2015.10.05 Mon
この作品は2011年11月から翌年5月にかけて放映された全131話のSBS連続ドラマ。最近、テレビで再放送していたのでさっそく見ることにした。私がこのドラマを見始めた最大の理由は、主演の年長者カップルがチョ・ミンス(左端)とパク・サンウォン(右端)だったからだ。二人は20年前のSBSの代表作「砂時計」でも共演している。その時は、パク・サンウォンが検事を目指して勉強中の大学生ウソクを演じ、チョ・ミンスがけなげで芯のある下宿屋の娘ソニョンを演じた(本欄43参照)。そんな二人が20年の歳月を経て、どんなカップルを演じてみせるのか、興味があったのだ。なんとなく心温まるホームドラマかと思っていたが、予想以上に辛苦あり、陰謀あり、涙ありの人生ドラマだった。
それぞれの30年
30年前、チャン・スネ(俳優チョ・ミンス)とク・ジェホ(パク・サンウォン)は愛し合う仲だった。ところが、ジェホの母親ジョンオク(ユン・ソジョン)が二人を別れさせた。その理由は、スネが孤児だったから。ジョンオクは「前途有望な大学生の息子が、素性も知れない女にたぶらかされている」と思った。母親から反対されたジェホが家出してスネと同居を始めると、ジョンオクはますますその思いを強くする。そして、ジェホが留守の間にスネを暴力的に追い出してしまった。
ジェホはスネを捜したが、見つけられなかった。スネが突然姿を消した理由がわからずひどく落胆する。母親のジョンオクは、失意の息子がスネを早く忘れられるようにと知り合いの娘と結婚させた。しかも、強引に別れさせたスネが実は妊娠していたことを知ると、生まれて間もない赤ん坊をさらってきてしまう。そして嫁に頼んで遠い親戚の子どもに仕立て、戸籍上は妻との間の長男サンヒョク(チェ・ジニョク)として登録し、育てさせた。
ジェホはサンヒョクが自分の実子であることを知らない。真実を知っているのはジョンオクとジェホの妻だけだ。だが、妻も数年後に病気で死んでしまった。ジェホは亡き妻との間に生まれた次男ジュニョクに対しては子煩悩な父親になれたが、サンヒョクに対してはなぜか同じような愛情を注いでやることができなかった。その上、ジュニョクがサンヒョクを迎えにいって交通事故に遭ってからは一層サンヒョクを突き放すようになった。ジェホは事業を起こして社会的には成功を収めることができた。しかし、心の中はいつも満ち足りず、虚しさを感じながら生きてきたのだった。
スネの人生
一方、スネはもっとしんどい人生を送ってきた。赤ん坊をさらわれた後、警察に届けて捜したが、ジョンオクが自分の犯罪を金の力で隠ぺいしたので見つかるはずもなかった。孤独な身で寄る辺のないスネにとって、その悲しみはいかばかりか。それからというもの、スネは放浪しながらやっと生きてきた。だが、ついにそれも力尽き、束草(ソクチョ:東海岸)の海に身を投げたところ、ある男性に救われた。それがコンニムの父親だった。
コンニムの父親スチョル(ソヌ・ジェドク、写真)は素朴で優しい心根の持ち主だった。妻を亡くし、貧しいながらも一人で娘のコンニム(ジン・セヨン)を育てていた。スチョルとスネはやがて親しくなり結婚した。ところが、幼いコンニムはスネを母親として受け入れられない。ある日コンニムは、親への反抗心から家を出てしまう。そして、コンニムを捜しにいったスチョルが交通事故で死んでしまうのだ。スネにとっては生きる気力がわいた矢先の悲劇だった。
スチョルが亡くなった後も継母のスネはコンニムから相変わらず憎まれた。だが、スネは高校生のコンニムのもとを去らなかった。それが夫への恩返しだと思ったからだ。スネは、“自分のせいで父親が死んだ”と思い傷ついたコンニムを励まし、辛抱強く愛情を注いだ。そのうちコンニムもスネに対して心を開くようになる。二人はソウルに上京し、スネは知人のチキン屋さんで働き、コンニムは苦学して作業療法士の資格を取った。二人は互いに励まし合いながら、人一倍仲良しの母娘になった。
母ジョンオクの思惑
こうして30年後、奇跡のような運命的出会いが起こる。まったく別々の人生を歩んできたジェホとスネが再会するのだ。そしてこともあろうに、それぞれの子どもであるサンヒョクとコンニムも同じ頃に出会い、愛し合う仲に。当然のことながら、この二組のカップルがうまくいくにはあまりにも複雑な問題が横たわっている。スネとジェホが再会するあたりまではドキドキしながら見ていたが、後半になるとそうもいかない。次々に降りかかる難題と複雑な関係に頭をひねり、見るだけでも疲れ果てる展開になった。
