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発達障害を受け入れることは、「何もかもを受け入れる」こと? 秋月ななみ

2013.12.18 Wed

       発達障害かもしれない子どもと育つということ。14

前回は、『自閉っ子のための道徳入門』(社会の中で生きる子どもを育む会編、花風社)の紹介をするという話だけで終ってしまっていた。今回は内容に入ろうと思う。

冒頭の「優まま」さんの章は、共感を持って何度も読んだ。自分の発達障害の息子のことを、「このままでは犯罪者になってしまうと思ったこともあった」けれど、「書けませんでした」。「でも本当は心の底でずっとそれを考えていて、大きな声で言いたかったけど、聞いたらみんな『引く』だろうなと思って。どこにも書けなかったんですけど、あそこ(ブログのコメント欄)に初めて書きました」という優ままさんである。

発達障害の子どもと犯罪について、保護者は内心、心配することがあっても、言うことができないという圧力は確かに存在している。「うちの子は嘘ばかりついて平気なの。将来、犯罪起さないかどうか心配」。「うちの子はすぐにカッとなってお友達に暴力をふるうの。将来、事件を起こして刑務所に行ったりしないかしら?」というような話は、親の間で、または家族の間で、冗談めかして、時に深刻に話し合われることがある。しかし子どもが発達障害児となると途端に、そういうことを考えたとしても、口にすることもできなくなってしまう(発達障害の特性の一つに、カッとなったら抑制が効かないとか、追い詰められると嘘をついて平気とか、そういうことは確かにあるというのに)。

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.この本のベースには、発達障害児の支援の流派の一つ、「何もかもを受け入れる」「ありのままでいい」という形で「セルフエスティームを高める」というやり方への批判が歴然と横たわっている。この本の編集者は以前、診断を受けた発達障害者にネット上での事実無根の誹謗中傷をされ、民事と刑事で裁判を起こしたという経緯がある。その際に、一般的には非常識なことであっても、自閉症者に対しては「仕方ないのだから」という特別扱いを要求し、自閉症者が起こした犯罪を報道しないことを求める、支援者たちの態度に疑問を感じたのだ(裁判では、民事も刑事も加害者が有罪となった)。

この「ありのままでいい」流派に対する疑問は、私も共有している。実際に、発達障害である夫の問題行動を相談にいって、腰を抜かすほど驚いたからだ。多発する家庭内の問題行動について、「発達障害の人は変われないんです。受け入れてあげるしかないんです。全部の要求を呑んであげなさい」と言われたのである。そして「流石にこの部分は、弁護士さんに相談したらどうでしょうか?」(一般に法は「民事不介入」なので、無理だと思います)。「受け入れてあげられないんだったら、離婚するしかないですね」と脅すように言われる。「まさに離婚したいんですが、夫が離婚に同意しないし、発達障害が離婚原因としては認められないから困り切っているんです。このまま全て夫の暴言や奇妙なこだわりを受け入れて、我慢しろということですか?」。沈黙。

しかも「弁護士に相談しろ」というところにまで問題は行きついているのに、「よくもまぁ、お母さんは彼のすべてを受け入れて育ててあげましたね。こんな人は滅多にいないですよ」と感心したように言ったのにも呆然とした。その結果が度重なる離婚だということが、わからないのだろうか?(別に離婚が悪いとは言わないが、我慢したであろう前妻にもエールを送りたい気持ちだ)。この機関の理想の発達障害者像が、「ありのまま」に他人を傷つけながら自由に生きる夫の姿だとしたら、何を相談しても無駄だと思った。

また後日、同じ機関に所属する人の講演を聞きに行ったときにも、やはり驚いた。「学校現場では発達障害児の気持ちに寄り添い、どんな暴言でもすべて受け入れて聞いてあげなさい」と言っていたのである。教室で、何十分も「皆が嫌いだ」「先生が嫌いだ」と悪態をつき続ける子どもを野放しにして、皆で傾聴しながら付き合う図を想像して(実際にそのエピソードを、肯定的に話されていた)、私だったら自分の子どもをそんな暴力的な空間に絶対に置いておきたくない、他の保護者だって同じ思いだろうと思った。

当時、私自身が教室で頭を悩ませていたのは、自分自身のこだわりで授業中に違う意見に対して攻撃的に癇癪を起こす男子生徒であり、他の生徒が怯えきっていることだった。女子生徒からは直接、苦情も受けた。恥じ入るべきことで気が付かなかったが、物を投げつけたこともあったそうである。私は男子生徒に発達障害の疑いを持っていたが、もしもそうだとしたら「全てを受け入れてあげなきゃいけない」ということになるのだろうか。冗談じゃないとしか言えない。

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シリーズ「発達障害かもしれない子どもと育つということ。」は、毎月15日にアップ予定です。

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タグ:子育て・教育 / 発達障害 / 秋月ななみ