2015.08.15 Sat
発達障害かも知れない子どもと育つということ。32
今回、私は怒っている(いつもと言われれば、そうかもしれないが)。私が状況的に叱れない状況であると察した娘が、大暴れしたのだ。しかも予定が狂い、多方面に大迷惑を掛けることになった。その場から離れて、当然私は、娘を叱りつけた。即座に言わないとわからない。しかも一般的にいいことかどうかは確かに微妙であるが、娘を矯正するには、「叱りつける」しか効果がないときがある。優しく「あなたの気持ちはこうだったんだねぇ。でも今の状況はこうなんだよ」と言ってあげられる余裕があるときもあるが、明らかに娘は私が叱ることのできない状況であるということを見抜いて調子に乗っていたし、「どんなときでも親の言うことは絶対」という原則はまだ崩せない。叱りつけてでも今のうちに矯正しておいたほうがいい。絶対に娘の将来のためだ。他人はどう思っても、私なりに信念がある。「いい加減にしなさい!」と叱りつけたのである。
そうすると通りすがりの中年男性が、にやにやと「あぁ、虐待じゃーん」と私に言って来たのである。もともと冷静ではなかったかもしれないが、本当にカッとなった。
本当に虐待を防ぎたいのであったら、にやにやとそんなことは言ってこないはずである。何よりも熱くなっている親の火に油を注いでどうする。本当は子どもの立場になんて立っていないくせに、偉そうになんだかひとこと言ってやろうという他人事といった調子に、脱力感を禁じえなかった。経験上、イライラとしているお母さんに、「ああいうヒステリーばばあは嫌だなぁ」という冷たい視線を送るのは、明らかに男性が多いように思う。お母さんはいつでも優しいはずという母性神話が崩壊して、気に障るのだろう。あとは若い未婚の女性。とくにカップルでいるとき(笑)。「私はあんなばばあと違うもん。いやねぇ」とばかりに男性の顔をみる。
子育てを経験していたら(たとえ本人が産んでいなくても身近にいれば)、子どもをたくさん抱えて、どうしようもなくなって子どもを叱りつけるお母さんの気持ちは痛いほどよくわかる。「ああ、大変なんだなぁ」と思うものだ。現に子育て経験者のおばあさんは、「大変だねぇ」とお母さんを労わる声を掛けていることがある。
そういう風潮に日頃から苛立っているのもあって、今回ばかりは言い返した。「あなたも子どもを持ったら、わかりますよ!」。そうしたら、男性は得意げに「自分にも中学生の子がいますけどねっ!」と言い返してきたのである。私も負けてなかった。「じゃあ、あなたは子育てを実際に担当してこなかったんでしょう。自分では!」。こんな男性は、妻が苛立っていたとしても、「ママはヒステリーだなぁ。放っておけ」とか子どもに言ったりするんだろうと、容易に想像がついた。男性はハッとしたような顔をして、黙った。ばつが悪そうだった。本当に私が言ったように子育てなんてしてなかったんだろうと思って、ザマアミロ、と思った。
ひとりでいっぱいいっぱいになって、発達に困難を抱えている子どもを育てているわたしの気持ちなんてわかるものか。これがまた外から見て特徴的な障害をもつ子どもを叱っていたら、今度は憐れみの眼で見て、何も言わずに通り過ぎるんだろうと思った。そういう子と一緒に外出するときには、同情の視線は感じるが、非難の視線は思ったよりも、というか、ほとんど感じない。おそらく重度の自閉症の子どもと一緒にいる親にも、非難の眼差しは向けないだろう(「同情の眼差し」自体にも、もちろん考えさせられるものはある)。ただうちの子どものように、テストを受けても本当にすれすれ、医者によっては診断をつけるだろうし、数値を尊重してつけない、という医者もいるだろう、という子どもをもっていると、叱っても叱らなくても、結局「親の躾のせい」にされる。そこまで数値が「改善」したのは、療育の効果だと思いたいのだが(以前にテストを受けたときには項目間の落差が最大で30近くもあったのが、20も改善したのだから。ただ素人の私から見ても「典型的な自閉症スペクトラム」に見え、落差が40あった子に、診断が「厳しい」という評判の医師は「発達障害ではない」という診断をつけていたから、診断はさじ加減でどうにでもなるのだなぁと思う。障害枠を利用するために慌てて診断をつけてもらうことも、よくあることだ)、なんだかもう本当にやりきれない。
しかし昔のマンガをみていると、お母さんは叱ってばかりいる怪獣ママゴンとして描かれている。あの姿はいつ消えたのか。いつからお母さんはいつでも優しい存在になったのか。謎である。
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シリーズ「発達障害かもしれない子どもと育つということ。」は、毎月15日にアップ予定です。
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