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今年から何が変わる?【打越さく良の離婚ガイド】NO.2-8(17)

2013.01.18 Fri

【打越さく良の離婚ガイド】NO.2-8(17)    今年から何が変わる?

17 最近調停に関係する法律が変わったと聞きましたが、何が変わったのでしょうか。手続き上の変更があるのですか。

◎ 家事事件手続法の施行

はい,今まで調停と審判の手続に関しては家事審判法という1947(昭和22)年に制定された法律のもとで規律されていました。この家事審判法を全体として見直した家事事件手続法が2011(平成23)年5月19日に成立し(同月25日公布),2013(平成25)年1月1日に施行されました。

家事審判法が制定されてから45年以上経って,家事事件全体の事件数は,かなり増加してきました。そして,家庭裁判所の裁判官が執筆した本によると,「権利意識が強い」当事者が増えた上,感情対立も激しく,様々な主張がされるようになったとのこと。そのため,紛争の解決が大変困難になってきたそうです。それなのに,家事審判法は,当事者などの手続保障に関する規定が十分とはいえない面があり,当事者のニーズに合わなくなっていました。

家事事件手続法は,家事事件の手続をより明確で利用しやすいものとし(手続の透明性),当事者等が主体的に主張や資料を提出することが出来るようにして(当事者権の保障),裁判所における審判や調停の適正さを担保し,当事者等の納得を得られるようにすることをねらいとして,様々な改正をしています。

◎ 家事調停事件に関する改正

では,当事者の手続保障に資するため,調停は具体的にはどのように変わったでしょうか。以下の「透明化」といえる変化や,より利用しやすくする手続の整備,さらに子の意思の把握や配慮に関する改正があります。

1 調停の申立書の写しの送付


 まず,家事審判法では,調停の申立書の写しを相手方に送るかどうかは,家庭裁判所の裁量に委ねられていましたが,ほとんど送られていませんでした。家庭裁判所から相手方に最初の期日前に届くのは,「夫婦関係調整調停申立事件」と記載された期日の呼び出し状だけで,一体申立人から離婚の調停を申し立てられたのか,円満調整の調停を申し立ててられたのかも,期日当日でないと分からないといった事態でした。申立ての内容を一定程度知ったほうが,事前に自分なりの考えも検討できます。そこで,家事事件手続法のもとでは,原則として,調停の申立書を相手方に送付することとなりました(256条1項)。ただし,申立書を送付することにより,相手方との感情的対立が激しくなるおそれがあるような場合には,かえって調停が円滑には進みません。そこでこのような場合には,家事調停の申立書の写しは送付されず,申立てがあったことが通知されるということになります(256条1項ただし書)。

2 利用しやすい手続きへ

そのほか,高等裁判所で調停が可能になる(法274条3項),調停の申立てさえあれば保全処分の申立てが可能になる(法105条),電話会議,テレビ会議システムの導入(法54条,258条)など,家事事件がより利用しやすくなるように法が整備されました。

3 子の手続代理人など

家庭裁判所は,未成年の子の陳述聴取等により子の意思の把握に努め,年齢・発達の程度に応じてその意思を配慮しなければならないとされました(法65条,258条)。

◎ 子どもの手続代理人

子どもが手続に参加している場合(法41条2項,42条3項,258条),子どもに代わって手続を追行する手続代理人が就くこともありうることになりました(法23条)。家庭裁判所の調査官が子どもの意向調査に携わっていますが,裁判所から独立した地位を有する子どもの手続代理人が子どもに手続の現状に関する情報を提供し,子どもとより綿密なコミュニケーションのもとで意見を聴取すること等により,子どもの最善の利益を反映していくことが期待できます。

子どもの手続代理人は,原則として弁護士です(法22条1項本文,23条。ただし,22条1項但書の例外あり)。子どもや親から選任される私選と,裁判官から選任される国選がありえます。

国選でも私選でも,子どもの発達や心理,離婚等家事事件に関する法制度等に高度な知識・技能を体得している必要があることから,研修等を経て専門的な知識技能を有すると認められた弁護士たちから任命されることが望ましいでしょう。各弁護士会で,国選のための名簿の準備等態勢を整えているようです。費用の手当についても検討が続けられています。

◎ 法改正・運用の変更に注意しましょう

このように法改正されたのに,ちょっと前の離婚の本などを参考にしてしまい,「申立書を相手方が読むわけがない」などと思っていると,大変なことになります。まずはご自分の家庭裁判所のホームページを確認し,手続の説明書を入念に読みましょう。その上で,その裁判所の書式通りに申立書,事情説明書,進行に関する照会書を記載しましょう。裁判所の定型書式を利用しなくてもよいのですが,利用するのがまずは無難です。なお,事情説明書も相手方から閲覧謄写の申請があれば開示されてしまうことを念頭においてください。DVなどの事情があれば,進行に関する照会回答書に忘れずに記載しましょう。

DVから避難して居場所を秘匿している場合,くれぐれも申立書に避難先の居所を記載しないでください。申立書にはご実家や住民票上の住所など開示してもいい場所を書いた上で,連絡先の届出書に実際の居所を書き,ホッチキスで非開示の希望に関する申出書をつけて出すことにしてください。

判断の基礎となる資料も今後は相互に確認することが望ましいとされています。たとえば避難先で仕事を見つけてその給料明細等を提出しなければならない場合,勤務先をマスキングして提出する等,注意してください。マスキングが難しい場合は,非開示を希望する資料ごとに非開示の上申書を添付して提出しますが(東京家裁の場合),裁判所が非開示が適当でないと判断されたら開示されてしまいますので,マスキングで対処するか,そもそも提出しないか,よく検討してください。

なお,東京家庭裁判所などでは,調停期日の始めと終わりに,双方当事者本人が調停室に立ち会った上で,裁判所から,手続の説明,進行予定や次回までの課題の確認等を,また,成立・不成立等により事件が終了する際の意思確認を行うようになりました(立会調停)。これは,「調停手続の透明性の確保の観点から,主体的な合意形成の前提となる,手続の進行状況や対立点,他の当事者が提出した資料の内容等について,両当事者と裁判所が共通の認識を持つための取り組み」とのことです。

もっとも,DV(精神的暴力,性的暴力も含みます。)等の問題が窺われる等により立ち会うことに具体的な支障がある場合は実施しないこととなっています。立会調停を避ける必要がある場合には,進行に関する照会回答書にDV等の具体的な事情を記載してください。

カテゴリー:打越さく良の離婚ガイド

タグ:非婚・結婚・離婚 / くらし・生活 / 弁護士 / フェミニズム,家族,離婚, 打越さく良,エッセイ,離婚ガイド,親権

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