2012.10.03 Wed
このシリーズは、事実婚・非婚・おひとりさま・セクシャルマイノリティといった方々に対し、「法律婚夫婦+子」を基本概念として作られている現状の各種法制度の中から、活用できる制度がないかを提案していくものです。
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【はじめましてのごあいさつ】
はじめまして。行政書士の金田 忍(かねだ しのぶ)と申します。
この度、「大切なモノを守るには」というタイトルで、事実婚・非婚・おひとりさま・LGBTX/セクシャルマイノリティといった方々を主な対象として、「大切なモノ」を守る方法を考えていく連載をさせていただくことになりました。
「モノ」は、「者」であり「物」であり、「財産」であり、「権利」であり、「夢」であり、「価値観」であり、わたしたちが自尊心を持って生きていく上で必要な全ての「モノ」を意味しています。
いまの法律の多くが「法律婚夫婦+子」の世帯をモデルとして作られており、その枠に当てはまらないマイノリティは当然の権利さえ保障されないことが多いのが現実です。
もちろんそういった不平等は、法律改正で変えていく必要があるのですが、それには時間が掛かる一方、私たちは容赦なく年を取っていきます!
では、いまある法律を利用して、マイノリティの生き方をできるだけ守ることはできないか? いろいろなテーマからそれを提案して行くのが、この連載シリーズの目的です。
「法律」なんていうと堅苦しくて難しそうに聞こえますが、等身大で親しみやすくわかりやすい連載を心がけていきたいと思っております。
毎月1回の更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。
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第1回 相続だけはどうにもならない!
●多様な生き方と法律改正
籍を入れないで一緒に暮らす「事実婚(わざわざ「婚」をつけるのには、歯がゆさを感じますが)」もそう珍しくない時代になりました。私の周りにも知っている限りで5組ほど。自分を入れると6組ですね。婚姻制度への疑問から籍を入れない方、なんとなく籍を入れないままに至っている方、同性愛で籍を入れることができない方、連れ合いを亡くしてからの出会いで籍を入れるには子供たちの抵抗がある方、理由は様々だと思います。
また、生涯結婚しない「非婚」や「おひとりさま」も確実に増えています。配偶者に先立たれ、子もいないという形の「おひとりさま」もいらっしゃることでしょう。
現在、日本のモデル世帯である「法律婚夫婦+子」の以外の世帯がじわじわと多数を占めるようになってきているのですが、いつまでたっても法律の世界ではこのモデルが亡霊のようにまとわりついていて、現実に追いついていません。また、このモデルに頑なにこだわる人々もいるので、実情に合わせた法律改正までの道のりは、なかなか険しいものがあります。
●男女の事実婚なら問題ない??
ただ、本当に少しずつではあるのですが、男女のカップルであれば、多様な生き方も少しは認められるようになってきました。例えば、事実婚であっても、事実上の夫婦としての実情を重視し保護する判断がなされるようになってきており、扶養家族や健康保険の加入など、事実上の夫婦であれば、法律婚でなくても認められる場合もあります。
また、住民票の世帯主との続柄に「未届けの妻」や「未届けの夫」という選択ができるようになりました。この届けをすれば、籍を入れていなくてもほぼ法律婚と同様に扱われます。
このように、法律婚と同等に少しずつ保障されつつあるのが「男女の事実婚」ですが、どれだけ住民票に「未届けの妻」や「未届けの夫」と記載されていようが、周囲の方々や他の家族が事実上の夫婦と認めていようが、ふたりの間に実子がいようがいまいが、何もしないままでは、全く保障されないものがあります。
そう、それが「相続」です。
「相続」だけは、男女の事実婚でも法律上、どうにもならないのです。「相続」は未だに「法律婚夫婦」や「血縁」であることが何よりも優先されます。
●「遺言書」は法律に勝る「武器と防具」
「相続」というのは、簡単にいえば「自分が死んだ後の自分の財産をどうするか」ということです。もちろん、自分の財産ですから、自分でどうするかを決められるのが本来は当然のことです。
しかし、漠然と「自分にもしものことがあったら、財産は○○さんに残したい」「△△に寄付したい」と考えていても、それを形として残して置かないと、あなたの財産は法律に従って処分されることになります。
では、法律に従って処分されるとどうなるのでしょう。一般的には、法律婚上の配偶者、自分の子、自分の親などに分配されることになります。
【事実婚(男女パートナー・同性愛パートナ問わず)の場合】
パートナーに財産は渡りません。あなた自身の(離婚していない)配偶者、子や孫、親、兄弟姉妹、甥・姪などに分配されます。
【非婚・おひとりさまの場合】
お世話になった方や寄付したい団体に財産は渡りません。あなた自身の親や兄弟姉妹、甥・姪などに分配されます。
自分の財産が自分の意図しない形で勝手に分配される。ましてやそこで争いが起こる。大切にしたい誰かが、今後の生活に困ってしまう……。これでは、死んでも死にきれませんよね?
これを避ける方法は、実はたったひとつしかありません。
“元気なうちに「遺言書」を作っておく”
これだけです。たったひとつだけですが、法律よりも強い力があります。法律婚で保障されない生き方をする私たちとって「遺言書」は、法律の代わりの武器と防具になります。
少し前から「終活」などといって、遺言書を作ったり、エンディング・ノートを書いたりするのが主に高齢者の方々の間でブームになっていますが、法律婚で保障されない生き方をしている私たちにとってそれらは、ゆっくりと余生の楽しみのひとつとして取っておくものではありません。年齢関係なく、常日頃から意識して、準備しておくべきものだといえるでしょう。
また、「遺言書」は自分の死とセットですので、もしかすると暗いイメージがあるかもしれませんが、とんでもない! 遺言書は、最期の攻めの剣です。そして、大切なモノを守るための盾です。よーく材料を吟味して、よーく磨いて、痛快なものを作りましょう!
さあそれでは、私たちにとってそのたったひとつの武器と防具になる「遺言書」とはどのようなものなのか。次回から、実際に詳しく見ていくことにします。
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【文】
金田行政書士事務所
行政書士 金田 忍(かねだ しのぶ)
http://www.gyosyo.info/
【マンガ】
社会学者 金田 淳子(かねだ じゅんこ)
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