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出産事情 中国と日本 やぎ みね
2010.07.15 Thu
娘が、結婚15年目に思いがけない妊娠。40歳で初産。不妊治療も何も受けないまま、天から授かった新しいいのちと思って、大事に過ごしている。東京で勤めていた中国系IT会社は、しばらく辞めて、夏の京都へ里帰り出産に帰ってきた。 友人の馬さんが、北京で、妊娠に関する本を一冊買ってプレゼントしてくれた。ワン・チー著『完美孕産』(完璧な妊娠出産)。産婦人科医で大学副教授の女性が書いている。赤ちゃんと妊婦の身体の変化、気をつけること、栄養、さらにプレパパへの諸注意など、なぜ、そうなのか、そのことに、どういうわけがあるのかを、シンプルに、わかりやすく、医学的立場で書かれているらしい。身体にあわせて読んでみて、「ふーん」と納得、とても落ち着いて過ごせるという。豆類、穀類を多く摂取すること、大豆、菜種、サラダ油などの必須脂肪酸、ピーナツ、くるみ、ひまわりの種、胡麻などもよい。ライチやスイカも妊娠後期には最適。中国のある地方では、産婦は甘酒をよく飲むそうだが、アルコール分が含まれるので、あまりおすすめではないという。
ひと昔前の出産とは大違い。いまどきの妊婦健診は、超音波による性別判断はもちろん、数えきれないほどの検査がある。HIV検査、B型・C型肝炎検査、血液型検査、前宮城県知事・浅野史郎さんが、50年後に発症したという母乳経由白血病防止のための成人T細胞白血病(ATL)ウィルス検査、風疹抗体値検査、貧血検査、トキソプラズマ抗体検査、梅毒血清反応検査等々、知らぬ間に定期健診の中に組み込まれている。
35歳以上の出産を対象とした、5カ月目の羊水検査による障害判定検査は、娘夫婦の意思で、もちろん拒否したが、母子保健法改悪阻止のうねりが起きた70年代、80年代は、もう遠い昔のことなのか。今や、生まれる前から管理されるという時代。生まれてくるのも、なかなか大変だ。
40年前の夏、私も若かったのか、一度も定期健診に行かないまま。ずっと春から具合の悪かった父の危篤の知らせを受け、千葉から熊本へ飛行機で飛び、ぎりぎりに父に会うことができた。7月末、父の四十九日の法事に、おなかいっぱい、ソーメンを食べたせいか、翌朝、目が覚めたら急に産気づき、無事出産。安産だった。
それにしても出産前後の手続きの、なんと、ややこしいことか。失業保険受給期間延長手続き(最長3年)。「子ども手当」と「乳幼児医療費助成」について住民票がある船橋市に、里帰り出産のため郵送で申請できるかと電話で聞くと、必ず市役所の窓口で手続きをしないとだめ。しかも「子ども手当」は出産した翌日から15日以内に申請を完了していないと翌月から受領できないという。夫は出産予定日の2日後、1週間、中国に出張するというのに。赤ちゃんには赤ちゃんのタイミングで生まれてくる。こればかりは仕方がない。
京都市の保健所で里帰り中にも受けられる保健サービスを尋ねると、出産後、保健所の母子・精神保健の担当に電話すれば、保健師や助産師が訪問、産後の体調や育児の相談に乗ってくれるという。ここまでわかるのに、保健所窓口→京都府庁母子保健担当→京都府子供未来課→医療機関と「うちではわかりませんので、○○へ」とたらい回し。ワンストップ窓口になっていない不便さは、まさにお役所仕事。
予定日は8月15日。どうやら女の子らしい。獅子座の、とら年。きっとおてんば娘になりそうだ。娘の大きなおなかを眺めつつ、産後の世話を思うと、「私の時間、どないしてくれるのん」と言いたくなるけれど。
66年前、北京で、身重な身体で大病を患い、私を未熟児で早期出産した母は、今、86歳。熊本で、元気に一人暮らしをしている。「生まれたら早く京都へ来てね」「そうね、新しいうちに見ておかないとね」。魚じゃないんだから。イキのいいうちに、と思っているらしい。ともかく今は、無事の出産を、親子三代、願うばかりだ。