2014.10.23 Thu
『馬々と人間たち』 (OF HORSES AND MEN)
ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の女性たちが、旬の映画を語るウェブ座談会。第2回となる今回とりあげるのは、アイスランドの新作映画、『馬々と人間たち』。ふだんはなかなかお目にかかることのないアイスランドの大地、海、そこで展開する馬と人間との壮大なドラマとは……? WANの映画欄、「映画を語る」や「DVD紹介」も好評の川口恵子さん、松口かおりさんのお二人の対談が実現しました!
参加者:C-WANコーディネーター 川口 恵子、C-WANメンバー 松口 かおり
川口 春から秋にかけてのアイスランドが舞台の映画ですね。映画の最北ってどこか知らないけれど、およそこれまで見た映画の中でいちばん寒そうな場所の話でした。
松口 そうですね、良いお天気なら美しく雄大な景色ですが、ひとたび天候が悪くなり雪になると寒そうでしたねぇ。
舞台はアイスランド
松口 この映画はアイスランド馬・牧畜農家のお話。夏に馬を放牧しておいて、秋のはじめに村中の人達みんなで放牧されていた馬を集めるんですね。
川口 あ、そうだったんですね。春から秋へと、馬と村の人たちの関わりが描かれて、いろんな単発のエピソードが連なっている映画だなとは思いましたが、それで映画の縦ラインが見えてきた気がします。最後のエピソードの祝祭的な雰囲気もそれでよくわかりました。秋祭りみたいなものだったんですね!
監督がいってますが、「馬の瞳」が、各エピソードにリズムをつけるために大切だったそうですね。馬を三本足で立たせると馬が動かなくなるらしくて、馬をじっとさせて撮影したとか。馬の瞳をとることが、「馬の魂に入っていく」方法だといってました(プレス資料参照)。馬の魂から、何が見えてきたのか、気になるところです。でもそこから先をあまり難しく表現しないのが、この映画のいいところですね。
松口 アイスランドで撮影された映画といえば、ハリウッド映画『LIFE!』(2013)を見ましたよ。コメディですが、雄大な景色と火山の噴火が印象に残っています。
川口 映画ってやっぱり見たことのない風景を見せてくれるって喜びがありますよね。異国体験っていうか。今はいろんなイメージがあふれてるし、どこでも行った気になっているけど、この映画で見るアイスランドの風景は、春なのに、すっきりした透明な空気感があって、緑がきれいです。
販売元:ブロードウェイ( )
定価:¥ 4,104 ( 中古価格 ¥ 9,800 より )
時間:85 分
1 枚組 ( DVD )
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製作のフリズリク・ソール・フリズリクソンは、『春にして君を想う』(1991)の監督さんなんですね。故郷を目指し老人ホームを脱した男女が旅をするっていう……こちらも見たくなりました。永瀬正敏主演『コールド・フィーバー』(1995)の監督でもあります。両親が現地で事故で亡くなったのをきっかけに供養のためにアイスランドを旅する話のようです。『馬々と人間たち』にも、死が身近に描かれていますよね。
松口 『春にして君を想う』も『コールド・フィーバー』も、見てみたいです~。こんな風に見たい映画が増えていくのは、楽しいですね!
川口 北欧映画というと70年代はスウェーデンのベルイマン映画とか内奥へ突き進むものが多かった気がしますが、フィンランドのカウリスマキ兄弟映画からほのぼのしたユーモアがにじむ映画が出てきた気がします。この作品も死や性や描かれつつも、基本、ほのぼの系ですよね。
かおりさんはどのエピソードが一番好きでしたか?
松口 私の好きなエピソードは「ウォッカ求めてロシア船に近づく場面」! 馬があんなに上手に泳げるなんて、私、知りませんでした。それにロシアのトロール船の航海士は本当に馬が好きみたいでしたね。東洋系の顔だったから騎馬民族の出身かも。彼の表情が馬への愛情に満ちていてすごく良かったです。アイスランド馬好きはいろんな国にいるよ、って監督は表現したかったのかな? 川口さんはどのエピソードがお好きでしたか?
