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『ミックマック』大笑いの後に悟る、苦い現実。監督の見事な手腕に脱帽  上野千鶴子

2011.11.10 Thu

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やあ、おもしろい、久しぶりに映画らしい映画に出合った。映画らしいとは、映画以外の方法では表現できないってこと。ナンセンスとシリアスとが入り交じり、おもちゃ箱をひっくりかえしたような楽しさ。「ミックマック」とは「いたずら」って意味。まさか、ンなわきゃねーだろ、と毒づきながらいつのまにかペースにはまっている。ミシュランには載らないが満足感の高い下町のビストロの味わいだ。シェフおっと監督は『アメリ』が大ヒットしたジャン=ピエール・ジュネ。

なにしろのっけから主人公バジルの頭蓋骨の中に弾丸が埋まってるという設定。演じるダニー・ブーンがとぼけた味を出している。バジルの父は紛争地の地雷処理中の事故で死ぬ。かれは自分に当たった流れ弾と父を殺した地雷とがフランス有数の兵器会社の製品であることをつきとめる。さあ、それからかれの復讐大作戦が始まる。カネも職も失ったバジルに食事と寝床を与え、作戦に協力するのが、廃品回収のゴミ御殿に住んでいるあやしげな7人組。それを仕切るのが料理人の怪女。『セラフィーヌの庭』で主演したヨランド・モローが快演している。

それぞれ一芸持ちだが無力な7人がバジルとともに、フランス屈指の2大兵器会社を相手に、知略を駆使して、「史上最大のリベンジ」を果たしていく…。ハイテク兵器と人間ロケット、パリの高級マンションと屋根からつながる暖炉の煙突、というハイテクとロウテクの対照がおもしろい。彼らは誰一人殺さず、最後はYou Tubeというハイテクを用いて勝利する。罠にはまった2人のトップの狼狽ぶりが見物。

大笑いしたあとに卒然とした思いが残る。気分がスカッとするのは映画の中だけ。グローバリゼーションの現実は苦すぎる。それをぐさりと観客の肺腑に残す監督の手腕はなかなかのもの。告発型のドキュメンタリーにも劣らない。

世界の兵器輸出はアメリカがダントツの1位、2位がイギリス、3位がフランス、4位がドイツと西欧列強が並んでいる。彼らは軍縮を言うが兵器の生産・輸出の禁止は言わない。地雷除去の国際貢献を顕彰するが、地雷製造は廃止しない。日本政府も同じ。兵器会社は国益のためや正義のために操業しているのではない。もちろんもうけのためだ。規制をかいくぐって密輸するし、紛争国の敵と味方、両方に売って利益をあげる。政府高官もそれにからんでいる。

どんなに紛争地にPKOを派遣しても、これでは水道の蛇口が開きっぱなしのたらいから水を掻き出しているようなものだ。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ

出演:ダニー・ブーン、ドミニク・ピノン、アンドレ・デュソリエ、ニコラ・

   マリエ、ヨランド・モロー、ジャン=ピエール・マリエル、ジュリー・

フェリエ

配給:角川映画

初出: クロワッサンPremium  2010年10月号








カテゴリー:新作映画評・エッセイ

タグ:映画 / 上野千鶴子 / 女とアート

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