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映画の中の女たち(9)つながる女 『滝を見にいく』/7人のおばちゃん 仁生 碧

2014.11.10 Mon

☆このコーナーでは、登場人物の女性像に焦点を合わせて新作映画をご紹介します。

今回のテーマは「つながる女」、すなわち「連帯する女たち」です。まるでWANの標語のようですが、この映画は女性運動ともフェミニズムとも関係ありません。主役は、ごく普通の中高年女性たち。ストーリーも、取り立ててすごい出来事が起こるわけではなく、彼女たちが普通の国内旅行に出かけ、その先でたまたまちょっとした事件に遭遇するという、日常の延長線上的な話です。

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主人公である40代〜70代の女性7人は、ハイキングと温泉宿泊がメインの添乗員付きバス旅行に乗り合わせたことで出会います。もともと友人・知人同士という人たちも、中にはいます。職業は、主婦が中心。本来、“おばちゃん”という言葉を使うのは抵抗があるところですが、どうしてもそう表現してしまいたくなるようなキャラクターの人々です。この映画の何がすごいと言っても、この主役の女性たちの“普通のおばちゃん”っぷりです。見かけもファッションもしゃべり方も行動も、さらには設定されている彼女たちの境遇も、あまりにも本当にそのへんにいそうな素のおばちゃんたちなので、映画の中の話とは思えないほどリアルな雰囲気で、最初からぐんぐん引き込まれてしまいます。

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この女性たち、7人という少人数であっても、また、たった1日か2日の小旅行の道中でも、その中で派閥(?)もできれば、嗜好や性格の違いからちょっとした対立も起こります。最初からなんとなく、仲のいい人、悪い人のグループができている感じです。でも、単に小旅行で一緒になっただけの人々なので、そんなちょっとした違和感は大人らしくやり過ごし、大きな問題になることもありません――不慣れな男性添乗員のひどい道案内ぶりのせいで、山の中で全員で道に迷ってしまうまでは……。

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 さて、ここから、この7人のおばちゃんたちのプチ冒険が始まります。それほど本格的な山でもなく、差し迫った危険がありそうでもありませんが、7人にとって、この事態は大事件。どうしたら元の場所に戻れるか、わあわあ言い合いながら、知恵を絞ります。その過程で、幾つかの意見の対立も鮮明になります。ですが、見ていて気持ちがいいのは、この女性たちが、さんざん怒鳴り合い、つかみ合いになっても、結局はそれをいとも簡単に乗り越え、「山を下りて帰る」という目的のために、見る見るうちにまとまっていくことです。

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しかも、中高年女性ならではの、いざとなると肝が座る落ち着きっぷりと、大胆に人の懐に飛び込んでいけるメンタリティーが、その「連帯」を形作るのに非常に役に立っています。もちろん、ここでは「全員が共有する難題」があることがインセンティブになっていますが、人は(女は?)年を取っても、どれほど違いがあっても連帯できるんだな〜ということを感じさせてくれる、心弾む作品です。

ちなみに、この7人は、全員オーディションで選ばれ、演技はまったくの素人という人が大半だそうです。「うんうん、こんな人、私の周りにもいるよ」と思いながら観れば、いっそう楽しめること請け合いの、秋の行楽の季節にぴったりの映画です。

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 Story
温泉泊まりで、ハイキングがてら滝を見に行くアクティビティがメインのバス旅行に参加した、7人の中高年女性たち。友人同士もいれば、一人参加の人もいるが、皆、なごやかに過ごしている。だが、滝に向かって全員で山歩きを始めてしばらくすると、案内役の男性添乗員が道に迷ってしまった様子。彼はその場で待つように皆に言い残して偵察に出かけたきり、帰ってこない。最初はのんびり構えていた7人だが、時間が経つにつれて不安が増し、自分たちでこの状況の打開策を考え始めるが――。演技初経験者の一般女性たちのキャスティングが他にない味わいを醸し出している、小品ながら魅力的な作品。

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『滝を見にいく』
キャスト:根岸遥子
     安澤千草
     荻野百合子
     桐原三枝
     川田久美子
     徳納敬子
     渡辺道子
     黒田大輔
監督:沖田修一
制作・配給:松竹ブロードキャスティング、ピクニック、パレード、キングレコード
2014年/日本/カラー/日本語/88分
2014年11月22日より、新宿武蔵野館ほかにて 全国順次ロードショー

公式HPはこちら

© 2014「滝を見にいく」製作委員会

カテゴリー:新作映画評・エッセイ / 特集・シリーズ / 映画の中の女たち

タグ:セクシュアリティ / 映画 / 映画の中の女たち / 仁生碧 / 女と映画 / 邦画 / 映画祭受賞作