川口 私もかおりさんと同じく「ウォッカ求めて」ってやつです。かわいくも愚かな男たちよって感じで、監督の共感も出ているような。ある種、昔のロシア文学や、骨太なロシア映画にも脇役ででてきたような飲んだくれの男たちの系譜ですよね。
松口 なるほど、「飲んだくれの男たちの系譜」ですね、確かに。だから女性たちはしっかり者でたくましくなるのかもしれませんね。
川口 最後には馬に乗りながら皆で気持ちよさそうに水筒に入れたようなお酒を回し飲みしてましたね。あれ、ウォッカだったのかなあ? 美味しそうでした。やっぱり寒い場所には欠かせないんでしょうね。雄大な自然に馬とお酒がよく似合ってました。だからって、飲んだくれの男どものだらしなさを、私が許しているわけじゃないですけどね(笑)。そんな男たちには、映画の中でも、非情な最後が待ってますよォ!
手綱をとる女性たち
松口 アイスランドといえば、2013年世界男女平等度指数第1位なんですね! ちなみに日本は105位……。
川口 1位ってすごいけど、何が基準になってるんでしたっけ? 政治家や会社の役員や大学教員とか、いわゆるエスタブリッシュメントにどれくらい女性が進出しているかをもってするんでしたっけ? やっぱり自然が厳しいと、生のパワーがもともと備わった女のほうが自然に強くなるのかなあ。この映画の中では、わりに普通に女性が主導権もってますよね。馬のトレーナー志望のスウェーデン娘が出てきたり。彼女の乗馬シーンがかっこよかった。
松口 そうそう、この映画の中では結構、女性が主導権持ってますよね! 川口さんもそう感じられましたか? そして男たちはなんだかいつもお酒飲んでるような……。
川口 男は酒、女が「たずな」にぎってる(笑)。
松口 そうそう、女が「たずな」にぎってる~。未亡人たちの実際の馬さばきもすばらしかったですよね! 馬のトレーナー志望のスウェーデン娘の問題解決方法も見事でした! 男たちは、「逃げた馬はほっとけーどうせ秋には帰ってくるからー」などとお気楽なことをいっていましたけど……。
川口 最初のエピソードで、本当は好きなのに妙にかっこつけて未亡人とのティータイムでお茶を濁してる煮え切らない男にも(もちろんそれが普通で、逸脱はおかしいわけですが)、最後に未亡人がすごいアプローチをしますよね。主導権、男性は握られっぱなし。でも最後に、二人とも、とてもいい表情でした。馬に囲まれて……自然を忘れるなってメッセージなのかなあ……(言葉にだすとダサイですが)
松口 男はそういうとこ、結構デリケートですからねぇ。最後のアプローチの場面、「馬の瞳」はどう感じたでしょうかねぇ。「おんなじことしただけなのにずるいよー」だったかも……(笑)。最後のアプローチの場面で、未亡人が「ブラウンの手綱を離さないで」って言っていましたが、ブラウンというのは例の問題を起こした雄馬で、後日きつーいおしおきをされた馬でしたからねぇ。
川口 あ、そうなんですね! 今やっと台詞の意味がわかりました!「ブラウン」って誰? って思ってたので(笑)。確かにあの場面で馬まで自然の摂理に従っちゃったら、絵的にすごいことになりすぎる! 撮影もムリだったでしょうが……。
松口 映画パンフレットに「人馬相関図」というのがあって、笑っちゃいました! これを見るとよくわかりますよ~。
川口 「人馬相関図」!(笑)。人も馬も、同じ空間に生きてるんですものね~。やっぱりこれ、一種のエコロジー映画ですよ。そう書くと軽くなっちゃいますが。観光客の扱いってところにそれを感じました。
〈エコロジー映画〉として
川口 エコといえば、この映画が描く「馬と人間」の関係、どうとらえましたか?
