
ドラマ「冬のソナタ」をきっかけに日本で韓流ブームが起こって約13年。初めはヨン様(ペ・ヨンジュン)に心を奪われたが、そのうち韓流ドラマにのめり込むようになったという女性たちも多い。この韓流第一世代のドラマファンたちは、この間、どのように過ごしてきたのだろうか? 韓国ドラマを見続けるということは、ただ時間と金を浪費していることなのだろうか?
もちろん、そんなことはない。これはれっきとした趣味であり、生きる楽しみや力の源泉になる。それに、以前もどこかに書いたが、「日本で韓国ドラマを見る」ということは、個人的な趣味にとどまらず、結構いろんな社会的意味をもっている。まず、ドラマを通して韓国の人と文化、社会や歴史に対する関心・親近感が養われる。それが家族や友人にまで伝染するのだ。K-POPや韓流に関心をもつ高校生や大学生たちにきくと、たいてい母親や祖母が韓国ドラマのファンだったりする。近年のように嫌韓とかヘイトスピーチが横行する中で、その価値は一層高まるのである。

韓流ドラマ企画展
ところで、昨年新大久保の高麗博物館で開かれた企画展「韓流―女性たちが拓く新たな交流~韓国ドラマで見るジェンダー~」は、ドラマファンの進化を示す画期的な催しだった。開催期間は4月下旬から8月上旬までの約3か月(休館日を除くと実質76日)、総入館者数は857人だった。
この催しを担ったのは<韓流の会>の女性たち(写真)。東京の新大久保にある(NPO法人)高麗博物館の研究会の一つとして2011年にスタートした。以来、定期的に韓国ドラマの勉強会を重ね、その成果を企画展という形で披露した。メンバーの出入りはあったが、最終的には5人でパネルを制作した。
メンバーの一人である遠藤久美子さん(右から2人目)によれば、この展示の目的は三つある。「その一つは、韓流ブームが大衆文化交流の一つとして日本とコリアの交流の歴史の中に位置付けられることを高麗博物館の内外に示すこと、二つ目は韓国ドラマには社会的な内容のあるものも多く、韓国の歴史や韓国社会を理解するための要素でもありうることを提起すること、三つ目は韓国ドラマをジェンダーの視点で紹介することで韓国社会における女性の状況を知り、日本の女性との違いや共通の問題等を、ドラマを通して明らかにすること」(遠藤久美子「<韓流-女性たちが拓く新たな交流>の展示を終えて」『高麗博物館会報』第43号2015.11.1)である。

会場には19本のドラマと新大久保の変遷や年表など23枚のパネルが展示された。また、手作りの「冬ソナコーナー」や関連書籍の展示もあった。ドラマの中には韓流の火付け役となった「冬のソナタ」と「宮廷女官チャングムの誓い」をはじめ、90年代から最近までのドラマが並ぶ。19本のドラマは以下の通り(展示順)。
冬のソナタ(2002) / 初恋(1996) / 若者のひなた(1995) / 愛の群像(1998) / バリでの出来事(2004) / 砂時計(1995) / 光と影(2012) /ありがとうございます(2007) / 私の名前はキム・サムスン(2005) / 花よりも美しく(2004) / 妻の資格(2012) / 宮廷女官チャングムの誓い(2003) / がんばれクムスン(2005) / 棚ぼたのあなた(2012) / 朱蒙(2006) / 善徳女王(2009) / トキメキ成均館スキャンダル(2010) / 済衆院(2010) / 名家の娘ソヒ(2004-5)
いずれも実力派の脚本家による質の高い作品ばかり。ドラマに描かれている女性像も様々で、リーダーシップが光るものもあれば、自分勝手な夫のもとで苦労させられた女性の物語もある。ドラマの時代背景は紀元前の高句麗から新羅、朝鮮王朝、植民地時代、軍事政権下、民主化運動期を経て、現在に及んでいる。朝鮮半島と韓国の歴史、日本との関係も含んでいる。
これらのドラマを一つ一つ自分たちなりに紹介し、大事だと思う点をクローズアップさせている。短い文章の中に思いが凝縮されているのだ。展示を見ていると、パネルの作り手たちのドラマ愛のみならず、韓国社会に対する関心と共感が伝わってくる。この企画展は、韓流ドラマファンたちがもはや単なる受け身の存在ではなく、能動的な視聴者に成長したことを示すものである。日本の韓流ドラマファンの進化を象徴するイベントだったといってもよいだろう。

講演会としゃべり場
企画展の最中に開かれた講演会としゃべり場には、遠方からの参加者も数人いた。講演会(写真)では私がここに展示されたドラマの特徴と、韓国ドラマのおおまかな歴史について述べさせていただいた。普段は人見知りをする私だが(?)、なぜかドラマの話をするときはまるで別人のように、なりふり構わず夢中にしゃべってしまう。そのせいか、参加者たちもじっと聞いているわけではなく、隣の人とおしゃべりしたり、笑ったりしながら話を聞いて下さる。この日は特に参加者たちが活発だった。話が終わってからの意見交換のときも、フロアからの発言が次から次へと続いた。

この日の活気を引き継いで、しゃべり足らない方々に思う存分語ってもらおうとの趣旨で開催された「しゃべり場」には、8月の炎天下にもかかわらず30人ほどが参加。長野からはるばるやってこられた方もいた。その方が持参してくださったのが、ドラマの感想を書き続けた分厚いノート(写真)。冬ソナをはじめ、視聴したドラマの内容、分析、感じたことなどがびっしりつづられている。こうしたノートが数冊あるとのこと。私としては感動の連続だった。
先の遠藤さんも「しゃべり場」に集まった人たちのことを次のように紹介している。「韓国ドラマを見て朝鮮半島の歴史やハングルに興味を持ち勉強を始めた人、ファンになった俳優のサイトを通じて世界中のファンと繋がった人、これまで500本以上の韓国ドラマを見た人は<冬のソナタ>のフレーズを韓国語でほとんど覚えたと皆を驚かせ、それらはまさに韓流ブームの広がりと深さを感じさせるものだった」(遠藤久美子、同上)
2000年代に韓流ブームが巻き起こった当初、韓流ファンの中心となった中高年女性たちが注目され、その現象が研究の対象にもなった。これらの女性たちがその後どのように進化を遂げてきたかについて、改めて注目する必要があるだろう。また、ここで紹介したドラマノートのように、ドラマファンたち自身が個々に培ってきたものや蓄積してきた韓国ドラマに対する知見をみんなで記録し、社会的に広めることができればと思う。
<韓流の会>は、今年(2016年)から<韓流文化研究会>と改称して活動を継続中とのことである。今後の活躍を期待したい。また、昨年の企画展で使用したパネル(全23枚)は、一枚1,000円で貸出ができる。ぜひあなたの街でも韓流ドラマ企画展を開催してはいかがだろうか。
問い合わせ先 高麗博物館( 村上 / 吉永 )
?169-0072 東京都新宿区大久保1-12-1第二韓国広場ビル7階
電話&FAX 03-5272-3510 / e-mail kourai@mx7.ttcn.ne.jp
開館時間 12~17時 (休館日 月・火曜日)
*この原稿は「ふぇみん」2015年7月15日号に掲載した「韓流はどこへ:過去・現在・未来(上)」(http://www.jca.apc.org/femin/)を加筆修正したものです。
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