エッセイ

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【特集:セミナー「竹中恵美子に学ぶ」レポート⑥】  堀あきこ

2010.12.13 Mon

11月19日の第6回講座は、なんと竹中先生81歳のお誕生日! 花束の贈呈と、「Happy Birthday」の合唱でセミナーは始まりました。

全12回の折り返しにあたる今回のテーマは「経済のグローバル化と規制緩和」。『竹中恵美子が語る 労働とジェンダー』の第5講から、①1995年以降本格化する日本の規制緩和 ②規制緩和に向かう労働法制と女性 そして ③欧州でのフレクシキュリティへの取り組みについて が追加されました。

①1995年以降本格化する日本の規制緩和

日本の規制緩和の背景には、経済のグローバリゼーション化があります。GATT(貿易と関税に関する一般協定)による関税率の引き下げによって、外国製品が安く入り、国内製品との競争が激化しました。また、1995年のWTO(世界貿易機構)協定により、広汎な世界貿易と資本移動の自由化が推進し、国内市場に外国製品だけでなく外国資本も流入されるようになりました。

こうした背景のもと、企業の合理化やリストラクチャリングのリスクが雇用・労働市場に持ちこまれます。ここで注意しなければならないのは、欧米においては70年代のオイルショックを受けた規制緩和が進み、生産・労働のフレキシブル化が進んでいたことに対し、日本での規制緩和の本格化は90年代だったという点です。また、現在、男性非正規労働者の増加が注目を浴びていますが、女性非正規労働者はもともと比率が高かったうえ、さらに増加したことも見逃せません。

規制緩和は、1993年の首相(細川)の私的諮問機関・経済政策研究会から「規制緩和について」という中間報告が出されたことを始まりに、95年の「規制緩和推進5ヶ年計画」、日経連の「新時代の日本的経営」発表、そして「第8次雇用対策基本計画」発表へと進みます。この基本計画に掲げられた、「女性労働力の積極的活用」、そのための「女性保護規定の解消に向けての具体的方針」が97年の「男女雇用機会均等法」見直しに反映されていきます。

②規制緩和に向かう労働法制と女性

労働法制の規制緩和「なだれおちるように進行」しました。97年に改正、99年から施行された「男女雇用機会均等法」では、募集・採用・配置・昇進の差別的取り扱いが、罰則規定はないものの努力義務から禁止となるなどいくつかの前進が見られましたが、重要な問題を残しています。まず、(1)「男女雇用平等法」ではなく「女性に限定して差別を禁止する」にとどまっているため、男性職・女性職との相互乗り入れにより、性別職務分離を解消するものになっていません。また、(2)間接差別規定がないため、差別の大半が不問に付せられてしまいます。差別を「採用区分を同じくするもの」で扱うため、同じ仕事をしていて待遇が違うという差別でも「総合職/一般職」という採用の違いがあれば差別として認められないのです。そして、(3)女子保護規定の廃止に際し、男女両性にとって有効な新しい共通規制が、この時点では打ち出されていませんでした。

「労働基準法改正」では、(1)女性の時間外労働と休日労働および深夜業の規制が撤廃されました。しかし、時間外労働を男女同一の年間360時間上限としたことは、専業主婦がいてこそ可能になる残業時間だといえ、世界の流れ(ILOに通告している41ヶ国中9割以上が200時間以下、7割が150時間以下)に逆行したものです。また、(2)裁量労働制が拡大(2000年施行)し、一般企業のホワイトカラーのほとんどに広がり、(3)変型労働制の拡大や(4)有期雇用期間の延長(2003年改正)といった規制緩和が行われました。

これ以外にも、一貫して規制緩和が進められる「労働者派遣事業法」や、「職業安定法」と「雇用保険法改正」があり、こうした改正は働き方の多様化をもたらしましたが、同時に、非正規労働者の増加、先進国中最大の男女賃金格差という、女性労働の不安定性を拡大するものでもあったのです

男性基準を変えないままで女性の労働条件を男性並みに改定したことは、男性の労働基準が専業主婦の存在を前提としており、実質、女性が家事育児の担い手となっていることを考えれば男女平等とは言いがたいものだといえます。

③欧州でのフレクシキュリティへの取り組みについて

フレクシキュリティとは、フレキシビリティ(flexibility:柔軟性)とセキュリティ(security:働き手の安心)の造語です。解雇規制を進めたデンマークでは、労働組合の監視のもと、転職にむけた手厚い職業訓練の提供が行なわれ、労組の支えのない業者には公共職業安定所が役割を担うことによって、「あらゆる人々に職場間移動へ向けた私怨の手が届くよう網が張りめぐらされ」ているそうです。日本では、こうしたセーフティネットという観点がまったく欠けているといえるでしょう。

さらに、派遣解禁を後押ししたように取られているILO181号条約には、「均等待遇や団体交渉権などの労働者保護」という“歯止め”が含まれているにも関わらず、派遣労働の自由化ばかりがクローズアップされていること、などが竹信三恵子さんの論文から論じられました。

今回の講義では、規制緩和が経済効率中心で推し進められ、従来の専業主婦の存在を前提とした「男性稼ぎ手モデル」に“くさび”が打ち込まれるものではなかったことが、主に法制度の面から論じられました。この問題は『新編 日本のフェミニズム4 権力と労働』に収録されている「「機会の平等」か「結果の平等」か」で、いち早く指摘されていたことと繋がっているもので、労働とジェンダーの問題が、「均等」という言葉で隠蔽されていることを再確認する講義であったと感じました。

参考文献

『竹中恵美子が語る 労働とジェンダー』

竹信三恵子「欧州流<安心>の模索と<賃下げ依存>の日本の不安――フレクシキュリティと均等待遇」『女性労働研究 「安心」な雇用 実現への模索』No.54

竹中恵美子「「機会の平等」か「結果の平等」か」『新編 日本のフェミニズム4 権力と労働』

カテゴリー:セミナー「竹中恵美子に学ぶ」

タグ:ジェンダー / 労働 / 非正規労働 / 堀あきこ / 竹中恵美子