中盤にさしかかってからのもう一人の主人公がジェホの母親ジョンオク(写真)である。そもそもすべての問題の始まりは、ジョンオクが息子とスネを引き離したことに起因する。ジョンオクの悪事は数えきれない。30年後にこの二人が再会したために、ジョンオクは昔の悪事(子どもを奪って“養子”にしたこと)がばれるのを恐れ、さらなる悪事を重ねるのである。いつも危機になると自分の部屋にこもってあれこれ企み、行動する。このジョンオクのエネルギーと行動力だけは見習いたいものである。
「ジョンオクはなぜそこまでやるのか?」という問いが湧いてくる。だが、彼女の行動を支える動機はいたって単純だ。それは子どもの幸せであり、孫の幸せのためなのだ。ジョンオクはある意味で戸主制下を生きた旧世代の象徴である。ドラマでは「洗練されて、教養はあるが、子どもの問題に関しては利己的」(SBSホームページ)な人物として設定されている。ジョンオクにとって“幸せ”は、個人的なものではなく、家族(共同体)の利益と繁栄につながってこそ本物なのである。幸せの価値観はそれぞれの自由だが、そのために手段を選ばず、周りの人々に犠牲を強いるのは良くない。
一方、コンニムは自己犠牲の精神があまりにも強すぎる。サンヒョクの実母がスネであることが明らかになった後、コンニムはスネがジェホと結婚して幸せになれるように、サンヒョクとの結婚を放棄するのだ。周りがいくら説得してもその決心を曲げようとしない。当のスネがコンニムとサンヒョクとの結婚を願い、それが自分の幸せであると思っているにもかかわらず、である。
それでもドラマを見る理由
ドラマの中盤を過ぎたあたりから、登場人物たちの行動に説得力が感じられなくなってしまった。私のパートナーはテレビに向かってやたらと文句を言い出した。たとえば、「みんな嘘つきだ。家族の間で本当のことはまず言わない」、「あのばあさんの犯罪がすべての原因だ!」、「自分を犠牲にすることを正当化している」、「なんでこんなとき弁護士に相談しないのだ!」・・・と、延々と続く。そして私も「男たちは問題にぶち当たるといつも酒を飲んでつぶれてる!」、「あんな男(サンヒョクのこと)は捨ててしまえ!」などと加勢する始末。それでも毎回、「これはドラマなんだから」と言って思い直すのだ。
終盤、過去の悪事が発覚して苦境に立たされたジョンオクが、「もうどうしようもない、死にたい」と言って息子の前で弱音をはく場面がある。この時のジェホのセリフが興味深い。「お母さん、そんなこと言わないで下さい。悪さをしたなら事実を認めて謝罪しなければ・・・」と諭すのだ。これはいろんなドラマにも登場するセリフである。韓国人の一つの心性を表しているのではないだろうか。韓国を理解するためにドラマが役に立つ、という日頃の思いを強くした。ちなみに、ドラマは終盤に入ると意外な展開が待ち受けていて、ぐっと面白味が増す。
俳優チョ・ミンス
スネを演じたチョ・ミンス(1965~)は、1980年代の初めにCFモデルとして芸能界活動を始め、86年にドラマでデビューした。特にドラマにこだわっていたわけではないが、脱ぐシーンが多い映画を避けているうちにドラマが活動の中心になったという。しかし、このドラマの後で、キム・ギドク監督の映画「ピエタ」(嘆きのピエタ)の主人公チャン・ミソン役(写真)を演じ、世間をあっと驚かせた。
この映画は第69回ベネチア国際映画祭で黄金獅子賞を受賞した有名な作品である。チョ・ミンスはこの映画に出演した理由を「自分の可能性を模索したかった」と語る。その思惑は見事に成功した。彼女は、主人公チャン・ミソンという役柄を「母性」としてではなく「女」として解釈し、演じたという(キム・スジン/アジア経済2012.9.22)。ドラマの後半はこの映画の撮影と重なっていたそうだ。そう思ってみてみると、その頃のスネは、役柄とは関係なしにどことなく生き生きとして見える。
チョ・ミンスは自分のセリフを完全に覚えるだけでなく、相手のセリフも覚えて撮影に臨むという。演技に対するどん欲さを知ってますます好感をもった。今後の活躍が楽しみな俳優の一人である。20年後にまたチョ・ミンスとパク・サンウォンがカップルで共演するドラマを見てみたい、というのが私の個人的な願いである。
写真出典
http://m.zum.com/news/entertainment/934143
http://m.zum.com/news/entertainment/1499845
http://m.zum.com/news/entertainment/2011802
http://www.asiae.co.kr/news/view.htm?idxno=2012092117111710594
カテゴリー:女たちの韓流
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