アートの窓

views

7430

「無主物」(作・壷井明) 〜「福島原発告訴団」告訴状提出を見守りながら出会った絵

2012.11.21 Wed

 

先日、一時退院した母と過ごすため、私(A-WAN すずき)は福島の実家に帰省していました。
そのとき出会った「無主物」というタイトルの絵についてレポートします。

2012年11月15日、「福島原発告訴団」は、原発事故を起こし被害を拡大した責任者たちの刑事裁判を求め、福島地検に1万3262人分の告訴・告発状を提出しました。東京電力福島第一原子力発電所の事故により被害を受けた人々が告訴団を作り、訴えたのです。ちょうど帰省していた私も福島地検に駆けつけました。

WANサイト上でも皆さんの参加と支援を呼びかけたこの「福島原発告訴団」第二次告訴は、6月の福島県民1324人による告訴を合わせると、全国47都道府県に広がる1万4586人の告訴という、かつてない大規模なものとなりました。

通路脇の植え込みでガイガーカウンターが1.51マイクロSv/hという高い放射線量を示す中、信夫山の麓にある福島地検の入口前に、全国から約250人が集まり告訴状提出を見守りました。

そこで「無主物」というタイトルの絵に出会いました。
告訴状提出を見守る中、絵について地元の方に尋ねられ、それに答えた作者 壷井明さんのお話をレポートします。

 

 無主物 Ⓒ壷井明 2012年  ベニヤ板に油彩 各130×98cm  (プリントは323×106cm)

※商業目的での転載・複製を禁じます

—「無主物」というタイトルについて

昨年8月、二本松市の「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部」が、東京電力に芝生に付着した放射性物質を除去するよう求めた訴えがあった。
東電側の弁護士が「それはもう自分たちのもとから離れて芝生にくっついちゃっているから、それは自分たちのものではなく『無主物』である」と言った。だけどその汚染は福島第一原発の爆発がなければ無かったものなのだから、ものすごく無責任だと思った。そのことに怒りを覚え、この絵を描き始めた。

 

— 作品について

三枚の絵でひとつの作品になっている。
右は、3月11日の事故以前からずっと続いている、被爆労働をする作業員の方々とそこから得る利益を独占している人間の関係を描いている。
中央と左は、3月11日の事故以後、被爆してしまったさまざまな人や動物たちに対してどうしたらいいのか、疎開についてどうしたらいいのか思案する中、〝こうあってほしい〟という願いのようなものも含めて描いた。

 

— ディテール

       無主物(部分)Ⓒ壷井明 2012年

右の構造物は爆発を起こした4号機。ここにたくさんの作業員の方が駆けつけている。爆発事故直後原発に入って作業した50人ぐらいの方々は名前も分からずものすごい被爆をしたと聞いた。事故以前から原発の作業員の方が白血病になっても、労災と認められないことも知った。「誰かの健康被害を土台にして原発を動かし、そのことで利益を得ている人が特権的にいる」という仕組みが見えてきた。
駆けつけている作業員の方はみんな、心臓から〈血〉を流している。4号機の後にあるのは大きな心臓で、作業員の人たちの心臓からはチューブが出ていてこの大きな心臓に連結され、その新鮮な温かい血液が大きな心臓にプールされる。そこに溜め込まれた血液は人造的に引いた大きな動脈から、夏の服装をしている男の胃袋に流れて込んでいる。場面は冬だが、夏服の男には温かいたくさんの血液が流れてくるので全く寒くない。

夏服の男から出ている血管には分岐があり、そこには七個のテレビがつながっている。3月11日の爆発事故直後に、被爆というものを軽視させる情報を流したテレビの画面は、当時枝野官房長官が「ただちに健康に被害はありません」と言ったときの瞬間。
東京にいると被爆についてどのくらい危険なのかということも、福島で今こうしていること(福島地検に告訴するために人が集まっていること)も、未だに全く知らされないし報道もされない。未だに何も変わっていない。
そのことも怒りの対象になっている。

無主物(部分)Ⓒ壷井明 2012年

左は子どものいる夫婦、妊娠していて出産を控えた夫婦、もっと若いカップルや中学生や子どもたちの被爆の問題を描いた。

「自分は避難したいが、中学生なので避難しても一人で生活することができない。どうしたらいいですか」というネットの書き込みを見た。子どもや若い人たちはインターネットから情報を得て「被爆するとはどういうことか、原発とはどういうものか」怖さを知っているが、親世代より上の人はそういう情報に疎い。

無主物(部分)Ⓒ壷井明 2012年

 

 

 

 

 

右の部分は〝こうあってほしい〟という願いを描いている。

もう一人の夏服の男は長い間、新鮮で温かい血液を独占し続けて来たために、年老いて髪が白い。それまでずっと独占を続けてきた人間が独占するのを止めて、新鮮な温かい血液を地面にばらまいて共有しようとしている。
寒い冬、その温かく新鮮な血液に動物たちが集まって来ている。
20キロ圏内ではたくさんの牛や馬やなど家畜が死んで、野生のクマや鹿、イノシシも汚染された。魚も汚染された。被害を受けた、たくさんの動物や生きものたち。

