原発ゼロの道 エッセイ

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上関原発建設阻止の現場から 山秋 真

2011.05.23 Mon

2011年3月11日午後3時すぎ、田ノ浦の浜へ祝島から電話が入った。「地震です。津波注意報がでたから浜から早くあがって」。浜にいた若者らはカヤックなど大事な品を高台へもちだすと、約半数が祝島へもどった。

写真0

祝島(いわいしま)は、海上交通の要所として古来より海に生きてきた人びとが暮らす島。中国電力(中電)が原発建設を計画する山口県上関(かみのせき)町田ノ浦の3.5Km対岸に浮かぶ(写真0)。28年前の計画浮上後は島人の約9割が原発を拒みつづけ、漁協に至っては10億円超の漁業補償金の受けとりも拒否。島の女性たちがはじめた毎週月曜のデモは1100回ほどになるという。2010年1月からは毎日のように田ノ浦へかよい抗議もつづける。平均年齢約79歳という島の、おもに女性が中心となるため、荒天の日は無理をしない。島の若手たる50歳代の男性有志らが実地でそれを支えていた。

シケでも田ノ浦で抗議をするのは「虹のカヤック隊」(カヤック隊)だ。島で「カヤックたち」とも呼ばれる彼ら彼女らは20~30歳代が中心。「隊」といっても組織ではなく、各地から集まったメンバーが話しあい連絡しあって祝島と連帯する状態をいう。強制なしの自由でユルイつながりだが、だからこそ自発性・協調性・自律性が同時に不可欠となるカヤック隊のあり方ゆえに、祝島を尊重しながら高齢化によるヒト不足などを実質的に補って連帯することができているように見える。

この日、田ノ浦では朝から沖に白波がたち、いつもより人影もまばらだった(写真1)。

写真1

ほんの10日程前までここで、原発計画をめぐり激しい攻防がくり広げられていたことを思わせるのは、浜に残されたネットフェンスの支柱や波うち際にころがる数本の杭、磯に残るオイルフェンスなどくらい(写真2〜4)。支柱や杭は、町道から浜へ下りるスロープを封鎖しようと中電が浜に打ちこんだものの残骸で、オイルフェンスは、祝島からの人の動きを断つために田ノ浦湾から浜への船の出入りを封じるべく、中電が湾内に設置しようとした水中カーテンだ。

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写真4

写真3

写真2

上関海戦とも呼べそうな大衝突の予兆はあった。2月1日、中電は上関原発計画を社長直属プロジェクトにしたと発表。それでなくとも原発工事のための作業台船(台船)を昨秋から何度も、今年になってからはよほどの荒天でない限りほぼ連日、中電は田ノ浦へむけ派遣して、祝島やカヤック隊の船から抗議をうけては帰るということを繰り返していた。原発計画への「抗議」を「妨害」と言いなおし、「妨害行為」をする地域住民らを提訴までしている。翌2日には早くも一触即発状態に突入。台船へ抗議にきた祝島の漁師のひとりが自船で包丁を振りまわしたと、台船を先導するチャーター船にのった中電社員が言いがかりをつけた。海上保安庁(海保)は足掛け5時間もその漁師の取調べをおこなったうえ、翌日以降、台船へ抗議にきた船に立入り検査をするようになった。わざわざ反発を煽るかのような経緯で対立を深めた末に、中電は原発工事を強行しようとしたのである。

それは文字通りの闇討ち。2月21日午前2時、山中の闇のなか、隊列を組んだ制服姿の男性が田ノ浦へと向かっていた。その数400とも500ともつかぬ膨大さ。午前3時、急報をうけ祝島の第一便が港を出発。そのころ田ノ浦では、浜になだれこもうとする中電側をカヤック隊が身体をはって食いとめていた。午前4時、第一便にのった人びとを皮切りに、祝島や近隣地域から田ノ浦に人が集まりはじめる。浜を封鎖しようとする中電側人員とそれを許すまじとする人びとが、激しく揉みあう。中電がこの日のため雇った警備員は大柄ぞろい。砂浜に杭うつ作業員を囲みその体格でスクラムを組まれると「その中に突入するのがかなり大変だった。身体中アザだらけになったし、肘鉄を食らった人もいる」。20歳代後半のカヤック隊の女性のひとりはそう語る。

夜が明けはじめると、田ノ浦をめざし台船がつぎつぎ周辺の海上にあらわれた(写真5,6)。

写真5

写真6

写真7

写真8

午前3時から警戒していた祝島側の船は激しく抗議。台船の一部は途中でひきかえしたが、一部は原発計画の埋めたて予定海域の取水口側に交換用の灯浮標(とうふひょう)をおき、排水口側に砂利を投下した。「いのちの海」を砂利で汚してくれるなと、上関町議もつとめる祝島の清水敏保(としやす)さんらが懸命に訴える。だが海保のゴムボート10隻超が、取り囲んだり船体を手で押さえたりと祝島側の船の動きをさまたげるばかりか(写真7,8)、舳先(へさき)で祝島側の船を突いては強引に動かすことまでして、台船の航行をうながした(写真9-1~2)。[clearboth]

写真9-1

写真9-2

海の安全という大義の下、海保は中電の台船の航行安全のみ守ろうとしているように見えた。護衛をえて台船は粛々と砂利を投下。その様を、経済産業省の船がいつもどおり少し離れた場所から静観している(写真6点)。[clearboth]

