エッセイ

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調停の目的は【打越さく良の離婚ガイド】NO.2.1(10) 

2012.06.18 Mon

【打越さく良の離婚ガイド】NO.2-1(10) 調停の目的は


10 調停は何のためにあるのでしょうか。

◎ 調停前置主義
第3回でも書いたとおり,夫婦が離婚する場合,協議でまとまらないのであれば,原則として,夫婦関係調整(離婚)調停を申立てなければなりません(調停前置主義,家事審判法18条1項,家事事件手続法257条1項,家事事件手続法は2011年5月成立し,非訟事件手続法施行日に施行される予定で,それと同時に現行の家事審判法は廃止されます)。

手っとり早く決着したいと調停を飛ばして訴訟を提起したくても,なぜまずは調停を申立てなくてはならないのでしょうか。
たとえば貸金返還請求訴訟など一般の民事事件であれば,その課題だけを解決すれば足ります。お金を借りたのに返していないということなら,返しなさい,というだけで,すっきり解決します。

 夫婦の争いにも,権利義務があるかないかという側面もあります(慰謝料請求権の有無,財産分与請求権の有無など)。
しかし,夫婦間の紛争は,通常,長期間続いている関係,それもプライベートな関係に根ざしたもので,複雑な感情のもつれが潜んでいることがあります。他人に知ってほしくない事柄も多々あります。最近,東京家庭裁判所で芸能人同士の離婚訴訟で本人尋問があり,傍聴券が配布される事態となりました。尋問から明らかになった夫婦間の暴力暴言など生々しいやりとりが大々的に報道されました。ここまでプライベートな事実を公表することは,両当事者とも本意ではなかったでしょうから,気の毒になりました。このように,公開の法廷で行われる訴訟は,紛争中の夫婦にとって酷な面があります。

また,子どもがいるなどして,離婚したとしても,その後も一定の関係が継続する場合もあり,繊細な調整を目指すことが望ましくもあります。

このように,離婚という夫婦間の紛争は,それがまさに夫婦,すなわち,デリケートでその課題限りという関係ではない当事者間の争いであることから,公開の訴訟より前に,非公開で紛争の自主的な解決を促す制度である調停をまずやってみようということになっているのです。

◎ 例 外
もっとも,当事者間の話し合いによる自主的な解決が望めない場合は,調停をする意味がありません。たとえば,話し合いをしたくても,相手が行方不明とか,逮捕勾留されているといった状況であれば,調停は無理でしょう。そのような場合は,調停をしないで訴訟を提起することができます(家事審判法18条2項但し書,家事事件手続法257条2項但し書)。

◎ 調停の不成立調書あるいは事件終了証明書
調停委員会が,調停を続けても,当事者間に合意が成立する見込みがないとして,事件を終了させることを,調停不成立といいます。訴訟提起の際には,訴訟を担当する裁判官に,調停を前置したことを明らかにする必要があります。そのため,調停を担当した家庭裁判所の書記官に,調停の不成立調書あるいは事件終了証明書をもらっておきましょう(150円の収入印紙を貼って,交付申請書を提出します)。訴訟提起の際には必ずどちらかを提出します。

◎ 取下げでも調停前置? 
申立人は,相手方の同意なしに,いつでも調停の申立てを取下げることが出来ます(取下書を提出します)。
調停前置主義というのは,実質的に調停を経ているかどうかが問題なので,取下げの前に調停期日においてきちんと話し合いがされていれば,取下げでも調停前置したといえることになります。

実際,取下げの場合にも,事件終了証明書をもらって,訴訟提起が可能です。しかし,たとえば調停期日を1回だけでさっさと取下げ,速やかに訴訟提起をしても,場合によっては,裁判所により,未だ実質的に調停を経てはいないとして,調停に付されてしまいかねません(家事審判法18条2項,家事事件手続法257条2項)。調停で十分話し合いをしてから取下げを検討しましょう。

◎ 調停不成立になってから何年経っても調停前置?
調停不成立あるいは取下げから何年も経ってから訴訟提起しても,調停を前置したことになるのでしょうか。離婚の場合,今の関係をどう清算するかが問題ですから,数年前の調停で,調停を前置したとはいえないでしょう。では何年以内だったらいいのでしょうか。

期限を決めた条文などないので一概にはいえません。1年少し経過してもOKだったこともありますが,なるべくなら調停終了から1年以内だと落ち着きがいいように思えます。

カテゴリー:打越さく良の離婚ガイド

タグ:非婚・結婚・離婚 / くらし・生活 / 弁護士 / フェミニズム,家族,離婚, 打越さく良,エッセイ,離婚ガイド,親権