エッセイ

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<女たちの韓流・51>「結婚してください」~自分を愛することの大切さ~ 山下英愛

2014.04.05 Sat

イメージ 1 韓国では2008年6月に離婚熟慮制度が導入された。離婚届を出してから一定期間をおいてからでないと離婚が受理されないという制度である。カッとなった勢いで離婚するのを防ぐという目的だそうだ。この法を政府が導入しようとした背景には2000年代初めの離婚の急増と出生率の低下があった。しかし、夫の暴力(DV)問題に長年取り組んできた女性運動団体は、何十年もかかってようやく離婚した中高年女性たちの経験から、「簡単に離婚しているわけではない」と強く反発した。運動の結果、制度の導入を阻止することはできなかったが、熟慮期間を6か月から3か月に(子どもがいない場合は1か月)、有料のカウンセリングを無料にするなど、内容を大幅に変更させることに成功した。

 ドラマ「結婚してください」(全56話KBS,2010)を見てみようと思ったのは、そんな離婚熟慮制度がこのドラマに登場するとの記事を読んだから。でも、特に熟慮制について描いているわけではなかった。それよりも、ドラマ自体が面白く、最後まで目が離せなかった。内容的には、2008年に放映された「母さんに角がはえた」と若干似ている。どちらも女性主人公が家を出る、という展開になるからだ。「母さん…」の方は、60代の女性が長年の専業主婦の暮らしから解放されたくて一年間の休暇を宣言して出ていくが、こちらは長男の妻である主人公が、夫との葛藤をきっかけに家を出る。“〇〇の妻”から脱して自分探しをする女性の物語である。

夫の変化

 イメージ 2主人公ジョンイムは婚家に暮らす長男の嫁。夫のテホとは恋愛結婚した。大学で非常勤講師として働く夫は、海外留学組ではないため、なかなか専任になれない。ジョンイムは家事のかたわらパート労働もして、そんな夫を支えてきた。その甲斐あって、夫がようやく専任に。その上、テレビ番組にも出演するようになって一躍人気教授となる。これでジョンイムの苦労も終わりと思った矢先に、テホの態度が変わりはじめる…。

イメージ 3 専任になって活躍するようになったテホは、テレビ番組の仕事でアナウンサーのソヨンと出会った。ソヨンは自分が勤める大学の学科長の娘で、同じ大学の出身。苦労を知らずに育ったせいか、ジョンイムにはない伸びやかさがある。その上、美貌と知性を兼ね備えたシングルだ。そんなソヨンが自分のことを「オッパ」(“お兄さん”の意味だが、若い女性が親しい間柄の年上の男性を呼ぶときにも使う)といって慕ってくれるのだから、テホもすっかり浮かれてしまう。一方のソヨンも、テホが理想の男性に思え、既婚であることなど構わず、積極的にテホにアプローチする。こうして二人は公私の別なく親しい関係を築いてゆく。

自信のない妻

 ジョンイムは、テホとソヨンがひんぱんに会っていることを知るようになる。ある日、ジョンイムがテホの研究室をたずねると、テホはとっさにソヨンを机の下に隠そうとした。ジョンイムはそんなテホの態度にショックを受ける。テホとソヨンの関係は一線を越えるものではなかったが、ジョンイムにとってそれはさほど重要ではなかった。テホの気持ちがソヨンに向かっていることを知るだけでひどく打ちのめされてしまったのだ。

イメージ 4 テホはジョンイムに責められると、開き直ってきつい言葉を投げつけた。その点はぶっきらぼうで独善的な父親にそっくりだ。父親も妻や子どもたちに対して頑固で自分勝手な家長として振る舞ってきた。ジョンイムはテホとソヨンのことで悩んだ挙句、家を出る。テホに振り回されることなく、一人になって自分らしい生活をしてみたいと思ったのだ。周りで誰が何と言おうと、私はナム・ジョンイムだ、と堂々といえる自信をもちたかったのである。自分を愛することができるようになることが、どんなに難しく大切なことかが伝わってくる。家を出てからのジョンイムにはそれなりに波乱万丈な人生が展開する。それについては、観てのお楽しみにとっておこう。

