エッセイ

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サンフランシスコ便り(1) 堀川弘美

2011.05.15 Sun

サンフランシスコに到着してからひと月経ちました。私が見たこと、感じたことを、自分の混乱した頭を整理しながら、書いていきたいと思います。

これまで70年代に草の根の運動を始めた松下竜一さんという作家さんの運動を辿ってきました。女性たちによる反原発運動に深く関わり、多くの書き言葉を残された方でもあります。松下さんの運動の流れに乗って、今は刑罰という概念について考えてみたいと思うようになりました。それは、今の法律で罪とされる行為をした人に向けられる冷ややかな目線と、これまで自分自身が人に対して向けてきた冷ややかな目線、また自分に向けられてきた冷ややかな目線、また、自分に向けられた優しい、暖かいまなざしについて考え直すことでもあります。人は眼差しを受けることで動く力を持つようになる、と考えています。見られる者の可能性について考えることが、私にとって運動を考える重要な手がかりとなっています。

罪とされる行為をした人たちを人間として認識し、当然のこととしてこの人たちにこれからの未来が開かれていることを考えられるようになりたいという願望があります。それは自分がこれから豊かに生きる可能性を見出すことでもあると思います。また今、何の根拠もなく人に対して抱いてしまう不信感、恐怖感のわけを知りたいと思っています。路上でお金を要求してくる人、駅に行く途中に、朝から夕方までいつもたむろしているラティーノの男の人たち。通り過ぎる私を他に見るものもないせいか、じっと見ているように感じます。怖いので、虚勢を張ってなめられないように堂々と歩くのが精一杯です。でもこちらで友達になったある友人は、彼らにほぼ100パーセントの確率で挨拶をします。公園や駅にいるホームレスの人たちの何人かとは友達で、名前で呼び合います。この人には、彼らが人間に見ているんだとはっとしました。じゃあ、私には・・・?「犯罪者」と呼ばれる人たちは、怪物なんかじゃない、普通の人間だと主張してきました。でも、ココロから私はそう思えているのだろうか?身近にいるホームレスの人たちや何となく不穏な雰囲気を醸し出している男たちに私は目が合っても挨拶さえしませんでした。これが私の防御手段かと思うと、いろいろなものを内面化してしまっている自分を見つけて、一人ショックを受けていました。つまり、人に対する警戒心を持ち続ける自分と、罪とされる行為をした人たちに向ける目線を問おうとする自分とが折り合い悪く私の中にあることを感じている状態です。

必ず挨拶をするその人にこの話をしました。その回答がまたすごかった。小学校5年生から学校へ行くことをやめ、町でたむろするようになったといいます。たむろしていたとき、恐怖心がいつもあったこと、また今この辺でたむろしている男たちが明日は敵になるかもしれない、敵になる前にとりあえず挨拶できるうちに挨拶しておいた方がよくない?と話していました。私にはたむろしている人やお金を要求してくる人が恐怖心を抱いているなんて考えたことがなく、脅かされている自分しか見えていませんでした。

自己紹介が長くなってしまいました。次回からはもう少しお便りらしいものにしてく努力をします!今回はここにきて最初の衝撃についてだけ書かせてもらいます。刑罰に関わる運動のものすごい数にびっくり!収容されている女性に絞って支援をしている団体も複数あるようです。その中のLegal Service for Prisoners with Children という法的サービスを中心に提供している団体とCalifornia Coalition for Women Prisonersという団体でのボランティアを始めてみました。まだまだ数回だけのボランティアで、また言語の問題もあり、まだよく掴めていないのが現状ですが、刑務所や刑罰に関してこれほど大きなGrass rootsの運動(とても組織化されており、私が日本で抱いていた草の根のイメージとはかなり違います)があること、そしてその中でも女性に関するサービスを中心に活動する団体があることに驚きました。日本で刑罰に関わる運動というと、死刑廃止運動、またそれに付随して冤罪に関する運動がありますが、それ以外は私は把握していません。

次回からは、刑務所にいろいろな形で関わる人たちの様子ややり取りなど報告できたらいいなぁと思っています。よろしくお願いします!

カテゴリー:サンフランシスコ便り

タグ:アメリカ / 堀川弘美

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