2011.05.21 Sat
本年2月14日、東京地裁に、国家賠償請求、及び、夫婦別姓の婚姻届が受理されなかった処分の取消し請求を提起しました。いよいよ,国家賠償請求の第一回期日が,5月25日(水)午後4時から,東京地裁104号法廷(大法廷)で予定されています。 弁護団には、15分間の訴状要旨の陳述が認められています。傍聴券配布(午後3時40分~)、テレビカメラでの撮影が予定されています。ぜひ傍聴にいらしてください。
同日は、午後5時から、衆議院第二議員会館1階多目的会議室で、報告会と交流会が予定されています。議員や秘書に呼びかけています。法改正への熱意をアピールすべく、こちらにも多くの方に来ていただきたいです。
参加希望等はできれば事前に別姓訴訟を支える会へご連絡ください。
別姓訴訟を支える会は、夫婦別姓が認められないことについて初めて訴訟提起した原告らと弁護団を支援するために、いち早く作られた団体です。多くの方のご入会とご支援を期待しています。
1 夫婦同氏の原則は憲法と女性差別撤廃条約に違反する!
「選択的夫婦別姓って,どうしてまだ認められていないのかなあ?」
夫婦別姓のことを話題にすると、私の周囲の人たちは素朴に口にする。私も訊きたい。選択的夫婦別姓制度は、別姓を選択することを可能にするだけのこと。夫婦同姓を望む人に別姓を強いるものではない。亀井さんという人がAさんと結婚するとき、亀井を夫婦の姓にすることもできる。加山さんとBさんが結婚後も、それぞれ加山とBと名乗りたいならそう名乗る。それだけのこと。
なのに、何でいまだに日本では認められないのだろう。本当に不思議だ。
私たち一人一人、姓+名の一組の名前とともに成長する。そして愛する人と出会い、結婚する。相手にとっても自分にとっても、自分の姓は大切。だから自分の姓のまま結婚したい。それはわがままでも何でもない。憲法だって女性差別撤廃条約だって、認めていること。ところが、現在の日本では、各人が自分の姓のままで婚姻することができない。
条文を確認しよう。民法750条は、夫婦の氏について、夫または妻のいずれかの氏を選択して同氏となること(夫婦同氏の原則)を定めている。婚姻の成立要件は、婚姻意思の合致及び婚姻の届出であるが、婚氏の選択は婚姻届の受理要件であり(戸籍法74条)、実際には、夫婦同氏は、「婚姻成立の要件」となっている。つまり,カップルの一方が生来の姓を諦めて法律上の婚姻をするか、両者が法律婚を諦めるかしか、選択肢はない。民法750条は、婚姻前の姓を捨てるか(憲法13条に由来する氏名保持権の侵害)、法律婚を断念するか(憲法24条の婚姻の自由の侵害)という二者択一を迫っているわけだ。
さらに,女性差別撤廃条約16条1項は,「締約国は,婚姻及び家族関係に係るすべての事項について女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとる」べきことを定め、特に「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」(b),「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」(g)を確保することを締約国に義務づけている。女性差別撤廃委員会は、「婚姻及び家族関係における平等に関する一般勧告21」(1994年採択)で、16条1項(g)につき、法もしくは慣習により、婚姻に際して自己の姓の変更を強制される場合には、女性は姓の選択権を否定されることになるとし、2003年及び2009年に、日本に対し、750条の法改正を要請し、2009年には2年以内(すなわち今年8月までに)実施状況につき報告することを求めた。報告の期限までもうほとんど時間がない…。
