「愛国的」な空気の息苦しさを、ジェンダーの観点から考えました。
現代のバッシングの暴力や、「女」「韓国」「中国」「在日」といった存在への攻撃は、はっきりした理由をもたない、「誰でもいい誰か」に向けられた暴力のように見えます。こうした暴力の成り立ちを、愛国的な空気と他者への無関心がセットになった社会的感性と見立て、この100年の間に現れた物語を分析することを通じて明らかにしようと試みました。
近代の物語は、「伏字」という自主的な検閲との関わりを深くもっているので、そこに注目し、出版を禁止されそうな文字の一部が○や×にされた「伏字」という死角を含んだ文章を読むことが、マイノリティを「見えない他者」に変える暴力と結びついていることを論じています。
女性を「そこにいるのに、いない人」として扱う排除の力は、他者への関心をもたず、ゆるやかにナショナリズムに自分を委ねてしまう一人一人の「私」から生まれてきました。そうした延長上にある現代の「愛国的無関心」を変化させるための視点を探った一冊です。(著者 内藤千珠子)
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