2013.08.01 Thu
岩手から発信せよ NO.9
「ペット」と言うには、憚られる犬猫などの人間と暮らす動物たち。動物と暮らしたことのある人ならば、それはかけがえのない命であり、誰もがその出会いや別れを人間より「軽い」等とは思わないでしょう。
震災発生時に、犬を抱きかかえて逃げた人、津波のヘドロに飲みこまれながらも、猫を入れたゲージを手離さなかった人、やむをえなく、鎖をほどいて山に逃がした犬、あわてて外に飛び出して行方知れずになった猫、小鳥を鳥かごに入れ、ハムスターやウサギをおいて後で助けに来られると思いそのままにして逃げてきた人・・・・。
避難所で餌もなく困って配給の缶詰をこっそり与えた人、鳴き声や、排泄、臭いなどの気兼ねから避難所を出て廃車の中で犬と過ごした人、訪ね人のチラシに愛猫を書きたかったけれど人間でさえも見つかっていないのに出来なかった人、どこの犬かわからないけれど弱って倒れていたのを助けた人・・・・。
災害のない場所で暮らしていても、ペットが亡くなれば、家族が亡くなったように悲しみは深く襲い「ペットロス」をひきおこします。ましてや、今回の震災は家も、家族、町、仕事、友人、学校、職場のほかに、ペットも失った人々の不安と悲しみは図り知れません。
そこで、まず県内の獣医師会と岩手大学の獣医学科は、災害時動物救護本部を開設し、被災地の動物救護にすぐに乗り出しました。野良犬、野良猫化したのを保護したり、狂犬病、各種ワクチンの予防接種や、えさやりをしたり、去勢、避妊手術をして繁殖を防いだり、ケガをおった動物を治療したり。そして、里親を探すボランティアも動きました。震災を潜り抜けて生き延びたけれど、沿岸の仮設やみなし住宅ではペット厳禁なので、住居が落ち着くまで、猫を一時預かりするボランティアです。
被災地に定期的に入っては、動物の健康状態を見ている獣医師は、診察したある犬が、道路に出ると、おびえてくるくる回って吠えだすので、飼い主に聞くと、襲ってくる津波の中を一緒に走って逃げたそうで、それがトラウマになって今も外に出るとパニックをおこすのだと。猫は、一旦は山の中に逃げて、しばらくして、里に戻ってくるのですが、野生化してしまったものもいます。また、崩壊した家の中で、がりがりにやせて1ヶ月ぶりに保護された猫もいました。実際、私の知人は、浸水崩壊した家の天井近くで、奇跡の生還を果たした猫と再会し、今、仮設住宅で一緒に暮らしています。彼女は、「この子とは一生離れない」といっています。仮設住宅が、ペット同伴でOKと、表立っては公言していませんが、事実そうやって固い絆で結ばれた者同士を引き離す道理はありません。震災以後、近所で許されるのならば、動物と暮らしている人は多いです。家族を失った人が、動物とくらすことで、癒されているのは事実です。
はたして、最近建設、入居が進められている災害公営住宅は、ペット飼育の対応に苦慮しています。戸建の多い野田村は、全戸許可ですが、集合住宅になるとトラブルが予想されて、自治体は同居の難色を見せています。宮古市では、飼育全面禁止を決めようとして、住民の大反対にあい、一部地域のみ、住民間で組合をつくりルールを決めて、入居後の新たな飼育は認めないことで合意しました。また、建設予定戸数が1000戸を超える釜石市や、陸前高田市は、今まだ検討中。検討課題は、退居後の補修費の増額、入居後の新たな飼育を認めるか、飼育禁止の通常の公営住宅との整合性などです。しかし、まだ建築段階ならば、2004年の新潟中越地震で新潟県小千谷市が、ペット同居専用の公営住宅を建設した例もありますから、頭ごなしに無理だとは、いいきれません。ペットは認めますよ、ただし金魚や小鳥はOKだが犬猫は禁止とする自治体もあり、被災者の現実をきちんと見ようとしていないと言う批判も多く出ているのが現状です。
「環境省は、災害時、ペットは飼い主と一緒に避難所や仮設住宅に避難させることを原則とし、自治体に態勢の整備を促す初の「被災動物の救護対策ガイドライン」の概要をまとめ、中央環境審議会動物愛護部会に示した。東日本大震災では、鳴き声やにおいなどを理由に避難所でペット受け入れが認められないケースがあった。このため、普段から自治体や飼い主に同行避難の準備を促すのが狙い。
環境省は4月にも全国に配布する計画。だが、同部会の委員からは「さまざまな災害があり、一概に同行避難と言っても自治体は困るのではないか」などの批判も上がっている。 ガイドラインの概要には「災害発生時は原則として、飼い主とペットは同行避難を行う」と明記。自治体に対し、避難所や仮設住宅へのペット受け入れの配慮を求める。飼い主にもペットの避難用品を準備し、避難所でほかの人の迷惑にならないよう、必要なしつけをするよう促す。環境省は具体的な配慮の方法として、避難所で人とペットの居住空間を分けることなどを想定しているとしている。
また、地元の獣医師会などと協力し、災害時に備えた協定締結や救護本部の準備を検討することや、けがをしたり逃げ出したりしたペットの保護策も盛り込む方針。」〔2013.3.30共同通信〕
と今回の大震災の反省から環境省のお役人の作ったガイドラインですが、実際にこのとおりにいくかどうか・・・。
一方、福島県の原発事故被爆地域の動物たちはどうでしょうか?
