2013.10.08 Tue
2013年9月10日、(株)パンドラ主催「ドメスティック・バイオレンス 映画上映とレクチャーによる講座」が渋谷アップリンクで開催されました。以下は、パレスチナ難民キャンプでドメスティック・バイオレンスに関する調査研究を行うなど、被害者に対する心のケアに関する活動を行っている二見 茜さん(小児看護師)による参加レポートです。
映画上映 『パパ、ママをぶたないで!』 (監督アニータ・キリ 英題:Angry Man 2009年)
大好きなパパが突然、ママと僕を殴る恐ろしい鬼に豹変し、家の中がめちゃくちゃになってしまう。そして、嵐が過ぎ去った後には優しいパパに戻る。
「僕が悪いの?」
『パパ、ママをぶたないで!』は、暴力が存在する家庭における子どもの恐怖、心の葛藤、戸惑いを子どもの視点で描き、大切なメッセージを届けるユニークな作品である。
もし、暴力が起きてしまったら・・・
子どもたちを取り巻く環境には様々な暴力の危険が孕んでいる。児童虐待による死亡事件は後を絶たない。そして、いじめ・性犯罪の被害数も増加しており、インターネットやソーシャルネットワークサービスの普及によって悪質になってきている。
身体の安全が脅かされれば、人は本能的に、攻撃する・逃げる・または絶望的な虚脱感で身動きが取れなくなるという行動パターンをとることが考えられる。しかし、子どもは攻撃する力もなく、逃げることもできず、恐怖に怯えながら暴力を受けるしかない。そして、恐怖・現実を受け入れるために「自分が悪い」と思い込み、自分を責めてしまう。その結果、無邪気さ、喜怒哀楽、好奇心といった「子どもらしさ」を失ってしまう。
暴力を受けることの被害は、身体的な傷だけでなく、心に大きな傷跡を残すことだ。ADHD(注意欠陥多動障害)、心身症、摂食障害、 犯罪、非行、学業成績不振、アルコールや薬物依存、不安症等は暴力被害を受けた子どもに多いという統計がある。もちろん、暴力を受けた全ての人に同様の症状が出るわけではない。暴力を受けた期間・程度・家族間の人間関係等が影響するため、周囲に助け理解してくれる人がいれば、それが支えとなり、被害者の心の傷を和らげることができる。
児童虐待は、閉鎖された家庭の中で起こるため、発見が難しい。もし、周囲で児童虐待が疑わしいことがあれば、児童相談所に連絡を!連絡は匿名ででき、情報提供者の秘密は守られる。そして、たとえそれが間違いであったとしても情報提供者の責任が問われることはない。
映画の中では、隣の家に住む犬が「僕」の異変に気付き、子ども自身がどうしたら良いのかを教えてくれる。そして、王様は大人の対応方法を教えてくれる。もし、暴力の被害を受けてしまったら・・・勇気を出して、信頼できる大人に話すこと。その時、相談を受けた大人は、話してくれたことを褒め、あなたは悪くないと伝えること。大人が協力して子どもを守り、子どもらしさを取り戻せるように心のケアをしていくこと。それがこの映画の大切なメッセージである。
レクチャー 日本におけるDVの現状
上映終了後には、角田由紀子弁護士のトークセッションが開催され、日本におけるドメスティック・バイオレンス(以下DVと略記)の現状についてのお話があった。
講演中、特に印象に残ったのは、「DVは、家庭内の問題であるが、社会の構造が影響している」という角田弁護士の指摘だ。DVの問題を語る時、この問題に関する男女の経験の性差を無視する事はできない。
パートナーからDVを受けた場合、多くの女性が逃げることをためらってしまう。そうした女性の側のためらいには、離婚して片親になることが子どもの将来に悪影響を及ぼすのではないかという恐れ、女性が一人で生きていくために充分な収入を得ることが難しいといった現代社会の抱える問題が関わっている。加害者の行為が刑法の規定にあたる場合であっても、実際には、被害者が処罰を求めないことや、警察官が刑事事件として取り扱うことに消極的であったりして、放置されることが多い。また、DV防止法自体は、保護命令違反以外には、処罰規定をおいていない。このように、DV被害者を支援する法律の仕組みが不十分であることについての疑問も提示された。
また、参加者からの質疑応答の時間には、離婚後の子どもと加害者の面会についての議論も交わされた。角田弁護士によると、最近の家庭裁判所では「たとえ離婚しても子どもにとっては親なのだから、できるだけ面会は行う」傾向にあるという。
しかし、トラウマ(心の傷)が深い場合、加害者に遭うことは、フラッシュバック(再体験)によるパニックを引き起こす危険があるため、「面会させることが良い」と一概に判断する事は危険であると私は考える。また、「片親は子どもにとって良くないから、多少の暴力は我慢するべき」等の意見もあるが、自分を守ってくれるはずの親が暴力をふるい、生命が脅かされるような状況に置かれることが子どもの心身に与える影響を法曹関係者も理解し、子どもにとって最善の選択ができるような支援体制を作っていくべきであると考える。
暴力とジェンダー
暴行・殺人事件のニュースが連日報道され、アニメやドラマで暴力的なシーンが多く描かれているように、現代社会の中で暴力が後を絶たないのはなぜだろう。戦争をなくすという名目で武力で制圧する現状―。あるいは、多様な文化を受け入れると言いながら差別する現状―。先進国と開発途上国の間には、人命ですら平等であるとは言い難い現状―。こうした現状をもたらした要因の一つに、ジェンダー(女性の社会的性差)の問題がある。
人類の長い歴史の中で、女性の尊厳は軽視され、男性優位の考え方が主流であった。現在は、学歴や就職における格差は昔より一見減ってきているように見えるものの、依然として、収入の面では格差があり、女性が家事や育児に時間を取られていることは否めない。
経済発展の陰で、女性たちは、家事・育児・介護など忍耐の必要な労働を黙々と担い、家庭を支えてきた。こうした女性たちの功績があったことを忘れてはならない。女性が暴力に怯えることなく立ち上がり、自分の人生を切り開いていける社会になることを願っている。
この映画を、全ての子どもと子どもに関わる大人たちに観ていただきたい。そして、あなたの周りに困っている人がいたら、何をしてあげられるのか、少しでも考えていただけたら幸いである。
この作品は上映権付きDVDがパンドラより発売されています。詳しくはこちら
カテゴリー:新作映画評・エッセイ
タグ:DV・性暴力・ハラスメント / ジェンダー / トラウマ / DV / 女性に対する暴力 / 児童虐待 / DVD / 二見茜 / アニータ・キリ / アニメーション / 角田由紀子
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