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女性の労働問題を見えなくする「自発的選択」というロジックの罠 伊田久美子
2010.09.02 Thu
格差の拡大と不況の進行下で、不安定な非正規労働がようやく労働問題として注目されるようになった。中でも90年代末以降、急激に規制緩和がすすめられてきた派遣労働への規制の導入が具体的に検討されている。このところ一般事務職もようやく規制対象として検討され始めたところであるが、近年社会問題化してきたのは、主要に製造業派遣であった。たしかに製造業は厚生労働省の平成20年派遣労働者実態調査では業種別でもっとも多い。しかし製造業は男性においてはダントツであるが、女性は一般事務の方がずっと多い。
労働の規制緩和は周辺労働から始まった。男性世帯主労働が主流である労働市場における周辺労働は、「女こども」すなわち男性世帯主が養うものとされてきた女性と若者に担われてきた。世帯主の労働でない限り、非正規雇用は問題視されることがなかった。労働市場は「現在および将来の男性世帯主」以外に対しては排除的で、若い女は結婚・出産によってドロップアウトすることが前提とされ、中高年女性には最初から周辺労働しか開かれていない。非正規労働の社会問題化も、すでに若者とは言えない年齢に達した男性が収入が低く結婚できず世帯主になれない、ということを問題視する論調が主流である。女性の非正規労働は、若者フリーターと同様に、個人の選好により自発的に選択した結果であるとされてきた。フリーターは現代の若者の選好の結果であり、パート等非正規は既婚女性の「自己都合」による選択の結果なのである。
社会的問題を個人の選択の結果とするこのロジックは、自己責任論に結びついてさらに当事者を追い込むことになる。夫や恋人との関係、子どもの問題、そして暴力やハラスメントの被害にさえ、何か問題が生じたときに自分を責める傾向は女性自身につきまとう。そのような働き方を自発的に選択したとされがちな女性非正規雇用者も同様である。だからこそ「あなたは悪くない」はまず当事者に伝えたいメッセージなのである。
「個人的なことは政治的である」は言うまでもなく第2波フェミニズムの著名なスローガンである。個人の経験が自分ひとりのものではないことを知ることはエンパワーの基本である。女性の労働運動は80年代後半から取り組まれてきた。「働く女性の人権センターいこる」や「ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク」、「働く女性の全国センター」(ACW2)、「おんな労働組合関西」、「女性ユニオン東京」(緊急の呼びかけがあります。http://wan.or.jp/emergency/?p=5)など、全国にはたくさんの仲間がいる。WANサイトのイベント情報や団体情報等ももっと発展して役割をはたしていけるよう願っている。