2013.10.03 Thu
このシリーズは、事実婚・非婚・おひとりさま・セクシャルマイノリティといった方々に対し、「法律婚夫婦+子」を基本概念として作られている現状の各種法制度の中から、活用できる制度がないかを提案していくものです。
■テーマ・その3:任意後見制度で大切な「自分」と「尊厳」を守る
第13回 「成年後見制度」ってなんだろう?
●自分の判断能力が衰えてきたときにどうするか?
この「大切なモノを守るには」というコラムでは、これまでに【自分が死んだ後のための「遺言書」】、【自分の体が不自由になったときのための「財産管理等委任契約書」】について、ご紹介してまいりました。
今回からは、【自分の判断能力が衰えてきたとき】に、どんな制度を使って自分を守るかについて、お話していきます。
●判断能力が不十分な人を保護・支援するための制度
もしかするとこのコラムを読んでいらっしゃる方々にとっては、「自分を守る」というよりも、ご自身やパートナーの親が認知症になった場合に、どうやって「親を守るか」のほうが身近な問題かもしれません。
判断能力が衰えてきた高齢者をターゲットにする悪徳商法や詐欺のニュースを頻繁に耳にする昨今、どうすればそういった被害を防ぐことができるでしょうか。
例えば、本人がよく理解しないままに不要な高額商品を次々と買わされてしまうようなケースでは、消費者契約法や特定商取引に関する法律などで、一定の要件に当てはまればその契約を取り消すことが可能です。ただし、その要件に該当しなかった場合には、契約を取り消すことができません。これだと大切なお金が次々と減っていってしまい、その後の生活に支障が出てしまうおそれがありますので、不要な契約は、本人以外でも取り消すことができるようにしておかなくてはなりません。
また、認知症が進んでしまったため、施設に入るための資金調達として、本人名義の不動産を売却しようと考えた場合、不動産の名義人である本人が売却の意思をもって契約を行う必要があります。施設に入るための契約も本人が行なう必要がありますので、本人が契約内容を理解する判断能力を有していない状態だと、生活に必要な契約を結ぶことが難しくなってしまいます。
本人の親やきょうだいが亡くなって相続が発生した場合も注意が必要です。相続は、借金などの負の遺産も相続してしまいますので、負の遺産がある場合は、相続の放棄などを行わないと知らないうちに借金を抱えてしまうことになります。
こういった様々な不都合に対し、判断能力が不十分な人を保護・支援するための制度が「成年後見制度」です。「成年後見制度」は、2000年4月1日、介護保険法と同時に施行されました。
それまでの福祉サービスが「行政からの措置」というものであったのに対し、介護保険制度では、福祉サービスを受ける側の意思決定を尊重するために、サービスを提供事業者との「契約」へと移行しました。ただし、福祉サービスを受ける高齢者は、契約の当事者としての能力が衰退している場合がほとんどであることから、契約という法律行為を支援するための制度も同時に必要となりました。そのために制定された制度が「成年後見制度」なのです。
「成年後見制度」では、判断能力が不十分になった本人の代わりに様々な法律行為を行なう人(または法人)を決めます。本人の判断能力が不十分になってしまった後も、この人(または法人)が本人の代わりに、本人が望む生活を送ることができるように支援するための制度です。
●「法定後見制度」と「任意後見制度」がある
この「成年後見制度」は、大きく2つの制度に分かれています。1つは「法定後見制度」。もう1つが「任意後見制度」というものです。
2つの制度の最大の違いは、「本人の判断能力がある状態か/すでに衰えている状態か」、「本人の代わりに法律行為を行なう人や内容を本人が決められるか/決められないか」という点になります。
【法定後見制度】
「法定後見制度」は、その多くの場合が、「本人の判断能力がすでに衰えている状態」で、「本人の代わりに法律行為を行なう人や内容を本人が決められない」ものです。
「法定後見制度」を利用するときは、まず家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所の審判により、本人の代わりに法律行為を行なう人※や内容(後見・保佐・補助)が決定されます。
※親族が選ばれることが一般的ですが、法律・福祉の専門家や福祉関係の公益法人が選ばれることもあります。平成24年は、親族以外の第三者が全体の約51.5%(前年は約44.4%)と制度開始以降初めて親族が選任されたものを上回りました。(最高裁判所事務総局家庭局【成年後見関係事件の概況 平成24年】より)
すでに判断能力がすでに衰えている状態の人を保護するための制度と言えます。
【任意後見制度】
「任意後見制度」は、「本人の判断能力がある状態」で、「本人の代わりに法律行為を行なう人や内容を本人が決められる」ものです。
これは、「任意後見契約」という契約書を本人と後見人候補者(受任者)が、事前(本人の判断能力が衰える前)に結んでおくことで利用できる制度です。
自分が「この人(法人)であれば、自分が認知症になった後のことも任せられる」と信頼した人と一緒に、自分が認知症になった後、どのような生活を送りたいか等について話し合いながら契約の内容を決め、お互いに納得したうえで事前に任意後見契約を公正証書で交わしておくことになります。実際に判断能力が衰えてきたとき(家庭裁判所に「後見監督人(任意後見人を監督する者)」を申し立て、選任されたとき)に、後見が開始されることになります。また、ずっと判断能力が衰えないままであれば、任意後見契約は開始されないことになります。
まだ元気なうちに、自分の判断能力がなくなった後の生活を考えておくための制度・自己決定権を尊重するための制度と言えます。
●マイノリティであれば、迷わず「任意後見制度」
このように「法定後見制度」と「任意後見制度」は、どちらも判断能力が衰えたときのための制度であっても、判断能力が衰えた後の生活について、事前に自分で決めておくことができるかどうかの大きな違いがあります。
また、「法定後見制度」を利用するには、原則として「本人、配偶者・四親等以内(親・祖父母・子・孫・ひ孫、兄弟姉妹・甥・姪、おじ・おば・いとこ、配偶者の親・子・兄弟姉妹)の親族」から家庭裁判所への申し立てが必要になります。事実婚・非婚(同性パートナーを含む)の場合には、パートナーが重度の認知症になったときにも申し立てをすることができませんし、四親等以内の親族が本人やパートナーの意向を踏まえずに申し立てしてしまうことも想定されます。
おひとりさまの場合、親族が誰もいないときには、市町村長が家庭裁判所へ申し立てすることになりますが、自分がこれまでに会ったこともない人(法人)に、判断能力が衰えた後の生活を任せることになってしまいかねません。
そのため、事実婚・非婚(同性パートナーを含む)、おひとりさまといったマイノリティの立場であれば、「任意後見制度」を利用し、判断能力が衰える前に、パートナーや信頼できる第三者と十分に話し合って契約を交わし、自分の判断能力が衰えた後の生活を託しておくことが、安心・安全で自分の意思が尊重された老後を送るために不可欠だと言えるでしょう。
今回は、「成年後見制度」の概要をご説明いたしました。次回は、まず、ご自身やパートナーの「親」の問題として、「成年後見制度」のうちの「法定後見制度」の詳細を見ていくことにします。
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【文】
金田行政書士事務所
行政書士 金田 忍(かねだ しのぶ)
http://www.gyosyo.info/
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