2011.05.17 Tue
この春、井上廣子さんがドイツのドルトムントで参加された展覧会について、ドイツ在住の香川檀さんが報告してくださいました。(miro)
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◆展覧会名:film4arts : Film im Dialog mit Bildende Kunst
(film4arts:アートと対話するフィルム)
◆会場:ドルトムント・キュンストラーハウス
◆会期:2011年4月8日~5月13日
◆詳細情報のウェブ:http://www.khdo.de/en/exhibitions/exhibitions2011/film4arts_en.html
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関西とドイツ各地を拠点に活動する井上廣子さんが、ドイツ西部の都市ドルトムントで4人展に参加した。場所は、非営利のアーティスト・イン・レジデンス「キュンストラーハウス」。入ってすぐの大きな一室を使って、写真をベースにした平面作品やライトボックスと、フィルムを組み合わせた会場構成で、いかにも彼女らしい静謐で瞑想的な空間をたちあげていた。
ドイツの精神病院の窓を撮ったモノクロ写真による《inside-out》シリーズから4点のライトボックス。作窓のモチーフが現実の会場の窓と見事に呼応した、光と影だけのモノクロの壁面に続いて、正面奥の壁には、阪神大震災から15年たった神戸の、かつての盛り場を撮ったカラー写真シリーズが。そして最後の壁面には今回、初公開となる《Mori(森)》の写真シルク・プリントとフィルム作品。それはどれも、隔離や災害や戦争といった社会の影の部分である場所に赴いて、そこで撮影したものである。
新作の《Mori》は、オランダ国境に近いドイツの森に取材した。ここは、第二次大戦末期に戦場となり、イギリスの若い兵士たちが落下傘で降下して、何千人も命を落としたところだという。写真パネルは、黒々とした木々がたしかに見えるのだが、あの精神病院の窓のように、靄のようでもあり薄いヴェールのようでもある白い紗がかかって、ぼんやりと、現実の空間性をうしない凍りついている。壁に向き合う柱に投影された映像は、この森で拾ってきた木の葉がひらひらと舞い散るさまを、その影だけ捉えて作品にしたもので、静かな会場で唯一、動きを見せている。それはまた、空から散り落ちてくる生命の破片(かけら)のようでもある。映像には、森のなかを歩く、ざっく、ざっく、という足音がかぶせられ、観る者はこの凍てついた森に、みずから分け入っていくような感覚に捕われるのだ。
とはいえ、この森はかならずしも「死の森」ではない。窓が、たとえどんなに暗い部屋のそれでも、つねに自分を守ってくれつつ外部との繋がりや自由への希望を暗示するものであったように、森も、その深い懐で死者を抱き、精霊に変え、そして自然の生命を育んでいく。森は――とくにドイツの森は――そうした救いの場でもあることを、この作品は感じさせる。
国外に赴いて制作すると、画材や溶剤などが日本のものと異なり、思ったような効果が出ないことがある。そんな苦労を乗り越えて、今回の《Mori》は、ビデオ作品への新たな展開とともに、彼女が本領としてきたシルクプリントの写真インスタレーションにも、今後の大きな可能性を感じさせてくれる展観だった。
(香川檀 かがわまゆみ 美術批評)
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