松口 自然の摂理に従って同じことをしても、タイミングが悪ければ人間の誇り・世間体を保つために馬は罰せられる。天候の悪化などで生死がかかわる場面では、馬は人間のために命をも差し出す……人間と馬は良きパートナーなんですが、どちらかというと人間の方が、馬の無私で大きな愛に包容されているように感じました。
川口 私自身は、すごく大きな視点から描いている映画だなあという感じでうけとめました。「自然対人間」という感じで描くのではなくて、大きな手つかずの、素晴らしい、でも、厳しい自然があって、その中に馬と共に生きる人間たちがいる……ってところが素敵だなあと。
松口 そうですね! 人間も馬も自然の中の一部なのですよね。
川口 その中に、ちょっと異色な存在として、英語を話す、乗馬観光の、ちょっと見た目には軽薄な外国人の若い男性(フアン・カミーリョ)が出てくる……。彼がのんきに乗馬観光をしながら、ふとしたことで皆から遅れ始めると、しばらくしてだんだん風が強くなり、瞬く間に吹雪に巻き込まれて、大自然の厳しさに直面する展開がありますね。 教訓的でもあるのに、どこかユーモラスで、それでいて、次第に、すさまじい展開になるところが、この映画のすごいところだと思いました。彼は「人生と自然を愛し、アイスランドの高原で神を探していた」(プレス資料)のだとか。ベルイマン監督も、この映画を見たらよかったのです!(笑)。
川口 ところで、松口さんは乗馬をされるとか?
松口 旅先で乗馬体験をする程度ですよ。この映画を見て、オーストラリアのケアンズ郊外で牧場の乗馬体験ツアーに参加したことを思い出しました。参加していた観光客の人数も、この映画くらいだったように記憶しています。オーストラリアもおおらかなお国柄なので、初心者OKのツアーなのに、簡単な馬の操縦法(歩きだす、止まる、スピードをおそくする・はやくする、など)を口頭で説明しただけで、いきなり勾配のある林間コース、しかも、けもの道みたいなトレイルに連れて行かれてビックリしたことがあります。日本の初心者乗馬体験コースではありえないかんじです。だけど、心配は無用でした。なぜなら馬の方が利口で一枚上手! トレイルの道順もちゃんと覚えており、ほとんど、私の操縦なしに歩いていたように思います。スキあらばトレイル脇の草を食べようとしていたくらいで……もちろん、列の先頭と最後尾には牧場の方が馬に乗っていらしたし、牧羊犬もついてきていて、けもの道のような細いトレイルでも馬の足をくぐりぬけて先頭と最後尾を行ったり来たりして、先頭と最後尾の連絡役を果たしていました。だから、この映画のようにツアー参加者が取り残される、ということは実際にはありえないことなのでしょう。が、不運が重なってそれが起こってしまったフアンの心細さは半端なかっただろうな~と、自分の身に置き換えてかなり感情移入して見てしまいました。
川口 ああ、そうだったのですね。それにしても、神を求めていた彼(フアン)が、結果的に、猛吹雪の中で生き延びるためにとった決断というのはすごいものでしたね。監督によれば、アイスランドでは昔からされていた方法だそうです(プレス資料)。究極のエコツーリズム、かもしれません。 あれで神を見たはず……なのに、秋の皆が集まる祭りのような場面では、馬をのりこなすかっこいいスウェーデン女性を見つけて、顔をほころばせて駆け寄っていたのが、印象的でした(笑)。あきらかに、とぼけたバカ男風なのに、彼女もまんざらではなさそうで・・・自然の中で男と女が共に生きることについて、ほっこり、考えさせられる映画でもありました。私たちも大切な何かを忘れているのかもしれません(笑)。 アイスランドにもいつか行ってみたいですね!
参加者紹介:
川口 恵子 暮らしの中で映画と関わることが好き。 映画研究・批評もしてます。 この映画を見て、昔、秋になると近くの大学祭で子どもたちに乗馬体験をさせてたことを思い出しました。 C-WANコーディネーター。
松口 かおり 映画は良い気分転換。馬が走る姿が好き。旅先で乗馬体験ツアーがあれば参加したいタイプです。C-WANメンバー。
構成: 宮本 明子
関連記事: 新作映画紹介 『馬々と人間たち』 は こちら
『馬々と人間たち』 公式サイトはこちら
第1回ウェブ座談会はこちら
11月1日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
(C)Hrossabrestur2013
カテゴリー:新作映画評・エッセイ / 特集・シリーズ
タグ:セクシュアリティ / くらし・生活 / 映画 / 川口恵子 / アイスランド映画 / 松口かおり / 女と映画 / ベネディクト・エルリングソン
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