*財産はどのような割合で分けるものですか。
ケース1結婚以来、妻はずっと専業主婦でした。とはいっても、ボランティア活動だ女子会だといって外出が多く、家事は手抜きもいいところでした。出来あいの物を買ってくるいわゆる「中食」も多かったですし、洗濯物の畳み方も雑。部屋にもほこりが目につくほど掃除も不十分でした。その間私は汗水たらして仕事をしてきました。離婚にあたり、財産分与の割合が2分の1と聞いていますが、納得できません。
ケース2結婚前から夫も私も芸術家として活動してきました。結婚した後も、自分の収入、預貯金を管理し、必要なときに家計のため2人でお金を出すというふうにしてきました。同居期間中、もっぱら私が家事をしてきました。離婚にあたり、夫から私の預貯金も合算して財産を分与すべきだと主張されていますが、公平とは思えません。
撮影:鈴木智哉
ケース3私は一部上場会社の社長で、数百億円の財産を築きました。妻は私が財界人として地位を築いたことに貢献したなどと主張していますが、ただ私的なパーティに出席しただけで全然そんなことはありません。それなのに妻から法外な財産の分与を請求されています。
◎原則は2分の1
財産分与につき、精算する割合は、原則2分の1であることは以前にも書きました。昔は、専業主婦の場合、妻が財産の形成に貢献した割合を4分の1とか3分の1にする審判や判決もあったようです。しかし、家事労働をいくらと換算すればいいのか、その評価は難しいもの。また、「夫が仕事をし妻が家事をするものだ」といういわゆる性別役割分業の考えを夫婦双方が持っていて、妻が結婚や出産を機に仕事を辞めてしまうことがまだあります。そうなると、妻はなかなか蓄えもしていないし、就職したくても夫ほどには稼げないことが多いです。和気あいあいの夫婦ならこの所得獲得能力の不均衡がみえてこないかもしれませんが、離婚となると途端に経済的に重大なダメージとなることを思い知るはずです。妻の自業自得?いやいや、妻が無償の家事(夫から見るといかに不十分であっても)を果たしてくれたからこそ、夫は仕事にまい進できたわけです。そんなことを念頭に、専業主婦でも、家裁実務上、寄与割合は原則平等とされています。
ですからケース1の場合、夫が頑張って主張してもおそらく精算割合は原則の2分の1となるでしょう。
◎別ポケットの上、収入が高い方が専ら家事をしていた場合
ところが、女性の方が収入も高く、その上家事もしてきた、それぞれの貯金はそれぞれが管理してきた、というケース2のような事案も増えてきました。その場合でも平等の割合で精算となると、かえって公平ではないような気がします。家事をどれだけしたかなど主張立証がなかなか難しく、2分の1の割合が修正されることは少ないですが、ケース2のもとになった事案で、婚姻前から妻が童話作家、夫が画家として活動し、18年の婚姻期間中それぞれが各自の収入、預貯金を管理していたこと等を踏まえ、それぞれの預貯金、著作物の著作権についてはそれぞれの名義人に属する旨の合意があったと考えるべきであるとして、預貯金、著作権は財産分与の対象にならないとしました。そして、共有の不動産については、家事労働を専ら妻がしてきた等の婚姻生活の実態を踏まえて、妻の寄与割合を6、夫の寄与割合を4として、夫には妻に約3010万円を支払い、妻は建物持分につき夫に持分移転登記手続をせよとの判決がなされました(東京家審平成6年5月31日家月47巻5号52頁)。
◎巨額の資産を築いている場合
ケース3の元となった事案で、一部上場会社の社長である資産家の夫は、妻も出席したパーティなどは特にプラスすることに役立ってはいない等と言いましたが、判決はその点は斥けつつも、妻が具体的に共有財産の取得に寄与等していないことから、妻が寄与した割合は必ずしも高くないとし、扶養的な要素も加味して、共有物財産の価格合計約220億円の5%である10億円の分与を命じました(東京地判平成15年9月26日判例秘書登載L05833916)。
財産分与に関する問題はまだまだたくさんあります。次回以降も続けます。