2011.05.30 Mon
本年2月14日、東京地裁に、国家賠償請求、及び、夫婦別姓の婚姻届が受理されなかった処分の取消し請求が提起されました。
国家賠償請求の第一回期日は、5月25日(水)午後4時から,東京地裁104号法廷(大法廷)で予定されています。
WANでは、原告のお一人である加山恵美さんに、インタビューを行いました。
(弁護団の弁護士・打越さく良さんの記事も、併せてご覧ください。)
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―― 今回の違憲訴訟は、とてもスケールの大きな問題提起であったと思います。男女平等を定めた憲法と、夫婦別姓を認めていない民法との関係を問うていて、私自身、あらためて「女にとって、名前とは何か?」と考えさせられました。
加山さんは、これまで、家族の姓という問題と、どのように向き合ってこられたのでしょうか?
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.加山:確かに、民法にかかわる違憲訴訟という大きな問題提起に対して、無名で無力な私では原告として力不足ではないだろうかという心配は、当初から抱えています。でも「おかしいものはおかしい」と言い続ける頑固さはあるので、根気強く訴訟に取り組んでいこうと思っています。
家族の姓については、正直に言えば、無頓着です。父は末っ子、母は次女で家名を意識する家庭環境ではありませんでした。結婚するとき夫は「婚姻届では一応どちらの名前も選べるようなっているけど、どうする?」と聞いてくれましたが、私はフリーライターなのでペンネームなど融通が利くだろうと考えて夫の氏を選んでしまいました。ちなみに夫は次男で、義父は末っ子、義母は長女です。義親は夫婦の氏に夫の氏を選びましたが、家もお墓も妻側のものを継いで暮らしています。
周囲の家族環境にさまざまなバリエーションがあるのを見てきたせいか、家族の名前や姿に固定的なイメージはないです。それに私自身、氏とは個人を識別・表象する名前の一部であって家族の名前ではないと考えています。家族の名前は「田中家」だろうと「チームひまわり」だろうと好きでいいのではないでしょうか。そんな感覚なので、夫婦の氏は統一しようと、しまいとどちらでも許容されてしかるべきではないかという考えです。
—— 今回の訴訟を起こされるにいたった経緯、特に、その直接のきっかけについて教えてください。
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.加山:結婚改姓後、あらゆる書類手続きで氏名の不一致が発生し、不都合に理不尽さを感じました。選択的夫婦別氏制度の実現を待ちわびたのですが、どうも政治は動けない。ある時に「誰か裁判しないかな!」というのを聞き、1989年に別姓の婚姻届不受理に対して家裁に不服申し立てをした事件のリベンジを試みました。つまり婚姻届の「夫婦の氏」に両方チェックして不受理となり、それに対して家裁に不服申し立てをしたということです。しかしこれはあえなく却下でした。
しばらくして在外日本人の選挙権で立法不作為として違憲判決がでたのを知りました。これを見て「民法改正も同じだわ。立法不作為って言うのね!」と勝機を見いだして喜々としたのですが、法律に詳しい友人から「選挙権に比べれば夫婦の氏はそこまで問題視されない」と聞いて、がっかり。あらためて2008年のクリスマスに立法不作為で提訴できないかと榊原富士子先生に相談してみたら、先生は「地裁に提訴となると、家裁の申し立てと違って弁護団を組む必要があります」とおっしゃって、それで初めて事の大きさに気付き、その時は「それならいいです」と言って尻込みしてしまいました。
ただ、このときの相談を榊原先生が覚えていてくださり、今回の話が持ち上がったときに、私に声をかけてくださいました。弁護士の先生方が立ち上がったのなら、私が参加を断ることはできないな、と覚悟を決めたという次第です。
—— 加山さんがこれまでに選択的夫婦別姓制度を求める数多くの方々と接してこられた中で、特に強く印象に残った声がありましたら、紹介してください。
加山:どなたも切実で、いろんな願いが込められていると毎回心に深く刻まれています。あるカップルは民法改正を待ち、事実婚で暮らしていたらパートナーが交通事故で死亡。その喪失感だけでもつらいのに、法的な夫婦でないゆえの理不尽さや苦痛も加わり壮絶だったそうです。民法改正を放置することの残酷さや危険を実感しました。
また妻が旧姓を名乗りたいのに、夫がなかなか理解してくれないケース。この苦労の度合いは十人十色ですが、ある女性は仕事で旧姓を使用しているだけで義親から何度もなじられ、結局離婚。見ていられないくらい悲しんでいました。好きな相手だからこそ夫婦で居続けたくて、理解してもらいたかったのだと思います。
ほかにも「旧姓を名乗りたいけど、夫は現状では認めてくれない。法改正されれば(法的な夫婦になれるから)認めてくれるのに」という声はよく聞きます。夫の中には法的な夫婦でないと妻をちゃんと保護できないと懸念する人もいるみたいです。法律が変われば旧姓になれる人もいるので、早く法改正されてほしいです。
—— 選択的夫婦別姓制度の実現は、社会にどのような変化をもたらすでしょうか? その展望について、お聴かせ下さい。
加山:「結婚後の名前は選べる」と意識が変わっていくのではないでしょうか。今でも、夫の氏か妻の氏か選べますが、どちらか片方に統一しなくてはなりません。実際のところ「結婚したら夫の氏を選ぶ」という暗黙の了解があり、「選べる」という感覚は希薄だと思います。結婚したら女性は「なんて名前になるの?」と聞かれたりしますしね。
しかし選択的夫婦別氏制度が実現したら、本当の意味で結婚で名前を選べるようになります。同氏にするか、同氏ならどちらにするか、それとも別氏にするか。氏を捨てることなく、結婚できるようになります。それを決めるのは結婚する二人です。選択的なら同氏・別氏のどちらも許容するのですから、懐の深い社会になっていくのではないかと期待しています。
―— 選択的夫婦別姓制度を求める声に賛同している場合、今回の訴訟に対して、私たちはどのような支援ができるでしょうか?
加山:いろんな支援があっていいと思いますが、活動に関しては無知なので具体的にはうまく思いつきませんので、私感を申し上げます。仲間を増やして、理解の輪を広めてください。
似たような境遇の女性同士なら仲間を広げるのはそう難しくありません。できれば身内も味方につけてください。特に夫や彼氏、義親です。家族が味方でいてくれたらとても心強いですし、通称使用や事実婚で不都合があっても精神的な苦痛は激減します。また何かの折に付けて「実はうちの奥さん/義娘が」と広めてくれるかもしれません。法改正を阻むのは無知、無理解の壁だと思います。家族から仲間を増やしてください。これほど強力な味方はいませんから。
—— 最後に、WANの読者へ、メッセージをどうぞ。
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.加山:先進国で婚姻成立の要件に同氏を定めているのは日本だけです。いわゆる「ファミリーネーム」は欧米文化が由来だと理解していますが、その欧米でさえ20世紀のうちに法律上は選択できるように法整備を終えました。本来結婚するかどうか、結婚後の名前をどうするかは当事者が決める問題です。周囲がどちらかを強いたり、国が制限つけるのはおかしいことだと思います。
女性が自らの意思で名前を選べるように制度が変わることは、女性の自立に大きな後押しとなるのではないかと思います。どうか裁判を見守ってくださいますよう、お願い申し上げます。
(インタビュアー:林葉子、編集協力:吉井美奈子)
カテゴリー:夫婦別姓