2009.05.30 Sat
21才のときに「絵画」ではなく「身体が介入するアート」をしたいと思いたった。それ以来、37年そのことをして来た。当時、まだパフォーマンスアートという言葉もなく、1920、30年代のヨーロッパにおける芸術運動を図版で見て興味を深めた個人的体験と、肉体の叛乱という言葉が踊るアートシーンが世間に吹き出ていた時代に遭遇してでの思いつきだったと思う。学生運動の先が見え出した70年に大学に入り、少なからず波をかぶった経験も作用している。 幸いにも家族から「結婚しろ」という脅迫的な言葉を受けずに済んだ私は、パート生活をおくりながら、パフォーマンスすることにかけてきた。そう言っても過言ではない。パフォーマンスアートがなぜそんなに面白いのか、自分がするのも面白いけれど、他人がやっているのを見るのが好きだ。飾っていられずにその人の本音が垣間見えて、その可愛さにしびれ、身体の不器用さや賢さ、意志の揺れる様に触れるとき、このアートのすばらしさを肯定したくなる。人間の行為が面白い。結果ではなく、その経過する時間を観客と共に過ごす、それがパフォーマンスアートの醍醐味だ。
パフォーマンスを買う画商が居るわけでなく、お金から見放されたアート。西洋美術史の研究対象に入っていないからと、アカデミーな世界からも門外視されたりする。
されど、パフォーマンスアート。わたしはさまざまなことを学んで来た。
自分で定義つけたアート私感にもとづいて、パフォーマンスでセクシュアルマイノリティであることを公表した。このカムアウトの時点でわたしのトラウマは解消したらしい。環状島で言えば外輪山に手をかけ,這い上がりかけた状態だ。1996年当時、「カミングアウトなどする必要はない、かえって異性愛主義を補完するだけだ」と言われてしょげたけれど、レズビアン活動を始めることとなった。
自分を知ることは他人を知る事になる。マイノリティとして生きる人たちに出会うと、わたしはマジョリティで、往々にして偏見を持った加害者であることも知った。
今、セクシュアルマイノリティは細分化がすすみ、おもしろい状態になっている。レズビアン、ゲイ、トランスジェンダー、トランスセクシャル、インターセックスなどなど。多様な人間が混ざり合って存在するための試金石となっていると思う。現に身近かな友人から「レズビアンではなくトランスなんだ」と言われたときの動揺は大きかったけれど、絶対でないものの真実を知った。
パフォーマンスアートは生きている人たちに向かって表現される。だから、ラディカルなアートフォームである。時に闘いである。
私はセクシュアルマイノリティなので、居るにもかかわらず居ないものとして扱われる事に恐れを強く感じる。日本軍「慰安婦」たちが描いた絵画を見たときに、そこにある悔しさに打たれ、深い感銘を味わった。以来、他人事ではなくなってしまったのだ。日本軍「慰安婦」だったおばあさんたち、米兵によってレイプされた被害者たちが居る事をパフォーマンスで見えるようにしたいと考えている。軍事主義がもたらす構造的性暴力を見えなくしようとする勢力に抗する。
ついこの間、パフォーマンスつくりのために沖縄へ行った。渡嘉敷にあった「慰安所」跡を探しあて、ふらふらしていると、孫を抱いたおじさんが現れて、しばらく話しているとこう言った。「ちゃんと日本政府が謝らないと北朝鮮から拉致被害者たちは帰らないよ」と。わたしもそう思うと言った。平和は綾を解く作業をしなければやって来ない。
私のパフォーマンス作業の意味はそこにある。
パフォーマンスアートとアクティビズムを同時進行する私の方法。売れっ子の親しいアーティストが「運動はほどほどにしてアートをしっかりやらないとだめ」と顔をゆがめて私を嗜めた。身体がおこなうライブアートと物をつくるアートとの違いだろうか。(イトー・ターリ)
<今後の活動案内>
パフォーマンスアート・アクション
「ひとつの応答」
軍隊による構造的性暴力は止む事はない
65年前に日本軍「慰安所」があった渡嘉敷村から、
現在の沖縄市に建っている「ミュージックタウン」へ
レイプすることも、 されることも当事者になりうる
そこから命や人権を、 そして日本の文化を問い直す
6月13日(土) パフスペース(東京) 19:00縲鰀 パフォーマンス
6月25日(木) ART BASE 88 (福岡)19:00縲鰀 パフォーマンス
6月27日(土) 西南学院大(福岡) 13:00縲鰀19:00
森口豁作品上映+ターリパフォーマンス
6月29日(月) 久留米男女平等推進センター 15時縲鰀
ワークショップ+パフォーマンス
7月20日(祝)縲鰀26日(日) トキ・アートスペース (東京)
8月15日 (土) 金沢21世紀美術館 「愛についての100の物語」展 16:00縲鰀
パフォーマンス
詳細は各会場HPか http://itotari.com をご覧下さい。
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