自民党がいつ「中絶は女性の権利だ」と言ったのか、疑問だけれど読み飛ばすとして、これはみごとに人口を管理する国家の視点。そして、中絶が禁止された状況で女性がどれほど生命・健康の危険にさらされるか、まったく分かっていない発言だ。
このあと野田議員は、橋本聖子参院議員の妊娠に「仕事を辞めろ」という声があったのを例に、女が男並みに仕事するなら子どもを産むなという価値観が強いと指摘。男女とも仕事と育児の両立を可能にする施策を提案する。しかし、前半で語った夫婦別性やシングルマザーの子育て実現などもふくめ、うなずける提案もすべては人口政策の一環で、目的は市民個々人のではなく国の利益なのだと気がつきます。
野田議員は中絶の禁止を「相当極端な話」「極端な議論も必要だと言いたい」と言い、実際、いまの野田議員が中絶を禁止させることはできないかも知れない。しかし、なりふり構わず子どもを増やそうと国が考えれば、その手段として「刑法 堕胎の罪」が使えることを痛感させます。検挙数が極端に少なくても、「刑法 堕胎の罪」はしっかり生きている。これがある以上、女のからだは人口政策の道具であり続けて、国は産ませる/産ませないを決めることができます。
ちょうど今、内閣府が第3次の「男女共同参画基本計画」をつくっているところです。第1次の計画ができたのは2000(平成12)年12月。第2次は、2005(平成17)年12月でした。
第1次、第2次とも「8 生涯を通じた女性の健康支援」で、リプロダクティブ・ヘルス/ライツについて書いています。第1次計画では「リプロダクティブ・ヘルス/ライツの中心課題には、いつ何人子どもを産むか産まないかを選ぶ自由、安全で満足のいく性生活、安全な妊娠・出産、子どもが健康に生まれ育つことなどが含まれており、また、思春期や更年期における健康上の問題等、生涯を通じての性と生殖に関する課題が幅広く議論されている」、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点から女性の生涯を通じた健康を支援するための総合的な対策の推進を図ることが必要である」と積極的。
しかし5年後の第2次計画では、注釈をもうけて「我が国では、人工妊娠中絶については刑法及び母体保護法において規定されていることから、それらに反し中絶の自由を認めるものではない」とつけ加えている。2000年と2005年のあいだにあったのが、ジェンダーと性教育へのバッシング。米国ブッシュ政権による女性の人権とリプロの後退が日本でも広がり、第2次「男女共同参画基本計画」にも、広い分野で影響したのでした。それが野田議員の発言を許してしまいます。
リプロダクティブ・ライツは、女性の生殖を支配する人口政策に対抗する概念として、国際的な女性の健康運動から始まったもの。産むこと/産まないことの決定を、国にとって必要な“人口の調節”ではなく、一人ひとりの人間、とくに女性の人権として大切にしようとしている。だから、妊娠、避妊、出産、人工妊娠中絶のどれもが合法で安全で、個人の意志で選択できることを含むのは当然。女の運動はこのリプロダクティブ・ライツを国の政策に反映させようとし、「第1次計画」もそれが成ったといえます。でもそれは同時に、リプロダクティブ・ライツが人口政策の範囲に狭められ変容する危険とうらはらで、人口政策にくっついている優生思想や家父長制との攻防でもあります。
野田議員のような発言は、これまでも繰り返されてきました。これらに反論するとともに、今なら第3次「男女共同参画基本計画」が第2次より前進すること、もっと基本としては、堕胎罪そのものを廃止させることを考えたいです。
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日経ビジネス オンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/ 政治・社会→「子ども倍増計画」(読むには登録が必要)
第1次計画 http://www.gender.go.jp/kihon-keikaku/1st/contents.html
第2次計画 http://www.gender.go.jp/kihon-keikaku/2nd/index2.html
(初出:SOSHIRENニュース「女(わたし)のからだから」284号、2010年2月25日発行。転載にあたり、タイトルを変更しました。)
カテゴリー:ちょっとしたニュース / 男女共同参画