現実的に深刻な事態に直面するのは、もっぱら女性だ。「普通は」女性が改姓する。実際、婚姻の際に圧倒的多数(2009年厚労省人口動態統計によれば96.3%)のカップルが夫の氏を「選択」している。そんな圧倒的な不均衡な状況では、女性は、自分の姓のままでいたくてでも、そう言い出すことにすら躊躇する。「結婚しても,自分の姓のままでいたいと言ったら、彼は何と言うだろう?」「私が彼を愛してないと思うのでは?」と悩むのだ。言い出せば、周囲との軋轢に悩む。結局、不本意ながら婚姻改姓し、自己喪失感に苛まれる女性たちが少なくない。750条が実質的には不平等であることは、明らかではなかろうか。
2 民法750条改正議論の経過
夫婦同氏の原則の起源は,明治民法(1898年制定)に遡る。明治民法が採用した家制度では、家族は一家の長である戸主の命令に服するとされ、戸主の地位は原則長男が承継した。妻は夫の家に入る結果、夫の家の氏を称することになった。なお、1875年に氏を強制されるまで、庶民に氏はなかったし、その後も明治民法まで、夫婦の氏について規定はなく、別氏が主流であった。
第二次大戦後、1947年の民法改正により家制度が廃止されたが、夫婦同氏・親子同氏の原則が採用された。戸籍は一組の夫婦及びこの夫婦と氏を同じくする子を単位として編製され、夫婦の氏に選択されたほうが戸籍筆頭者となることから(戸籍法16条)、ひとつの戸籍中の夫婦とその間に生まれた未婚の子という集団が、家に代わって家族のモデルとなった。氏が家族関係を表示するものであり、共同生活を営む家族は同じ戸籍に入り同じ姓を称するという観念は、このような浅い歴史の中で生まれたにすぎない。
民法は憲法改正にあわせて急ぎ改正されたことから、早々に改正議論が開始された。1954年には法制審議会民法部会身分法小委員会で検討される等、750条の問題も検討された。さらに女性の社会進出が進み、夫婦同氏原則を改めるべきとの声が強まった。そして、1996年2月、法務省法制審議会が答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」(以下、「法律案要綱」)には、選択的夫婦別姓の導入が盛り込まれた。しかし、法律案要綱は、答申から15年が経過した現時点でも、内閣提出法律案として提出されていない。
3 法律案要綱以後の経過
法律案要綱の答申以後、選択的夫婦別姓制度を導入する内容の議員立法案は繰り返し提出されてきた。2010年には、民法改正案が通常国会の提出予定法案となり、一挙に期待が膨らんだ。しかし、結局提出されず、なおさら失望感が強まった。
もっとも、進展もないではない。男女共同参画社会基本法(1999年制定)を具体化するために策定された「男女共同参画基本計画」(第一次、第二次、第三次)はいずれも、選択的夫婦別氏制度の検討を掲げた。2001年10月,男女共同参画会議基本問題調査会は「選択的夫婦別氏制度に関する審議の中間まとめ」を公表し、憲法24条2項に言及し、夫婦同氏制度が男女に中立的に機能していないとして、「選択的夫婦別氏制度を導入する民法改正が進められることを心から期待するものである」と提言している。
海外では夫婦の姓の見直しが進められており、夫婦同姓を強制する日本は,むしろ例外的である。ドイツ(1993年改正)や、タイ(2005年改正)では,司法判断が選択的夫婦別姓を認める法改正につながった。
4 なぜ、反対?
繰り返しになるが、選択的夫婦別姓制度は、別姓を選択することを可能にするだけで、夫婦同姓を望む人に別姓を強いるものではない。当事者同士が別姓がいいと言っているのに、他人が「結婚するなら同じ姓になれ!」と文句を言う筋合いはないのではないだろうか?
