エッセイ

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自然災害とジェンダーの問題(その1) 山地久美子

2011.03.13 Sun

災害は人々の運命を大きく変える。東日本大震災(東北地方太平洋沖地震・長野県北部を震源とする地震)は中央防災会議の想定外規模で甚大な被害が明らかになり、激甚災害に指定された。まだ余震が心配されるが、被災後の人命救助と緊急支援が進んでおり、これから復旧・復興、人々の生活再建へとすすむ。

この度の災害では多くの方が家屋や仕事を失い避難所での生活再建がはじまる。避難所から仮設住宅へ、そして恒久住宅(自力再建や公営住宅など)に移るまで数年かかることもある。阪神・淡路大震災をはじめこれまでの被災と災害復興の経験を生かし、被災者と被災当事者以外の人々が共に日本社会、国際社会における自身の問題として捉えそれぞれの立場から復興に全力をつくすことが必要だ。

女性は災害弱者ではない。しかし、災害時・復興過程では女性が影響をより受けやすい。それは日本社会では、女性と男性とではネットワークなどの社会関係資本、経済力、情報収集力に差異があるためだ。高齢者には女性が多いことも挙げられる。性差による影響を受けないためには個人の自助努力はもとより行政と支援者がジェンダーによる災害復興過程の差異を理解し対応していくことが求められる。

防災分野はこれまで主に男性の視点から構築されてきており、中央防災会議の『防災基本計画』において「女性の参画・男女双方の視点」が明記されたのは2005年7月のことである。2008年2月には防災・災害復興関連の政策決定過程において女性の参画を促進するよう追記された。しかし、まだ多くの都道府県防災会議・市町村防災会議の『地域防災計画』ではそれらの体制はもちろん、記述すらない『地域防災計画』がまだある。

被災時の今は、一人でも多くの方の救出とすべての方の身の安全が確保されるよう、社会で支援する時だ。今はボランティアセンターの設営も検討されている状況にあり、ジェンダーとも関連して対応すべき事項をここでは6点挙げておきたい。

(1)防災・災害復興におけるジェンダーへの配慮通達

防災・災害復興における「女性の参画・男女双方の視点」と「政策決定過程における女性の参画」に配慮するよう通達を被災道府県・市町村にたいして防災担当大臣、男女共同参画担当大臣の連名で発する必要がある。

(2)内閣府男女共同参画局からの被災地自治体への人員派遣

2004年の新潟県中越地震では内閣府男女共同参画局より「女性の視点」担当者が派遣されている。2009年のインタビューでは今後派遣の予定はないと返答があったが、この度のように行政機能の麻痺がおこっていて、広域にわたる被災時対応には女性にたいする格段の配慮が必要となるため、人員の被災地自治体派遣が必要だ。

(3)被災地域共通の被災者台帳の作成(世帯単位と個人単位)

日本では各基礎自治体が被災者への情報対応を行う。台帳作成は各自治体の裁量となり、これまで全国共通の被災者台帳システムが構築されていない。被災者台帳は被災日を基準に各種り災の証明やその後の福祉関連に必要で重要なものだ。総務省は財団法人地方自治情報センターを通じて平成21年1月17日には「被災者支援システム」を全国の地方公共団体にCD-ROMにて無料配布している。広域の災害であるため関係自治体が共通のシステムを利用することは今後の対応に有効だ。この「被災者支援システム」は西宮市が阪神・淡路大震災被災時に構築したシステムを改善したもので個人単位でも世帯単位でも対応可能な住民第一義のシステム設計となっている。

●この度の災害で被災者生活再建支援法の適用を見守る必要がある。被災者支援では世帯単位・世帯主対象に支給される支援メニューもあり、義援金や物資含めて今後は被災者にとって情報が全てだ。

(4)災害時要援護者への支援(高齢者、障害者、外国人、乳幼児、妊婦等)

●災害時要援護者に対して各自治体は要援護者リストの作成、避難支援マニュアルを作成している。しかしこの度の災害はそれに対応する時間も人員もなく発生している。今後、リストをもとに支援を行うことが必要だ。要援護者リストは個人情報であり、行政と支援団体や関係者以外が入手することはできないため、協力して対象者を探しだし支援を行う必要となる。妊婦については、行政は把握できていないと思われるので、妊婦本人が自身の状況を避難所等に伝え、支援を受けることが必要になる。

●都市部・農村部ともに多数の外国人がいることが予想されニーズを掘り起こすことが必要だ。

●観光客や出張者など一時的に被災地を訪れていた人は資源も情報も持っていないことが多いため対応が重要だ。

(4)被災直後の女性と子ども向け物資

緊急物資(生理用品、ミルク・おむつなど)は阪神・淡路大震災の経験を受け、現在では各自治体で備蓄されているはずだ。不足する事もあり得るが支援物資は個人からは受付けない場合が多く、新聞やインターネット等で行政や被災者支援団体から出される救援物資要請情報を確認できる。

(5)避難所生活面におけるジェンダー課題への対処(設備面)

●避難所の仕切りは家族がまとまって一緒にいたい人の希望があり、女性用・男性用の部屋を別に設置することや避難所の一部に仕切りをつくることが対応策となり得る。日本の場合は授乳用の部屋も必要だ。

●トイレは一部を女性用・男性用に設置すべきだ。

●狭い避難所や車で避難生活を送る場合、エコノミークラス症候群(急性肺動脈血栓塞栓症)予防が必要だ。新潟中越地震ではトイレへ行くのを我慢するため水分補給をせず症状がでて亡くなったとされる方がある。

(6)被災後の施策面におけるジェンダー対応(制度面)・政策決定過程に女性の参画

●各避難所・仮設住宅で一人は必ず女性を運営メンバーに含める必要がある。

復興は避難所→仮設住宅→恒久住宅(自力再建または公営住宅)と数年かかることもあり得る。避難所・仮設は多くの場合村や行政区域で地域ごとに集まる。そのため新潟中越地震では避難所や仮設住宅で自治会長・区長はじめ男性が様々な事柄を決定することが多く、女性の意見を反映する場が少なかったとの声がある。

●災害は高齢者により大きく影響するため、高齢者の声も政策決定過程に反映されるよう配慮が必要だ。高齢者の多くは女性である。

山地久美子

関西学院大学災害復興制度研究所

カテゴリー:震災 / 男女共同参画

タグ:東日本大震災 / 山地久美子