「東京電力福島第1原子力発電所事故で、福島県の警戒区域で保護されたペットの対応に国や県が頭を悩ませている。今年度の飼育費だけで犬猫計約750匹に約1億7千万円の公費を投入する一方、避難生活が続く飼い主の引き取りや新たな飼い主探しは難航。」(2012年5月日本経済新聞)
現在でも、高濃度放射線量の20キロ圏内警戒区域は、人間の立ち入りは禁止、家畜は放置、ペットは置き去りになっています。被爆覚悟の決死のボランティアが時間制限の中、柵や、リードをはずし、動物たちを解放していました。そして、今も餌を与えにいっています。しかし、その多くが餓死、共食い、野生化しているのを報道でご覧になった方も多いと思います。精魂こめて育ててきた牛を置いて逃げた畜産農家が「原発さえこなければ」と遺書を書いて自殺した話は、有名になりました。なにも経済的に追い込まれるだけではなく、愛情込めた動物たちが何の罪もないのに見殺しにされる理不尽さを含んだ嘆きでもあります。
現在、放置されている動物の屠殺は行われていないのですが、その分、繁殖がどんどん起こっています。養豚のブタとイノシシがかけあわさったイノブタがうまれ、野良犬、野良猫が増え続けています。もちろん、イタチ、キツネ、タヌキ、熊などの野生動物も魚も虫も被ばくしています。それらが食物連鎖のなかで生きています。渡り鳥が飛来し、川の水が流れ、汚染された植物を食べ、動物の死骸は食べられ、排泄物は土に帰り・・・果てしなく「放射線は拡散」しているのです。
そこで、今懸念されているのが「狂犬病」。狂犬病は、犬あるいは動物だけの病気ではなく、人を含めた全ての哺乳類が感染し、発病すると治療方法がなく、悲惨な神経症状を示してほぼ100%死亡する極めて危険なウイルス性の人獣共通感染症です。高度な医療が確立した現在も、世界では毎年約50,000の人と十数万の動物が発病死していると推定されています。日本で発病例がないのは、世界的にも珍しく、徹底した飼い犬の予防接種と、野良犬の殺処分の御蔭ともいえます。
四川大地震では、震災後、狂犬病と家畜の防疫と感染症対策が緊急課題でした。今回の地震でも狂犬病ワクチン15万本が緊急輸送されています。
じゃあ、日本は安心?ところが、どこの山にもいるコウモリは、狂犬病ウイルスを保持動物。それを食べたり噛まれたりして感染したキツネやイヌなど哺乳動物は罹患します。ということは、無法地帯になっている警戒区域内の野良イヌはすでに罹患している危険があり、このまま繁殖し続けて里に下りてくれば、人への感染も考えられ、狂犬病がパンデミックを起こす危険をかなりはらんでいるわけです。しかも、「被ばく動物」なのです。
原発事故の恐ろしさはこのような側面からも考えなければなりません。
(2013.7.23記)
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シリーズ「脱原発 岩手から発信せよ」は、毎月月初めにアップ予定です。 シリーズをまとめて読まれる方はこちらからどうぞ。
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