「家族の一体性」云々と言われることがある。しかし上述した通り、姓=家族の一体性との観念なんて、浅い歴史に過ぎない。そして、各人の姓を尊重したいという家族もいる。そもそも家族の絆とは、お互いの愛情によりはぐくまれるものではなかろうか。家族の絆のよりどころに姓の統一性を求めるなんて、わびしすぎる。
「子どもがかわいそう」といった意見や感想も、もれきく。どっこい、通称使用か事実婚で別姓を実践する夫婦の子どもに「かわいそう」な気配はない。試しに、私も一員である家族法改正を実現する法律家の会で、アンケートを取ってみた(昨年4月から5月実施、回答数53)。その結果、父母が別姓であるためいじめられた子どもは0名。「子どもがかわいそう」は,杞憂に過ぎない。大体、百歩譲って、いじめがあったら、注意すべきは、多様な家族のありかたを認めないいじめっこであり、いじめられた子の親ではないことはいうまでもない。
人権の問題は多数決で決めるべきではなく、世論は法改正しない理由にならない。とはいえ、選択的夫婦別姓に関する内閣府の世論調査では、1996年では20代から40代、2001年・2006年では20代から50代で、容認派が多数である。「世論の動向」も、むしろ法改正を促している。
5 訴訟提起
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.私が延々と書いたこと、すなわち、民法750条(さらに婚外子の相続分差別を明記する民法900条4号但書)の改正の必要性や法律案要綱公表とその後の経緯等については『よくわかる民法改正 選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて』(民法改正を考える会著,朝陽会, 昨年の日弁連主催のシンポを元にした『今こそ変えよう!家族法 婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える』(日弁連編、日本加除出版に詳しい。これらの本ももとになって、民法改正が一挙に実現…ということには、残念ながらなっていない。
女性差別撤廃条約発効から26年。法律案要綱公表から15年。法改正を辛抱強く待ち望んできた加山恵美さん・吉井美奈子さんら原告たち、及び同様に苦しんできた人たちにとって、あまりに長期間、国は法改正を怠ってきた。その国の責任を問うべく、私たち弁護団(現在13名)は、本年2月14日、東京地裁に、国家賠償請求、及び、夫婦別姓の婚姻届が受理されなかった処分の取消し請求を提起した。
ところが,東京地裁民事第3部は、この後者の不受理処分取消請求の訴えを、不適法であるとして、2月24日、却下した。その理由とするところは、戸籍法上、戸籍についての処分については、家庭裁判所に不服申立することとし、審判手続で決定すべきとされているからということである。むむむ(ここからのこの段落の解説は、弁護団の一員であり早稲田大学法科大学院で行政法の教員を務められた小島延夫弁護士)。
しかし、家庭裁判所の審判手続は、非公開の手続で、傍聴などできず、関係者が意見を陳述する機会も任意でしかなく、夫婦別姓制度が憲法や条約に違反するかどうかといった点について専門家の証言をする機会が保障されていない。他方、憲法82条は公開の法廷での裁判を保障している。最高裁判所も「法律上の実体的権利義務自体につき争があり、これを確定する場合には、公開の法廷における対審及び判決によるべき」としている。家庭裁判所の審判は、権利義務自体の争いについてのものでないから合憲だとしている。したがって、憲法上、法律上の実体的権利義務についての争いについては、家庭裁判所の審判ではなく、公開の法廷での裁判である「訴訟」によらなければならないことになる。今回の婚姻届が受理されるかどうかは、婚姻が成立するかどうかという、まさに、法律上の実体的権利義務自体についての争い。また、専門家の証言も必要である。したがって、婚姻届が受理されるかどうかについての争いについては、公開の法廷での審理及び判決によらなければならず、家庭裁判所の審判手続では憲法上不十分なのだ。当然のことながら、3月3日、弁護団は控訴した。
控訴審での主張の要点は、以上のように、公開の法廷での審理と判決が保障されないと憲法82条に違反するという点が基本となる。東京高裁は,東京地裁と異なり、口頭弁論を開く(7月7日午後1時30分東京高裁817号法廷)。形式的な判断をした東京地裁よりも真摯に判断していただけるものと期待する。
訴訟提起準備との報道がなされて以来、弁護団や別姓訴訟を支える会へ、多くのエールが寄せられた。750条により苦しんでいるのは、加山さんや吉井さんたち原告だけではない。加山さん・吉井さんら原告たち、そして同様に別姓が認められないことで苦しむ人たちの思いが叶えられるよう、弁護団の一員として力を尽くしたい。
なお,本原稿は,『女性展望』2011年3月10日発行,第634号所収の筆者の論稿を加筆修正した。
打越さく良
2000年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。さかきばら法律事務所所属。夫婦別姓訴訟弁護団事務局長。日弁連両性の平等委員会委員,同家事法制委員会委員。離婚(特にDV)等家族に関わる事件を数多く担当する。都内児童相談所の非常勤嘱託弁護士として,虐待された子どもの事件も手がける。共著に「よくわかる民法改正」(朝陽会),「今こそ変えよう!家族法」(日本加除出版),等。
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