脚本家チョン・ユギョン

このドラマの面白いところは、こうした登場人物たちの行動や言葉のやりとりが、過剰ではなくリアリティがあるところだ。極端な悪人も、理想的過ぎる善人もいない。誰もが実際にいそうなキャラクターである。ジョンイムとテホ以外に、三組(両親と弟、妹)のカップルのストーリーもあって、それぞれがまた面白い。韓国ではどんどん人気が出て、最終回は35%の最高視聴率を記録した。

 イメージ 5ドラマの脚本を書いたチョン・ユギョンは1968年生まれ。1990年代半ばに「リンゴの花の香り」(MBC1996)でデビューした。代表作には、ハ・ジウォン、キム・ハヌル主演の「秘密」(MBC2000)、キム・ヒョンジュ主演の「インスンはきれいだ」(KBS2007)などがある。また、昨年話題となった「最高だ、イ・スンシン」(KBS2013)も彼女の作品。数年前のインタビュー記事で「基本的にドラマは文学の一ジャンルだと思う」と語っている。

 ドラマ批評家のシン・ジュジンによれば(『29人のドラマ作家を語る』図書出版ミム、2009[韓国語])、チョン・ユギョンは叙情性と純粋さを追求する作家。彼女の作品に登場する女性主人公は「ひときわ明るく、優しく、まじめ」なキャラクターの持ち主であることが多い。だからといって典型的なキャンディーや、母性が強調されるキャラクターでもないという。確かに、このドラマのジョンイムも、「最高だ、イ・スンシン」の主人公にもその特徴は当てはまる。もう一つ指摘しているのが作品の中の二つの世界/価値観の対比(生と死、庶民と財閥、過去と現在、田舎と都市、真実と嘘などなど)である。互いに異なる二つの世界(現代社会の反映)の葛藤を通して、真実なるもの、人間としての暖かさなどを追求するのがチョン・ユギョンドラマの特徴なのだ。

俳優キム・ジヨン

 ジョンイム役を演じたキム・ジヨン(1974~)は、平凡で地味なイメージのある俳優で、今時の韓国ではめずらしい存在かもしれない。このドラマの中では、涙を流すシーンが多く、憂いのある表情をしていた。それが演技としてではなく、本当に泣いているように見えたのが印象に残っている。このドラマが終わった後、あるトーク番組で彼女が語った子ども時代の話を聞いて、実生活でもたくさんの涙を流してきたことを知った。キム・ジヨンは出生の時から難病を患い、大人になるまで8度にわたる大手術を受けたのだ。そのために母親もとても苦労したという。

イメージ 6 大学生だった1993年にミュージカルの“キャッツ”を観て感銘を受け、演技者の道を志した。もともと人見知りをする恥ずかしがり屋の性格だったそうである。翌年、オーディションを受けて演劇の舞台に立ち、95年、KBSの短編ドラマに出演するチャンスをつかんだ。同じ年にMBCの「田園日記」という長寿ドラマに“ポッキリ(福ちゃん)”役で出演。その後6年間、このポッキリ役でお茶の間の人気者となった。その後、「田園日記」で共演したナム・ソンジンと結婚。夫の両親も有名な俳優である(母親は「美しき人生」でおばあさん役を演じたキム・ヨンリム)。キム・ジヨンはこの4月に始まるMBCの朝ドラ、「みんなでキムチ」で、キムチで成功する主人公を演じるという。

 最後に、「結婚してください」と「最高だ、イ・スンシン」の共通点をもう一つ。それは、主人公に歌唱力の優れた俳優が起用されていること。キム・ジヨンはドラマの中で歌手になるほど歌がうまい。夫役のテホを演じたイ・ジョンヒョク(1974~)もミュージカル俳優出身で、ずば抜けた歌唱力の持ち主だ。一方、「最高だ、イ・スンシン」の主役を演じたアイユー(1993~)は、今や若手の人気ナンバーワン歌手。「ドリームハイ」(2011)がドラマの初出演だったとか。そしてアイユーの相手役を演じたチョ・ジョンソク(1980~)も韓国のミュージカル界のスターである。小声でしか言えないけれど、私も“来世では歌手になりたいな”、なんて思ってしまった。

写真出典

http://www.danbinews.com/news/articleView.html?idxno=462

http://blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=zakintop1&logNo=120111488242

http://dongnae.tistory.com/827

http://www.mbcac.com/jsp/style/hr/Do.jsp?menuId=1020&pageNo=4

http://news.sportsseoul.com/read/entertain/1319293.htm

カテゴリー:女たちの韓流

タグ:韓流 / 結婚 / 山下英愛