〝こうあってほしい〟という願いは、夏服の男が独占してきた〈血〉=〝富〟をみんなに分け与えること。

白髪の夏服の男には架空の3本目の腕が生えていて、女の子に赤い風船を差し出している。
この風船は、地面にばらまかれた血液と同じ色をしている。
なぜなら、この環境から逃れてゆくための風船は、独占されてきた〈血〉で作られたから。
原発を作り続けてきた社会の仕組みから、現に原発がある世の中や汚染さた場所から、抜け出すための赤い風船。

無主物(部分)Ⓒ壷井明 2012年

 

大人や子どもが風船をつかんで逃げていく。
しかし疎開といっても、土地から離れるということはものすごく不安なこと。疎開すれば全ての問題が解決されるということではない。
風船を持って飛び立っても、不安でこの先どうなるかわからない。
どこにたどり着くかもわからない。

だけどとりあえず子どもたちは逃がしたい。

 

人々の避難や子どもたちの疎開の問題は、これだけお金があっていろんなインフラがある国なのだから、最初に上手く対処すれば絶対上手くいったはずだ。今からでもきっと上手くいくはずだ。

だけど現実はなかなか上手くいっていない。たくさんの人がデモや裁判で訴えているがいまだ達成されていない。
白髪の夏服の男が今まで独占してきたことを手放し、人々や動物たちと共有することを決めて自らの血管に刀で切り込みを入れたとき、朝日が登ってきたという場面を、祈りを込めて描いた。

 

— この作品をどういう人たちに見てもらいたいか。また、この作品を大判のプリントにしたのは何故か。

去年の8月にこの絵を描いたが、画廊やギャラリーに置くようなものではないと引かれてしまい、発表する場がなかった。毎週金曜日、首相官邸前に人が集まっていると聞き、今年の3月11日から官邸前のデモに現物の絵を持参していた。
11月26日、「ふくしま集団疎開裁判」の審尋(審理)に伴い仙台市内で行われる「仙台アクション」に参加する人のために、東京からバスが出ることを知った。それに参加しようと思い、バスに絵を載せられるかたずねたところ「保障できない」という回答だったため、急遽大判にプリントアウトした。今日もそれを持参した。

 

― 作者・壷井明さんについて

壷井明さん

東京で介護職に就きながら絵を描き続けている。
「無主物」という東電側の弁護士の無責任な言葉に怒りを覚え、この絵を描いた。
原発事故の責任を問う活動を応援したいと思い、駆けつけた。
若い人たちに、被爆や子どもたちの疎開の問題にもっと関心をもってもらうためには、言葉ではなく、絵画や音楽のような、パッと目や耳から引きつけるものが入口になるのでは、と思う。
原発事故から時間が経ち、いろんなことがだんだん明らかになるにつれ、この絵に描き足してきたので、絵はだんだん変わってきて、描かれる人も増えていった。
これからも描き続けて、WEBサイトにアップしていきたい。

 

—絵についてのお話を熱心に聴かれていた方に感想をうかがいました。

○ すばらしくでっかくて、見るものの胸に訴える力を持っている作品だと思う。私は以前から環境問題に関心を持っていた。原発事故には怒りを覚える。(福島市 W.Mさん 女性)

○11月15日、福島原発告訴団に参加して考えました。原発で発電すれば高レベル放射性廃棄物が発生します。これを後の世代に残していくことに誰も責任をとらない。国も政治家も学者も発電業者も財界もメディアも検察も裁判所も国民も、誰も責任をとらない。原発は人間を動物に変えてしまった。人間から責任感を奪ってしまった。100年もすれば今生きている人間はこの世から消えてしまいます。が、今世紀に発生させてしまった原発廃棄物は100年後、いや10万年後も残っています。残された原発廃棄物と100年後の人間の姿を、壷井さん、ぜひ描いてください。(福島市 S.Sさん  70代男性)

*  *  *  *  *

東京で電気を使っていた私はこの絵にどう描かれるのだろう。私の中で被害と加害がオセロのようにクルクル反転します。
「東京から福島を応援したい」という思いを、福島の人はどう受けとめるのだろう。
「逃げろ、逃げろ、という言葉が辛かった」という友人の言葉がよぎります。
原発事故によってさまざまな場所、立ち場や状況に分断された私たちがこれからどうしたらいいのか、考えたり思いを伝えたりするきっかけになればと思い、この作品をレポートしました。
作品についてのご感想やメッセージをぜひawan@wan.or.jpまでお寄せください。

 

(書き起こし・レポート:すずき)

カテゴリー:アートトピックス