2013.12.03 Tue
このシリーズは、事実婚・非婚・おひとりさま・セクシャルマイノリティといった方々に対し、「法律婚夫婦+子」を基本概念として作られている現状の各種法制度の中から、活用できる制度がないかを提案していくものです。
■テーマ・その3:任意後見制度で大切な「自分」と「尊厳」を守る
第15回 「任意後見契約」で老後の事前予約をしよう!
●「任意後見制度」は、当事者間の「契約」で成立する制度です
このコラムでは、前々回から「判断能力が衰えてきた人」を支援し保護するための制度「成年後見制度」のご紹介に入っています。この「成年後見制度」は、大きく2つの制度に分かれています。1つは「法定後見制度(判断能力が衰えてしまった後の対策)」。もう1つが「任意後見制度(判断能力が衰える前の対策)」というものです。
「法定後見制度」は、裁判所に後見人等を選任してもらう制度ですが、「任意後見制度」は、当事者間の契約によって後見人を選ぶことができる制度です。
今回は「任意後見制度」についての概要のご紹介を行っていきます。
●認知症になったときのための「事前予約」をするためのもの
「任意後見制度」は、上述のように当事者間で「任意後見契約」を行なうことで成立する制度です。契約を行なうには、当事者に判断能力がなくてはいけません。そのため、「任意後見制度」を用いるためには、<本人>にきちんと判断能力がある状態で「任意後見契約」を交わすことが条件となります。
つまり、「任意後見制度」とは、自分が認知症になる前に、自分が認知症になってしまった場合のことを考えて事前予約しておくための制度なのです。
事前予約ですから、もし仮に自分が最後まで認知症にならなければ、例え「任意後見契約」を行っていたとしても、その契約は効力を生じず、最後まで自分の財産管理や介護など自分に関することは自分の判断で決定することができます。
このため、「任意後見契約」は、将来の老いの不安に備えた「老い支度」・「老後の安心設計」であるともいわれています。
●「任意後見契約」の交わし方
では、実際の「任意後見契約」はどのようなものなのでしょうか。
まず、「任意後見契約」は任意の契約書ですから、法律の趣旨に反しない限り、当事者双方の合意により、自由にその内容を決めることができます。ただし、身の回りの世話といった実際の介護のような事実行為は含まれないものとされています。
また、判断能力が衰えたときのためだけではなく、判断能力はあるけれども寝たきりなどで体が不自由になったときのために備え、「任意後見契約」と「財産管理等委任契約」を併せて締結することもできます。
任意後見人には、原則として誰でもなることができます(未成年者や破産者などを除く)。自分が信頼できる相手と、後見契約の内容をじっくりと話し合い、お互いに同意の上で契約を交わすことになります。また、任意後見人は法人でもなれますし、複数の任意後見人を指定することもできます。財産管理はNPO法人等に依頼し、福祉サービス利用に関する諸手続のような身上監護はパートナーや社会福祉士にお願いするといった職務内容ごとの契約も可能です。
そして、「任意後見契約」は、公証役場で公正証書による任意後見契約書を作成してもらい、当事者同士が公証役場で締結しなければならないことが法律で定められています。このため、「任意後見契約」を行なうには、公証役場等への手数料(1万5千円~2万円程度)が必要になります。多少のお金は掛かりますが、公的機関が関与してくれることは、大きな安心と保証になるかと思います。
●いつから任意後見がスタートするの?
上で説明しましたように、「任意後見契約」はあくまでも認知症等でボケてしまった場合に備えるための事前予約ですので、判断能力が衰えない限り、任意後見はスタートしません。
任意後見が開始されるには、任意後見の受任者や親族等が、本人の同意を得て、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申立てる必要があります。この「任意後見監督人」とは、「任意後見人」の仕事を監督し、その仕事を家庭裁判所に報告する役割を行なう人です。ちなみに「法定後見制度」では「任意後見監督人」は選任されません。(家庭裁判所が「必要があると認めるとき」は、「法定後見制度」でも「成年後見監督人」をつけることは可能です)
家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任した後、任意後見受任者が「任意後見人」となり「任意後見契約」に定めた仕事を開始することになります。
このため、誰かが<本人>の判断能力の低下に気付かないと、せっかく「任意後見契約」を交わしていても任意後見が開始されないことにもなりかねませんので、おひとりさまなどの場合は、別途「見守り契約」のようなものも考えておく必要があります。
また、任意後見が開始されると、<本人>の財産から「任意後見人」と「任意後見監督人」に報酬が払われることになります。「任意後見人」への報酬は「任意後見契約」の内容によることになりますが、第三者に後見を依頼した場合は支払われるのが一般的です。「任意後見監督人」への報酬額は家庭裁判所の判断で決定されます。いずれの報酬額も通常月額2~3万円程度となっているようです。
●事前によく話し合い、認知症になった後もいろいろな人に助けを求めてください。そのための制度です。
今回は「任意後見制度」の概要をご説明いたしました。おひとりおひとりの立場やご状況がそれぞれに異なるため、このコラムでは一般的な概要しかお話することができなくて申し訳ございません。まずは、このような制度があるよ、ということを簡単にでも心の片隅に留めておいていただければ幸いです。
特にこのコラムの対象者である事実婚・非婚(同性パートナーを含む)・おひとりさまといったマイノリティの方々においては、「任意後見制度」は、ご自身やパートナーが尊厳のある老後を送るための大きな武器になるのではないかと思います。
また、法律婚をされている方々も、お子様やお孫さんといった親族がいらっしゃる方々も、まずは自分の老後について考え、どのような老後を送りたいかを配偶者や親族と話し合っておくことが、ご自身や周りの親族安心につながるのではないでしょうか。
昨今、認知症の親や祖父母、配偶者などを介護している方が、ひとりきりの介護に追い詰められ、介護している相手につい暴力を振るってしまった・相手を殺してしまったといった悲しい事件が後を絶ちません。これも、例えば「後見制度」についての知識を普段からお互いによく話し合い、「身近な人が認知症になってしまっても、ひとりで抱えず、いろいろな人に助けを求めていいんだ」ということを知っておけば、それだけでも介護する側にとっての負担が軽くなり、介護される側も介護させる罪悪感を感じず、尊厳のある老後を送ることができ、このような痛ましい事件を少しでも防ぐことができるのではないかと考えます。
なお、NPO法人や社会福祉協議会、弁護士、司法書士、行政書士などが後見業務を行っています。どのような契約書を作成するのがいいのかを相談したり、親族ではない第三者に後見人を依頼したりといった具体的な支援も受けることができますので、親身になってくれる相談先を見つけてください。
ちなみに、行政書士会連合会では「一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター」という組織を作って運営しています。これは、成年後見に関する十分な知識・経験を有する行政書士によって組織されている一般社団法人です。成年後見についてのお電話や面談での無料相談も行っておりますので、お気軽にご活用していただければと思います。
■一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター
http://www.cosmos-sc.or.jp/
次回は、「大切なモノを守るには」総集編として、「遺言書」「成年後見制度」「財産管理等委託契約書」についてのまとめを行う予定です。
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【文】
金田行政書士事務所
行政書士 金田 忍(かねだ しのぶ)
http://www.gyosyo.info/
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