経産省の船2011年2月4日

2月5日

2月10日

2月16日

2月19日

2月22日

濁る海

砂利の投下

砂利は汚濁防止膜をさげたうえで落されたが、膜は海底に達しない長さ、しかも穴だらけ。日本生態学会・日本ベントス学会・日本鳥学会が原発建設工事の中断を求める「奇跡の海」で、砂利は台船まわりの水をみるみる濁らせた。ただし台船1隻の砂利積載量は限定的だったため、台船数に比して投下された砂利の量は少ない。

工事の本丸たる田ノ浦湾では、入り口にならんだ祝島の船が台船の侵入を許さなかった。中電は田ノ浦湾内に小型船でオイルフェンスを張ろうとしたが、カヤック・筏(いかだ)・サーフボードでの抗議がそれを食いとめた。田ノ浦の浜では、駆けつけた100人以上の人びとが封鎖用の杭にぶらさがり、ネットフェンスを押さえこみ、カヤック隊の小柄な女性が「体重3キロ減った」ほど徹底的にあらがった。浜封鎖は難航し、69歳の祝島女性らが怪我をして病院へ搬送された23日まで、騒然とした状況がつづいた。[clearboth]

抗議行動

その後、取水口側と排水口側にとどまっていた台船が天候悪化を理由に順次かえると、中電と海保の船も周辺海域から去った。緊張は田ノ浦の浜にしぼられ、長年の原発計画により日常化した緊迫は続きながらも激突は鎮火。それが祝島沖・田ノ浦の3月11日だった。[clearboth]

続行する工事

「発破作業のお知らせ」中国電力

この日おきた連続大地震と津波、それが引き金となった福島第一原発の大事故。東日本で多くの人の運命を変えたこの天災と人災、それをめぐる世のなかの動きに心痛めながら、国内最後の新規立地ともいわれてきた上関原発計画の現場には波紋も広がっている。3月15日、中電は山口県知事と上関町長の要請をうけいれ、上関原発の「建設準備工事の建設予定地における作業を一時中断」と発表。ところが、発破などは「工事」でなく「調査」であるとして続けていた。だが発破によって出る岩石や土砂を地下から運びだして敷地内の谷へ投下しており、実質的に敷地造成をおこなっている状況だ。

中電の広報によれば「一時中断」した原発建設準備工事は「敷地造成工事」とのことなので、二枚舌の誹りは免れない。3月22日には、上関原発計画に異を唱える人びとが中電本社と山口県庁へ出かけ、発破をふくむ全作業の中断を求めた。それへの回答は、国が定める原発の安全審査のための(発破)作業だから「今後も続ける」(中電)、「(中断については)国・事業者が判断すること」(県)と、地元の住民感情へ配慮もなく責任回避に終始するもの。そうしたなか注目されたのが3月28日の山下隆・中電社長の会見だった。けれど「上関原発計画を据えおく」との言葉は、原発震災に不安を覚える人びとの神経を逆なでしただけだ。翌29日、祝島の島人やカヤック隊らが建設予定地・田ノ浦で抗議。4月の統一地方選では、周辺自治体でも上関原発計画が争点に急浮上した。予定地から30Km内の山口県光市で、祝島出身の無所属新人・国弘秀人さんが県議選光市区(定数2)に急きょ立候補。当選は逃したものの得票差はわずか197と、政党公認の現職候補2人に肉薄した。国弘さんの選挙カーに掲げられた文字は「未来をつくるのは私たち。みんなの声で、原発のない未来を」。その言葉どおり、手作り選挙に挑んだ彼ら彼女らはその後もデモやパレードなどで「原発なしで暮らしたい」と声をあげている。

国の原子力政策に「昨日のつづき」はもう許されない。5月10日に国のトップたる首相が「エネルギー計画を白紙にもどし議論したい」と表明したほど、収束の見通しもたたぬ原発事故の状況は深刻だ。だが中電はそれを後目(しりめ)に、上関原発準備工事にともなう環境調査の結果を翌11日に発表している。国策が混沌におちいる事態に動きがとれず、かといって立ちどまることもできずにいるのだろうか。

瀬戸内海の西玄関で、東日本大震災の余震がつづく。揺れているのはヒトであり、ヒトがつくった原発計画だ。大地が揺れるのは恐ろしいが、29年目の上関原発計画はおおいに揺るがしたい。被災した人びとの心情に思いを馳せ、もうひとつの原発震災を未然に防ぐためにも。(山秋真・ライター)

アクション情報:

*上関原発建設計画中止を求めるオンライン署名

http://www.antinuke.net/kaminoseki/

*Stop! 上関原発! あなたにもできる原発反対運動

http://stop-kaminoseki.net/action.html

関連情報(最新のアクション呼びかけや最近の状況はこちらでチェック):

*上関原発を建てさせない祝島島民の会 http://shimabito.net/

(「上関原発を建てさせない祝島島民の会」のウェブサイト)

*虹のカヤック隊 (動画豊富な虹のカヤック隊のブログ)

http://ameblo.jp/nijinokayaker/

*UrauraNews  http://iwaijima.jugem.jp/ (祝島関連情報の宝庫)

*Stop! 上関原発! (上関原発計画に関する資料やアクション呼びかけ等、もりだくさん)

http://stop-kaminoseki.net/

*湘南ゆるガシ日和 http://blog.goo.ne.jp/s-y_082209/

(山秋のブログ。主に「原発/原子力/核」カテゴリに2010年秋~の上関原発関連の報告も)

*Kaminoseki: Nuclear Power Plant, Human Rights and Biodiversity  (英語情報)

http://hotspotkaminoseki.soreccha.jp/

全工事中断要求行動1

カテゴリー:脱原発に向けた動き / 震災

タグ:脱原発 / 原発 / 山秋 真

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