いま、日本の政府与党の政治家たちは、政治を行ってはいけない状態にあります。自民党が2012年に発表した自民党改憲草案が、もはや近代「憲法」と呼べない代物であるのと同じように、現在遂行されている与党が行っている政治は、もはや政治と呼んではいけないと考えています(むしろ、破壊活動)。なぜなら、現行憲法の下で規定されている議会制民主主義おいては、当然ですが憲法に定められた機能を超えた行為を政治家に許していません。それにもかかわらず、現在の与党は、最高法規である憲法違反の立法をし、憲法99条に定められた憲法遵守はもちろんのこと、憲法を擁護する義務があるにもかかわらず、臆面もなく憲法を侮蔑しているからです。
こうした異常な事態に対して、いち早く批判の声をあげられたのが、樋口陽一先生(本の帯にあるように、決して宣伝ではなく、文字通りの護憲派の泰斗!)と小林節先生(かつて自民党改憲にも関わっていらっしゃった、改憲派の重鎮!)でした。本書ではそのお二人が、憲法はちょっと難しいと思われる方にも、一頁一頁、本当に分かりやすく説明してくれます。現行憲法ができた背景(押し付け憲法論にもきっちり応えてくれます)、立憲主義にとって「個人」という考え方が思想的にも政治的にも歴史的にもどれほど大切か(自民党改憲草案では、「個人」が消去されたことの重要な意味を解説してくれます)、そして、「金儲け主義」(小林節先生の言葉)を憲法に堂々と書き込み、その「金儲け主義」によって崩壊寸前の文化や伝統や、「家族」といった美辞麗句を「癒し」(樋口陽一先生の言葉)として強調し、じっさいには自己責任論で、国家無責任論を市民に押し付ける、それが今の憲法「改正」の真実であると、お二人の対談のなかから明らかになります。
かつて自民党政治家との付き合いがあった小林節先生だからこそ、わたしたちの現在の「真実」が赤裸々に語られ、憲法13条こそが日本国憲法の精神そのものであると主張し続けてこられたフランス憲法がご専門の樋口陽一先生だからこそ、いまの憲法破壊政治の恐ろしさは、わたしち一人ひとりの個人への攻撃そのものである、ということがはっきりと示された、これはもう憲法本の名著であるばかりか、市民のためのテキストです。(岡野八代)
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