マクロビオテックスを知って
「乳がん」になった私が出会ったHさんは、「マクロビオテックス」を熱心に実践している女性だった。
彼女は私に、肉類はもちろんのこと、卵と乳製品を一切止めるようにいい、「マクロビオテックス」の基本である 〈陰陽〉のバランスがとれた食事をすすめてくれた。
これまでの私の食べ方は、ひどく〈陰〉の方に傾いていたのだという。このアンバランスが病気になる原因となるのだと。
〈陰陽〉とは、すべての食べ物には、〈陰=遠心的〉、〈陽=求心的〉であるという考え方だ。食べ物によって異なる、背反する性質の〈陰陽〉を知り、そのバランスがとれた食事を考案し実践することが重要だとされている。野菜類は収穫できる場所や時期によっても変化し、調理法によっても、〈陰陽〉の強さを加減できるらしい。
この理論を聞いても、すぐには理解できなかった私は専門書を買い込んだ。
「マクロビオテックス」は、欧米諸国でも「玄米菜食」として知られている。この食事療法の生みの親である桜沢如一氏が、日本の伝統的な食事をベースに中国の易の思想などを取り入れて考案したものだ。それを弟子にあたる久司道夫氏がアメリカで発展させてきた。
基本的な考え方は、次のようにとてもシンプルだ。
①自分が住む土地の気候や地理条件、自分の活動レベルや生理状態が、自分にとって必要な栄養を決定する。
②一日の摂取量を未精白穀類から50~60%、野菜から25~30%、残りを豆類、海藻類、スープからとり、肉類は食べない。
③ある種の食べ物を食べると、血液の質はある方向に変化する。血液の質が変化すれば、おのずと脳や神経系、身体全体の細胞の質が変わってくる。この変化は肉体的、精神的機能を変化させ、人間の行動、表現、思考、感情のすべてに影響する。
単に人間が健康に生きるために、何をどのように食べるべきかだけではなく、その根底には、世界平和への願いと、世界各国の環境と食べ物の相関関係を考える理念があることを知った(久司道夫著『マクロビオテックス健康法』ほか)。
「マクロビオテックス」の料理教室も開いているHさんは、
「これからは〈陽〉の食材を積極的に採るようにしてくださいね。それに、玄米を食べ始めると、だんだんイライラしなくなって、気持ちの面でも落ち着きますよ」ともいう。
マクロビオテックスに魅了された人ではなくても、がんを患っているひとたちが「玄米信仰者」となることで、病気を克服した話は何冊もの本となり出版されている。
自分自身もぜったいにがんなんかに負けたくないと思った私は、マクロビオテックスを意識しながら、玄米菜食主義のひとたちの真似をして、それまで食べていた白米を玄米に変え、根菜類を意識的に多く摂るようにしていった。
すると、驚いたことに快便という結果が、すぐについてきた。するりと排泄できるうえに、ほとんど臭いもない。かつては便秘と軟便を繰り返すことに慣れてしまっていたが、それもまったくといっていいほどなくなった。
玄米を中心にした、ゆるい「マクロビオテックス」的生活を半年ぐらい続けてみると、自然と、甘い物やお酒に対しての執着心が薄らいできた。
コンビニエンスストアで、ずらりと並んだデザート類やお菓子を見ても、不思議と気持ちはそそられない。口がさびしいときに、よくほおばっていた、ミルクチョコレートも買わなくなった。
以前は、砂糖をふんだんに使った甘いスイーツを頬張ると幸せを感じ、疲れが取れるような気がしていた。だが今ではむしろ、甘さと脂分が多すぎるのが気になる。
それにもまして、あれも食べたい、このレストランにも行きたい…という欲が、徐々にそぎ落とされていった。
わざわざ外食しなくても、なるべく近郊で採れた新鮮な野菜を中心に、手早く調理し、素材の味をかみしめながら食べる。
それだけで、大げさにいえばこうして生きている幸せを感じられようになった。
また次第に、外食での脂っぽく濃い味付けが、だんだんと自分の舌に合わなくなってきた。
食べ物がどれほど私のからだに作用しているのか、具体的に見ることはできないが、不思議と、それまでの体調不良や感情の乱れが少なくなってきたと、実感できるようになった。
2016.03.10 Thu
カテゴリー:乳がんを寄せつけない暮らし / 連続エッセイ