2010.05.06 Thu
4月17日(土)に開催された日本フェミニスト経済学会2010年度大会の共通論題「ケア労働の諸相――ケアの危機の第二局面に際して」に参加した。当日は早朝、季節はずれの雪のなか大阪まで向かったが、眠気も疲れもふきとぶ興味深い研究成果を聞くことができた。 「分断化された介護職養成:その帰結と課題」(笹谷春美氏)では、「専門職(施設介護・介護福祉士)」と「非専門職(在宅介護・ホームヘルパー)」に分断化された介護職養成が、日本のケア労働市場の階層化と柔軟性の欠如をもたらしていること、またその解決策として一元化された介護職養成と「統一された資格」が必要であることが論じられた。女性職であるホームヘルプ労働の低賃金を改善するためにも、専門性の階層化に歯止めをかけるべきという主張はもっともである。
「介護職における感情管理とジェンダー」(松川誠一氏)では、グループホーム職員を対象とした調査のデータから、性別役割分業意識の高い人が感情管理を意識化していること、またキャリア・コミットメントが高い人、ベテランのほうが、感情管理を意識化せずに介護をおこなっているという報告があった。感情管理を主観的に意識するかどうかと、実際に感情管理をおこなっているかどうかを分けるべきという視点が興味深い。コメンテーターからは、「感情労働を「負」のものとしてとらえるのではなく、労働者が感情労働をうまくできるような条件を整えることが重要なのではないか」という趣旨のコメントがあがっていたが、私も感情労働をめぐる議論のポイントは、個々の労働者が感情管理を「意識化」せざるをえないような労働環境の問題、介護職の研修システムや人員配置の改善という側面から検討する必要があると考える。
「介護職の職務評価:職務の価値と賃金」(大槻奈巳氏)では、診療放射線技師、看護職、施設介護職員、ホームヘルパーを対象とした職務評価調査の報告があり、ホームヘルパーでは、職務評価点に対し低い賃金しか支払われていない実態が指摘された。しかし問題はこの調査でも、施設介護職員よりもホームヘルパー、男性よりも女性の職務評価点が低くなっていることである。すでに「男性=マネジメント」という職務分離がおこっている現状で評価をすると、「仕事の方針・サービスの実施に対する責任」の点で男性より女性、特にホームヘルパーの職務評価点が低くなる。こうした格差を是正するには、笹谷氏が指摘するように、統一された専門性基準をつくり、分業構造に歯止めをかけることが必要だろう。
以上の3つの発表はフォーマルなケアワークを対象にしたものであったが、発表を聞きながら常に頭をよぎっていたのは、開会の挨拶をされた竹中恵美子氏の「近年、アンペイドワークという概念が消えていっている」という懸念であった。市場化されたケアワークの専門職化をすすめ、賃金と労働条件をあげる必要性は声高に論じられている。一方で家庭のアンペイドワークを可視化し、評価するという視点が忘れられてきているように思う。
そこで、たとえば今回の報告にあった「職務評価」の手法を、家庭でのアンペイドワークである介護を評価する方法として用いることができないだろうか、と考えた。介護職の職務評価の項目にあげられている「身体的負担」「精神的負担」「感情的負担」「労働時間の不規則性」「問題解決力」などは、家族介護にもあてはめることができる。これらの職務評価点を測定し、家族介護者が支払われるべき賃金水準を明らかにすることができれば、機会費用法や代替費用法に代わる、ジェンダー中立的なアンペイドワークの経済的評価の測定方法になると思われるが、どうだろうか。市場でのケアの社会的評価と同時に、家庭でのケアを評価する視点や方法の発展について、今後も注目していきたい。
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